行政データで“社会課題”を解決--神戸市が推進する「データビジュアライゼーション」 - (page 2)

 3つ目のキーノートでは、オープンデータを事業に活用する事例として、バルセロナのスタートアップ「Social Coin」の取り組みが、同社と協業するNTTデータ ITサービス・ペイメント事業本部の高野恭一氏より紹介された。事業内容は、Twitterから収集した市民の声をAIで解析し、潜在的な課題を可視化することで解決に向けたアクションにつなげ、報酬としてコインを提供するといもので、アプリも開発されている。

可視化された社会課題を解決した人にコインを提供するSocial Coinの取り組み
可視化された社会課題を解決した人にコインを提供するSocial Coinの取り組み

 関心の持てる社会課題が見つけやすいよう、発言の位置情報やネガポジの色表示、ヒートマップなどデータビジュアライゼーションされているのも特徴だ。さらに、日本でも注目されはじめているSDGs(持続可能な開発目標)に関連する社会課題の分類や分析をAIで可視化する初のプラットフォーム「Citibeats」の開発を両社で進めており、新たなビジネスを生み出すきっかけにもなるとしている。

 市民のツイートを元に社会課題を可視化する方法は秋田県でも実施されている。シニアの話題分析から個食の問題が浮き彫りになるなど、取り組みの必要性を検討する情報として有用であり「市民自身がセンサーの役割を果たしている」と高野氏は説明する。

市民の声から社会課題を抽出する方法について説明するNTTデータの高野恭一氏
市民の声から社会課題を抽出する方法について説明するNTTデータの高野恭一氏

15組が考えた“データ可視化”のアイデアやツール

 神戸ラウンドでは15組がプレゼンをし、オープンデータを利用した様々なデータ可視化のアイデアやツールを紹介した。たとえば、災害時に発見した被害情報を投稿して適切な避難行動に結びつけるアプリや、政治家の発言や情報を可視化するサービス、体調や気分にあわせてランニングルートを自動生成するアイデアをはじめ、特定のエリアの混雑状況をセンサーと3Dシミュレーターで可視化する本格的なデモまで、幅広い内容が発表された。

 中には阪神タイガースの試合内容にあわせて甲子園球場周辺の公共交通の混雑度をシミュレーションするといったアイデアや、メディアアートでデータを美しく見せることで関心度を高めたり、音で表現するといったユニークな発表もあった。また発表から、給食の献立のようなデータが公開されていたり、公衆トイレのデータはまだ少ないといった意外な事実を知ることもできた。

阪神タイガースの試合にあわせた混雑状況をシミュレーションするというユニークなアイデアも
阪神タイガースの試合にあわせた混雑状況をシミュレーションするというユニークなアイデアも
センサーと3Dシミュレーションによる本格的なデモもあるなど幅広い発表内容になっていた
センサーと3Dシミュレーションによる本格的なデモもあるなど幅広い発表内容になっていた

 神戸市のオープンデータから避難施設の可視化と常備品を提案するツールを発表したTableau Japanの田中香織氏は、「データの可視化はストーリーが重要で、一度にたくさん情報を見せても混乱する。どのような順番でどこまで何を見せるか考えるのが大事」と話す。作業をする際にバルセロナ市はデータがCVSで公開されているので利用しやすかったが、日本はPDFやテキストなので手間がかかり、「フォーマットが整理されるだけでもデータを利用する機会は増えるのでは」と提言し、ベストプレゼンテーション賞に選ばれた。

Tableau Japanの田中香織氏アイデアの発表とあわせてデータの活用にはストーリー性や使いやすくすることも大事だと言う
Tableau Japanの田中香織氏アイデアの発表とあわせてデータの活用にはストーリー性や使いやすくすることも大事だと言う

 表彰式に参加した寺崎秀俊神戸市副市長は「データ分析は子どもの貧困などの課題解決にも使えるのではないかなど、その価値を再認識できた。市役所はデータの宝庫だがプライバシーなどの関係でなかなかオープンにできないので、市民に還元する方法をもっと考えていきたい」と述べた。

神戸市副市長の寺崎秀俊氏は本イベントについて「データの価値を再認識することができた」と述べた
神戸市副市長の寺崎秀俊氏は本イベントについて「データの価値を再認識することができた」と述べた

 厚生労働省による統計データの不正が発覚し、行政が発表するデータの信頼性や内容に対してあらためて改善が求められているいま、オープンデータそのものへの関心を高め、利活用できる人材の育成はますます重要になっている。日本でも間もなく小学校のプログラミング教育の義務化が始まるが、オープンデータを利用してその価値についても学べるような機会につなげてほしいものだ。

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