NTTドコモ・ベンチャーズは2月6日、オープンイノベーションを推進するイベント「NTT DOCOMO VENTURES DAY 2019」を開催した。ここでは、各パートナー企業による協業セッションの模様を紹介する。各セッションはNTTドコモ・ベンチャーズ(以下、NDV)の担当者がモデレーターを務め、パートナー企業とNTT側の担当者がパネリストとして回答する形式だが、今回は主要なコメントを厳選してお送りする。
廃校やお城、無人島など1万1000件以上の物件情報を揃え、貸し借りしたい人のマッチングサービスを展開するスペースマーケット。最近は「お寺で社員総会」「映画館でセミナー」など多様な使い方が増え、「レンタススペースの利用は消費者の選択して身近になった」(スペースマーケット 代表取締役CEO 重松大輔氏)という。
NTTドコモは同日、NDVを通じてスペースマーケットに出資しているが、その背景をモデレーターが尋ねると、「協業推進にあたってレンタルスペースを借りて、サッカーの試合を社員同士で視聴したが、非常に盛り上がった。信頼を持てる仲間を過ごす時間は貴重だ。これまでは『何を見るか』だが、これからは『+誰と見るか=共体験』の創出が協業のテーマ」(NTTドコモ スマートライフ推進部 スポーツ&ライブビジネス推進室長の馬場浩史氏)と説明した。
両社へ互いに期待する点を尋ねると、「これまでは閉じたコミュニティで自由に使うのが標準的。そこに5G時代を迎えてコンテンツを自由に流せるのはマストだ」と重松氏。一方で馬場氏は「高帯域でコンテンツを連続配信すれば、新たな空間になる。マルチアングルなどを用いた映像体験の向上や空間体験の向上は、体験の幅が大きく広がると期待している」と回答した。
続けてどのような市場に焦点を当てるか尋ねると、「仲間内で利用するスタイル。SNSのリアル版にコンテンツが加わることで、皆が同じ体験を得られる。弊社社員は(前述したサッカーの試合視聴を)10年後も思い出すだろう。ビジネスとしてもマーケットセグメントとしても面白いものになる」(馬場氏)とビジネスの可能性を強調した。
今後の展開についてスペースマーケットは、「世界中のスペースを分単位で借りられるようにしたい。現在は撮影の会場などに用いられがちだが、オフィスも小分けになり、トランクルームも気軽になるだろう。コリビング(住職一体型の施設)も盛り上がり始めた。スペースシェアリングのプラットフォーマーのNo.1を目指したい」(重松氏)と展望を語った。
米国で省電力&高精度測位が可能な無線技術や製品を開発するLocixは、2018年7月にNDVを通じてドコモの出資を受けている。同年9月下旬にはLocix製の省電力HDワイヤレスカメラと、ドコモのAIを活用した画像認識エンジンを組み合わせて、圃場における病害虫の発生数および種別の特定に向けた実証実験を開始した。
Locixは最初に広範囲にわたってネットワークを構築し、バッテリーは数年間持つ「Ultra Low Power Network」を開発した上で、その技術を応用してHDワイヤレスカメラを低電力で運用する「Dynamic Network Performance」に着手。そして、屋内外の環境センサーでさまざまな情報を取得する「Locix Local Positioning System」と多様な技術を保持している。
他方でドコモは、R&Dと営業、顧客の三位一体で商材化を目標に実験を重ねる課題解決型ソリューション「トップガン」を展開してきた。「今回はモバイルカメラソリューションを課題発見やビジネス検証に取り組んでいる」(NTTドコモ イノベーション推進室 企業連携担当部長の田居夏生氏)。Locix製の省電力HDワイヤレスカメラの応用例は前述した実験に加えて、保育園などで用いる乳児のうつぶせ寝検出に用いられている。
モデレーターが大企業とベンチャーの協業に対する課題を問うと、Locixは「シリコンバレーのベンチャーはエネルギーや熱意を持ち、大企業はスケールや規範がある。両者を掛け合わせることでユニークなソリューションが生まれるだろう。大企業の意思決定プロセスは我々と異なる。日本は『だんだん』だが、我々は即決を優先する。NDVは強い関係を築く姿勢を持っており、多くの課題を乗り越えられた」(Locix CEO&Co-Founder Vik Pavate氏)と協業に至るまでの関係を振り返った。
内包的な企業だったドコモがベンチャーと協業するのは、一種の挑戦ではないかとの問いに、「Locixとドコモは対等な関係だ。協業に至るまではシリコンバレーチームがサポートし、Locixの役割、ドコモの役割を密に話している。『餅は餅屋』ではないがLocixはカメラ、我々はAIで顧客に向き合うことに集中する。理想的なオープンイノベーションの形だ」(田居氏)と説明。
両社に今後の進展を尋ねると、ドコモは「(ソリューションを)全国の顧客に届けた。そこから得たフィードバックで新製品を開発し、品質向上に貢献したい」(田居氏)。「4Gでも充分だが5Gネットワークでハブからクラウドにデータを送信し、API経由で他のパートナーが持つ技術も利用できる。ドコモの営業チームとともに対応ソリューションを顧客に提供できる日を楽しみにしている」(Pavate氏)とコメントした。
2006年に富士通からカーブアウトし、ナノ結晶技術を生かして高い温度でも安定動作する「量子ドットレーザ」の量産化に成功した半導体ベンチャーであるQDレーザは、小型・超微弱出力のレーザープロジェクターを眼鏡型デバイスに搭載し、目の網膜に直接画像を投影して認識させる「網膜走査型レーザアイウェア」を2018年に商用化。また、2018年10月にNDVが運用するファンドを通じて出資を受けている。現在はさらなる小型化やAR機能を実装する「RETISSAR Display」を販売し、「最終的にはスマートフォンの代わりに使うディスプレイ」(QDレーザ 代表取締役社長 菅原充氏)を目指しているが、その背景にはNTTの研究結果があった。
日本電信電話(以下、NTT)は、PLC(平面光波回路:平面基板上に光の分岐、合波、分波などを行う回路)技術を保持している。この技術は光スプリッタなどに用いられているが、同社といえば光ファイバーも有名だ。しかし、光通信で使用する波長帯域の「光通信波長帯」は、伝送損失などを考慮しなければならない。そのため、フレッツ光などは減損が少ない1260〜1675nmあたりを使用している。
「光の減衰を気にしなければ可視領域でも使えるのではないか」(日本電信電話 NTT先端集積デバイス研究所 所長 岡田顕氏)と開発したのが「RGBカプラ(超小型可視光合波回路)」だ。1円玉よりも小さい8ミリ程度の基板で特殊なRGB合波手法を採用している。そのサイズからは多彩な応用先が想定できるが、同社はさらなる小型化を目指しているという。
モデレーターが出会ったきっかけを尋ねると、NTTは「2016年ごろ、何らかのイベントでQDレーザが網膜走査型レーザーを展示しており、RGBカプラがコンパクトな光源となれば魅力的では、と考えて提案。2018年4月から(協業の)可能性を探索し、共同実験に至った。(QDレーザは)量子ドットレーザーなど、光に関する深い知識と技術を持っていたため、安心して議論できた。我々R&D側は形あるものとしてディスプレイするのが苦手なため、QDレーザとの協業はありがたい」(岡田氏)と回答した。
それに対して、QDレーザは協業を通じて「世界的なイノベーションを起こしたい。視覚の再定義に必要なのは要素技術。あまねく使ってもらうため5Gネットワークというインフラを持つ企業との協業は大きな鍵。お世辞ではなくNTTは最適なパートナーだと考えている」(菅原氏)とした。
現時点では研究段階だが、今後の展開についてNTTは「共同実験を通じてRGBカプラを完成し、光源としてQDレーザーのレーザーウェアに搭載したい。ユーザーに装着してもらい、多くの課題に対しては1つ1つクリアしながら進めたい」(岡田氏)と述べると、QDレーザは「そう簡単にはうまくいかない(笑)。(RETISSAR Displayは)奇跡的な製品。(その先に進む上で)きっと苦労はあるが目標に揺るぎはない」(菅原氏)と強い意志を語った。
同社はレーザー網膜投影技術のロードマップとして福祉や医療で活用をスタート地点とし、すでに日本およびドイツでは臨床試験を実施済み。前述のとおり日本国内は展開済みだが、ドイツでもRETISSAR Displayの製造販売承認を申請し、2019年11月からの発売を目指している。同社は「視力弱者を支援する。眼鏡をかけても0.1程度の視力が0.4程度まで改善する」(菅原氏)という。その先には業務利用やエンターテインメント分野での活用、IoT利用などを目指している。「10年ごとに世界は変わる。情報と人をつなぐという文脈でスマートフォンは完成形ではない。本当の融合を実現する基礎開発を続けたい」(菅原氏)と意気込みを語った。
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