1月25日から3日間に渡ってタイ・バンコク市内で「Japan Expo Thailand 2019」(ジャパンエキスポタイランド)が開催された。
筆者がこの会場で出会ったのが、世界でもまだ少ない「気候工学」分野で研究をしている日本人高校生サイエンティストの村木風海さん。山梨県にある北杜市甲陵高等学校に通う現役の高校3年生。2017年に総務省の異才発掘プロジェクト・異能vertionに選出され、国公認の“異能ベータ―”として活動している。研究分野は、温暖化防止のためのCO2直接回収だ。
若干18歳の彼だが、小学校4年生の頃から数えて8年間の研究キャリアがあるというから驚きだ。村木さんの思い描く夢は、(1)地球温暖化を止めて世界中の70憶人全員を救うこと、(2)この世のすべての有機物を空気から合成すること、(3)自分の開発した装置を火星に持っていくこと、の3つである。
村木さんは今回、ジャパンエキスポの会場に彼のかなえたい夢「地球温暖化を止める」を具現化するための装置「ひやっしー」を携えてきた。小ぶりのスーツケースの上には笑顔を表示したタブレットが備え付けてあり、見た目はさながらDIYの家庭用ロボットである。これが村木さんの考えた家庭用・お手軽サイズのCO2直接空気回収マシーン「CARS−α」 、通称「ひやっしー」であると説明を受けた。
天才児から次々と繰り出されるさまざまな未来型の発言に少々面食らってしまった筆者は、村木さんの小学校時代のエピソードまでさかのぼって、詳しく話を伺うことにした。
――研究を始めたきっかけを教えてください。
小学校4年生の時に、恩師の先生が始めた「おや・なぜ・不思議応援プロジェクト(通称:なぜプロ)」に参加したことです。「なぜプロ」はいわば自由研究の発展版で、結構本格的です。僕はそこで「火星に住むには」という研究をしました。具体的には、火星はCO2の大気でおおわれていますが、人間が呼吸できる酸素に変えるにはどうすればいいかという研究です。家の庭に生えている雑草を材料にして、ペットボトルの中にドライアイスを入れて蓋をしたんです。そうしたら、CO2は100%の環境であるにもかかわらず、雑草は生き延びてCO2を酸素に変えました。それ以来ずっとCO2の研究にハマって、8年間、毎日CO2のことを考えています。
――地球温暖化を止めるための研究はいつからしているのでしょう。
学校の科学の課題で、本を1冊読んでプレゼンテーションすることになり、たまたま図書館にあった「気候工学入門」という本を読んだことがきっかけです。科学の力で地球を冷やすための方法がその本にはたくさん書かれていました。卒業研究が1年後にあったのですが、その本に書かれていることをもとにして、「この地球、冷やします!―CO2直接空気回収マシーン CARS−α」という研究をすることにしました。
そこから主に書籍を使って調査を始めたのですが、いかんせん気候工学に関する本は日本で2冊くらいしかありません。僕がやっているCO2直接空気回収の研究者は、世界中を見渡してもほとんどいなくて、インターネットで調べたら、ハーバード大学のDavidKeith教授のチーム、スイスのClimeworks、アイスランドのCarbonRecyclingという会社くらいしか見つかりませんでした。しかも、僕は「世界中の家庭に普及できるような、加湿器サイズの気軽な装置」を作りたかったのに、それをやっている人は世界中に誰もいません。独りぼっち状態です。
――お話を聞いていると、村木さんが18歳ということを忘れてしまいそうになりますが、卒業研究はうまくいったのですか。
調べても全く資料がなかったので、先生に相談したのですが、そんな研究は続ける意味がないと取り合ってもらえませんでした。自費で薬品を買って自宅ラボを作ることまで考えたのですが、学生の私にそこまでの資金などありません。どうしようかと途方に暮れていたんです。
――2017年に総務省の「異能vation」破壊的な挑戦部門で、本採択されていますよね。
はい。それから、日本テレビ「文無しアカデミー2.0」にも出演させていただいて、研究費を調達しました。その資金をもとに、地球温暖化を止める家庭用装置「ひやっしー」を開発したんです。
――ひやっしーにはどのような機能を搭載しているのでしょう。
地球温暖化を防ぐための最後の切り札と言われている「気候工学」のテクノロジーを駆使し、温暖化の原因となるCO2を空気中から回収します。回収したCO2も有効活用します。地球にも、私たちにも嬉しいマシーンなんです。
――とてもコンパクトサイズですよね。
「地球温暖化解決マシーン」と言うと大規模な装置をイメージしますが、CARS-αは加湿器ぐらいのサイズの家庭用ロボットです。顔が付いていて、会話することもできます。人工知能も搭載しているんですよ。操作は全然難しくありません。ユーザーガイドもついているので安心です。
――CO2の有効活用にはどのような方法を採用する予定ですか。
実はどこの家庭にも大体置いてあって、値段も安く身近な金属「アルミニウム」を用いると、CO2からエネルギー原料となるメタンが生成されるので、これを活用することを考えています。メタン生成の技術は、僕と広島大学との共同研究で行っているもので、実は今まで誰も取り組んでこなかった技術なのです。すでに雑誌には僕たちの論文が掲載されているんですよ。この技術を使って、CO2から化学反応によってエネルギー原料を生成し、それを安定的に供給することができれば、僕が当初思い描いていた大きな夢である「火星移住」に一歩近づくことができると考えています。冒頭触れたように火星もCO2でおおわれているので。
――各家庭に1台ずつ、村木さんの考えた科学装置「ひやっしー」があることを思い浮かべるだけでも未来を感じますが、近い将来、村木さんの技術はどこまで実装できるのでしょうか。
僕は「地球温暖化を止め、75億人全員を救う」「2045年までに、火星移住を実現する」をビジョンに掲げ、様々なプロジェクトを始動しています。どこまで技術を実装できるかどうかは、私のプロジェクトに資金的/人的なリソースがどれだけ確保できるかによりますね。
今回バンコクに来たのも、それぞれの分野でご活躍のみなさんがお持ちになっている社会的リソースを分けていただきたい、僕の研究にご賛同いただき協賛や協業させていただく機会を得たいという思いもあって参加しています。異能vationや日テレの出演で得た資金は、ほとんどひやっしーの開発で使ってしまいましたし、今はお金もゼロに等しいので、結構シビアな話でもあります。
――まずは資金を調達するためにも、ひやっしーというプロダクトを作っているSRRA(シーラ)の法人化でしょうか。
はい。僕はまだ高校生で、実は大学受験はすでに終了して、合格発表を待っているんですが(笑)、大学生になったらまずはシーラを法人化して、国際会議にもどんどん参加したいです。プロダクトも「ひやっしー」だけじゃなくて、メタンの生成を工場生産でまかなうことができるようになれば、「メタン自動車」や「SKYTAXI」をシーラのプロダクトとして世に出したいですね。
――SKYTAXIって、映画「ブレードランナー」で空を飛び交ってたアレのことですか。
そうです。セスナよりもっと軽微な仕掛けの空飛ぶ乗り物ですね。それを作りたいです。僕はSFが大好きで小説も読むのですが、「ふわふわの泉」という本はご存じないですか。
――すみません、知りませんでした。「ふわふわの泉」はどのような内容の本ですか。
架空の人工鉱物が出てくるんですね、この本の中に。立方晶窒化炭素というんですが、これをいま東大生と共同で合成する実験をしています。この鉱物が作り出せるようになれば、全自動制御で、電圧・極板間の距離・超音波の周波数を変化させて、最適解を探索することができます。鉱物名は、このSFになぞらえて「ふわふわ」としています。ふわふわで飛行船や建築を作ることも可能になると思います。ジブリアニメに出てくる、天空共和国(ラピュタ)もこのふわふわを使って建設できるかもしれません。
――何かすごい人工鉱物を作る実験をされていることは分かりました。ふわふわの泉を読んで、次回お会いする機会をいただく時までにインスピレーションを共有できるようにしておきますね。最後に、これを読んでいる村木さんの研究に関心のある読者に向けて、お伝えしたいことはありますか。
僕は地球温暖化を止めて、空気からすべての物質を合成し、人類が火星に踏み出す夢を必ず叶えます。研究にご賛同いただける方はぜひ、僕にご連絡いただければとても嬉しいです。どうぞよろしくお願いします。
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