特殊スーツ不要、スマホとAIで採寸--オリジナルがBodygramで描くファッションの未来 - (page 2)

特殊なスーツなし、スマホとAIで精度向上

 コウ氏によると、Bodygramの開発を開始したのは3年前。当時から、空港のセキュリティにある全身スキャナのように巨大な3Dスキャナは存在しており、精度も高かったという。3Dスキャナによる体形計測は、Amazonが将来展開するサービスへとつなげる研究開発のためにも使われているが、エンドユーザーに計測装置がある場所に来てもらうのは現実的ではないし、そもそも「そこに未来はない」(コウ氏)と話す。

 旧ZOZOSUITのように電子デバイスを用いた計測、現行ZOZOSUITのように特殊なスーツを着た計測なども「手軽に計測してもらうには適切なアイデアではない」と判断し、スマートフォンのカメラと機械学習による精度向上に注力をしてきた。

計測イメージ
計測イメージ

 「スマートフォンは誰でも持っていますし、カメラは必ず付いています。アプリさえダウンロードすれば、すべての人が自分用の計測器を持てる。もし、誰もが抵抗感なく手元の機材だけで採寸できるようになれば、ゲームチェンジできると考えた」(コウ氏)

 抵抗感なく、誰もが手軽に採寸するようになるには、洋服を着たままで計測せねばならない。

 「何度も失敗したけど、諦めずにやり続けてきた。アイデアそのものが間違っていない自信はあったからだ。現在は、厚着をしていない限り、かなり高い精度で計測できるようになっている。何度もやりなおして、新しい技術を取り入れて改良を続けてきた」というその結果は、実際に試してみると驚くべきものだった。

 普通に洋服を着たまま2回の写真撮影をしただけで、実際の採寸とほとんど変わらない数字が出てきたからだ。少なくともカスタムオーダーのドレスシャツを作る上では問題はないだろうし、既製服を選ぶ上で適したサイズを選ぶといった用途では、まったく問題ない。

AIの活用で採寸の問題を解決--過去の学びも

 スマートフォンのカメラを使い、洋服を着たまま体形の計測値を得る、という機能だけを抜き出すと、他にもライバルが出てきそうだが、先行して技術開発してきたことが、今後も同社の強みになると話す。

 AIを活用したアプリケーションでは、質の高いデータを素早く集め、深層学習や機械学習で計測制度を上げていくことが必要だが、ベンチャーの場合、大企業のように最初から大きな投資は難しい。しかし、Original Stitchのようなベンチャーであっても、素早く判断して必要な技術にフォーカスできれば、大きな資本の前に出ることもできる。

Original FOUNDER&CEOのジン・コウ氏
Original FOUNDER&CEOのジン・コウ氏

 「当時、先端技術のコンセプトとしてComputer Vision(人間の視覚に依存する仕事をコンピュータで置き換える技術開発分野)というジャンルがあり、コアのAI研究分野での情報を集め、AIの活用で採寸の問題を解決できると確信しました」

 「もっとも、偶然の要素もあります。たとえばiPhoneも、モバイル端末がネットにつながり始めた時期、データ通信速度の向上、タッチパネル技術の登場などがそろったタイミングで生まれています。私たちの技術も、正しいタイミングで、いくつか重要な技術に出会えたことで生まれました」

 実は取材で実際に測定を行う前は、この技術にあまり大きな期待は持っていなかった。洋服の上からの写真を2枚だけ。スマートフォンのカメラは多種多様で、レンズの収差や画角もまちまちだ。そもそも、AIを使うといっても、深層学習のためのデータをどのように収集し、さらに機械学習時にもどう学習させていくのか。

 「私たちはOriginal Stitchで多くの人たちにカスタムメイドのシャツを提供してきました。体型と各種測定値の関係性について、われわれは過去に多くの学びを重ねてきています。もちろん、現時点でスーツを作れるかといえば難しい。体型にピッタリ吸い付くように作らなければならないからです。しかし、シャツであれば充分な精度が出せていますし、単にサイズだけではなく、体型を含めた判別が可能です」

 では具体的に、どのようにAIを教育しているのか。「写真から体型を判別し、身長と体重からサイズを推測するニューラルネットワーク処理を活用した“Bodygramの赤ちゃん”を深層学習で作り出します。この時点ではまだ誤差が大きいのですが、データ収集チームが画像と実際の採寸結果の違いについて、参考データを次々に入力し、成長させてきました」

 今後、アプリなどに組み込まれ、Bodygramが幅広く使われるようになると、発注後の補正値などと比較しながら、さらに精度を自動的に高めていくフィードバックによる学習効果を取り入れる仕組み入れていくという。

2枚の写真があれば”体型“は十分に推測できる

 採寸結果に関しては、たしかに良い結果が得られた。おそらくシャツであれば、問題なくオーダーメイド品質のシャツを得られるだろう。

 今回、Original Stitchで実際にシャツを発注した。アームホールの位置やサイズ、ウエストの高さや胸や背中のラインなども含めて納得感のある結果が得られたが、これはBodygramと連動して発注したものではない。

 Bodygramは、どこまで体形を把握しているのだろうか。「アウトサイズに関しては、とても正確に計測できます。これは実際に体験していただいた通りですが、体型もかなり高い精度で把握できています。ボディパーツの横幅と厚みの両方が画像から把握します。たとえば胸囲が大きいという場合、そもそも体躯が大きいだけなのか、それとも胸板が厚いからなのか。さらに、首や肩の位置も把握できます。関節の位置をポイントして結びつけ、身長と体重に関連づけることで体形の特徴を推測します」と説明した。

 「2枚の写真があれば、外寸と体形の特徴は把握できる」というコウ氏だが、寸法の計測は“入り口”でしかないとも話す。

 「そもそもの話になってしまいますが、外寸を正しく計測できたからといっても、出来上がったシャツのフィーリングが完璧かどうかは別の話なのです。技術は道具でしかありません。最終的に出来上がったシャツが気にいるかどうかは人間の感性です」

写真から体型を判別。さらに身長と体重からサイズを推測するAIを活用して測定する
写真から体型を判別。さらに身長と体重からサイズを推測するAIを活用して測定する

体形計測はスタート地点--次は“ファッション”へ

 筆者は体形や各種寸法の自動計測と、計測データを基にした洋服の製作を経験したことがある。採寸はスタート地点で、そこから気に入ってもらえるシャツなどの商品、いわば計測からファッションへとつなげるにはまだ大きなハードルがあるとも感じた。そのハードルをどう乗り越えていくのか。

 「身体合ったサイズを選ぶというのは、あくまでも“基礎”でしかありません。実際に計測したデータから、美しいシルエットやその人好みの感覚に合うものを作れるかは別の話です。しかし、正しく計測できれば、洋服を通信販売で買う際の安心感にはつながります」

 Original Stitchが提供している服は現在、オーダーメイドシャツのみだ。Bodygramを応用してプロダクトラインを拡張する予定はあるのだろうか。

Original Japan 取締役 COOの藤本学氏
Original Japan 取締役 COOの藤本学氏

 「今後はカジュアル、フォーマルともに製品を拡大していく計画です。また、現在はメンズのみですが、将来は婦人服にも拡大していく検討をしています。その先にはスーツへの展開も考えて準備を進めています。スーツは体形補正を正しく行えなければうまくはいきませんが、成功させる自信を持っています」と意気込みを見せた。

 また、BodygramのB2Bのサービスについては、「他社向けにはBodybankというサービスを提供していきます。これはBodygramを他社向けにライセンスするサービスです。われわれはプライベートブランドで製品を展開していくと同時に、他社向けにライセンスも提供します。体形データはプライバシー情報でもありますから、他社にデータを提供はできません。そこで、技術をサービスとして他社に提供し、提供先のファッションブランドが通信販売時のサイズ判別技術として活用できるようにするのが、Bodybankです」とし、他社にも技術提供をしていくと説明した。

 消費者は御社のプライベートブランド、あるいは他社のデザインなどファッションブランドとしてのテイストを好みで選びつつ、Bodygramを用いてそれぞれ安心して通信販売で洋服を買うための支援をするという。

 「最終的にはお店に行かなくとも、サイズ感が合った買い物ができるようにしていきます。オーダーメイドでなく、既製服であっても、ブランドごと、あるいはモデルごとのフィット感の違いがありますから、そこも含めてお店に行かなくとも洋服を安心して購入できる環境を作っていきます。また、サイズ意外にもファッション要素として大切な部分はあります。たとえば、色の選択ですね」

 「現在開発中で、一部でベータ版として取り組んでいるのですが、肌の色を写真撮影で登録しておくと、肌の色に合った色合いをお勧めするというものです。最終的には色のコーディネートをAIが判別して、オススメするといったことも可能になっていくでしょう」

 シルエットやブランドによるフィット感の違いまでもアドバイスできる、計測とリコメンド(商品推奨)の両方をカバーできるAI技術も、そう遠くない未来にできるに違いない。

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