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仮説検証こそが新規事業を成功に導く重要なファクター--Relicの北嶋氏

別井貴志 (編集部) 日沼諭史2018年12月14日 12時00分
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 大企業におけるオープンイノベーションの取り組みは、とにかくプラットフォームを広げる、という初期段階から、実際にビジネス上のメリットを追求する第2段階へと移っている。しかしながら、オープンイノベーションや新規事業を進めようとしても社員からの積極的な参加が少なかったり、事業計画から実行までに立ちはだかるさまざまな障害で社員のチャレンジ精神をうまくすくい上げられなかったりと、思ったように進まないことも珍しくない。

 Relicが手がけているのは、そうした企業における新規事業のスタート段階から実運用まで、一気通貫でサポートし成功の確度を高めること。大企業が陥りがちな新規事業におけるよくある失敗とは何か。そして、その原因と解決の方法にはどんな手段があるのか。コンサルティングファーム出身で元DeNA社員でもある同社代表取締役CEOの北嶋氏に話を伺った。

Relic 代表取締役CEO 北嶋貴朗氏
Relic 代表取締役CEO 北嶋貴朗氏

「仮説検証」が重要だとわかっていても実際にはできていない

――最初にRelicではどういった事業、取り組みをされているのか教えてください。

 大きく分けて2つあります。1つは新規事業開発のコンサルティングやシステム開発を行うソリューション事業。大手企業向けの新規事業開発や、オープンイノベーションの支援です。最近は企業の社内ベンチャー制度の設計、運用と、そのなかで立ち上がったプロジェクトを支援する案件なども増えてきています。

 もう1つが自社のプラットフォームを提供する「事業共創プラットフォーム」と呼んでいる事業です。クラウドファンディングのプラットフォーム「ENjiNE」のほか、イノベーション活動をされている企業向けのクラウドサービスとして、イノベーション・マネジメントプラットフォーム「ignition」や、初期の顧客をロイヤルカスタマーに育てていくための次世代型マーケティングオートメーション/CRMプラットフォーム「Booster」を提供しています。ソリューション事業と自社ITサービスの両軸で、企業の新規事業開発やイノベーション創出を支援させていただいています。

――ソリューション事業について詳しくお聞かせください。

 多いのはコンサルティングですね。アドバイスよりはハンズオンでがっつり入らせていただいて、伴走するような形です。新規事業プログラムの設計・運用という上流工程と、それにともなうシステム開発や、サービスの企画・立ち上げ、それとは別にすでに立ち上がっている個別のプロジェクトの支援も行っています。

 大手企業の新規事業開発は、例えば戦略部分は戦略系のコンサルティングファームに、システム開発はSIerやベンダーにそれぞれ個別に発注していて、バラバラで動いていることがあります。上流のアドバイスやメンタリングだけする企業もあったりなど。そのため、企画内容が全然実行に反映されておらず、トータルでは管理コストが増えたり、直接的な費用もかさんでいたりすることが非常に多いんです。

 当社はそれらを一気通貫に、企画から実行、実装、運用までご一緒させていただくというのが特徴です。企画されたものを素早くプロトタイプなどで形にして、市場に当てて(リリースして)、それでPDCAを回していく。こうした支援を一社で担うのは業界では珍しいみたいですね。

――創業は2015年。設立からまだ3年余りで最初は実績もなかったかと思いますが、どのように営業してきたのでしょうか。

 最初は、前職のDeNAの前に所属していたコンサルティング会社時代のお客様にお会いして、創業前に「こういうビジネス、支援をする会社を作ろうと思っている」というような会話から探っていきました。でもそれは2、3社で、他はほぼ全部紹介ですね。

 新規事業界隈の業界ってかなり狭いんです。大手企業のなかで新規事業やアクセラレーションを担当している人たちのコミュニティや集まりがあり、そのつながりでRelicを紹介いただくケースが多いですね。それと、DeNA出身者はなんとなく新規事業開発において一定の信頼感があるブランドみたいなものがあって、そこで新規事業の責任者をやっていたという実績などに助けられたところもあったかもしれません。

――企業の新規事業の立ち上げにおいて最も重要なポイントはどこになるでしょうか。

 企画やアイデアをターゲットとなるお客さんに当てていく、検証しにいくところの「仮説検証」が重要というのは、最近になって新規事業業界で広まってきています。とはいうものの、実際に仮説検証が全然できていないところが多い。

 みんなLean Canvasのようなフレームワークを使ってみたり、プロトタイプを作ってみたりしているんですけど、実行のレベルが伴っておらず、動いていない、仮説検証になっていない。我々の場合は、その事業のターゲットにアポを取ってテストセールに行ったり、クラウドファンディングを使ったテストマーケティングを行ったりと、現場の実務も含めて企業と一緒に動いています。

――自社で運営しているクラウドファンディングは仮説検証の場としても活用していると。

 おっしゃるとおりです。我々がやっているのは購入型のプラットフォームなので、集まったお金は売上として計上されます。クラウドファンディングというと資金調達のイメージがありますが、その文脈だともっといい代替手段が他にあるのではないでしょうか。我々の購入型プラットフォームは特にBtoCを想定した事業で、顧客に実際に商品・サービスを買ってもらえるかどうかの仮説検証にはすごく適しています。資金調達のためのファイナンスツールとしては考えていません。

大企業の新規事業成功の鍵は「インセンティブ」と「セーフティネット」

――大企業の場合、新規事業を募集しても参加者が集まらなかったり、アイデアが出てこなかったりすることがよくあるようです。こうした新規事業のよくある課題についてどのように考えていますか。

 まずアイデアの量の観点では、集まらないのは制度設計や募集のかけ方によるところが大きいかなと思います。我々が関わっている企業のなかには、一度に300件以上も集まるところもあるんです。大切なのは、新規事業を募集する背景や意義を説明して、事業ドメインや活用するアセットなどをある程度規定して緩く制約をつけること。何でもいいよ、と言うと逆に何も出てこないんですよね。

 純粋に新規事業募集についての告知が足りていないときもあります。大企業だと社員が数万人、十万人単位でいたりするので、告知が行き届かないことがあります。地道に支社・支店を回って説明したり、新規事業に応募したりしたこと自体が人事評価の面で良い方向に反映される仕組みにすることも考えるべきです。

 次にインセンティブの設計。新規事業に応募して実際に事業化までもっていくのは大変ですし、時間もかかります。それなのに社員に対するインセンティブが弱いことが多いんです。我々も企業の新規事業に関わる際、成功した時のリターンの大きさと、失敗したときのマイナスにならないセーフティネットの準備についてお話しすることが増えています。それをしっかりしないとアイデアは集まらないし、集まっても制度が形骸化して翌年度以降続かない、あるいは応募件数がどんどん減っていく、みたいなことになります。

――インセンティブやセーフティネットは具体的にどんなことが考えられるでしょうか。

 インセンティブについては、最終的に子会社として独立させるとか、レバレッジを効かせるために他社からの資本も受け入れて上場を目指せる、とかですね。もしくは、一定の規模まで事業が拡大したら会社に買い取ってもらえる、生み出した利益に応じてレベニューシェアが得られるなどです。サラリーマンとして普通に仕事をしていては絶対に得られないような高いインセンティブの期待値をしっかりつくる、というのを徹底してやってもらっています。

 セーフティネットの面では、雇用の保障が重要です。例えばレバレッジの効いたリターンを目指そうとすると、会社を一度辞めて事業会社の社長になるというケースもあります。そうしたときに、失敗しても必ず再雇用してもらえるとか、休職扱いで必ず戻れるようにしてもらって家族にも説明しやすくするなど、そのへんの手当は特に大企業だと重要で、そうしないと動けない人が多い。

 何も言わなくても新しいことにチャレンジしたり、会社を辞めてでも外でやったり、というタイプの人もいるんですが、大企業にはリスクをとってできる人がほとんどいない。だからその1個下の層というか、"環境が整ったら覚醒する層"に焦点を当てて、制度設計をしっかりやっていくことが大事なんです。

――アイデアの質についてはいかがでしょうか。

 アイデアの件数が一定の量まで増えてくると量が質に転化し、質の高いものも出てきます。そのうえで、しっかりメンタリングしてアイデアをブラッシュアップし、アイデアを事業プランに昇華させるための仮説検証・顧客検証に使う活動期間をしっかりとる。ピボットする(当初のアイデアとは異なる事業内容になる)こともあるんですけど、これで質を引き上げていくことはできると思っています。

 企業によってはメンタリングを雑にやったり、その期間が短かったり、コンサルに丸投げしたりと、アイデアを磨かずにいわばコンテスト的にジャッジされるだけ、というケースもあります。そうならないよう、アイデアの量を集める期間と、質を高めるためのメンタリング期間はきちんと分けて確保する。こうすることで量と質に関するよくある悩みは解消できている実感がありますね。

――アイデアが出たところで、想定売上規模が小さすぎるとして事業化に向けた事業計画書や稟議が通らない。事業化できても、続けるべきか、やめるべきかの基準が誰にもわからないといった課題もあると耳にしました。

 経営陣と現場との間の、そもそも最初に決めておくべき新規事業の目的や定義、目線のすり合わせ作業をやってるかどうかの差がすごく大きいんですよね。新規事業を次の収益の柱として育てていくことを第一に掲げている会社もあれば、人材育成の目線でやっている経営者もいるわけです。

 既存の製品を別の市場で売っていく話と、既存の市場に対して別の商品を売る話というのもあります。軸足は既存に置きながら、そこからはみ出る形のビジネスを新規事業とするか、全く新しい飛び地の領域だけをやるのか、そもそもどこまでを新規事業の定義と捉えるか、といった話もあります。またよくあるのが、何年で売上何億円いかないと意味がない、みたいな。でも普通に考えて新規事業の規模からするとそんな売上を短期で達成するのはあまりにも成功確率が低く、それが原因で話が進まないこともよくあります。

 前職のDeNAは非常に良い会社ですし、今でも感謝していますが、私自身もいくつかの新規事業の責任者をやる中で、よく悩んだことがありました。スマートフォンが普及してアプリゲームが台頭してきたとき、ブラウザゲームの売上が厳しくなってきて、そこに対して新しい事業を始めなきゃ、となったんですけど、全てに既存のゲーム事業並の規模感を短期間で目指していかなければいけない焦燥感のようなものがありました。営業利益でいうとミニマムで100億円みたいな。いや、そんな新規事業はなかなかないんですよ、と(笑)。もちろん、そういう目線で新規事業を検討してくことは重要なのですが、そういう規模感が短期で見込める可能性が高い市場ほど、より強大なプレイヤーが既に参入していたり、桁違いの投資を行ってきたりして厳しい戦いを強いられるようになることも多く、そこは非常に悩みましたね。

――たしかにそれは難しいですね(笑)。

 それもあって、もしかしたら中長期的には芽が出るかも、大きな社会課題を解決できるかも、というようなビジネスを辛抱強く続けていくというアプローチはなかなかやりづらい時期もあったように思います。当然、上場しているので短期で成果を求められるというのもあったと思います。このように新規事業の目的や定義、何年で何億円という時間軸や目線が、経営陣と事業開発の現場で最初からすり合っていないが故に、適切に評価・判断出来ていなかったり、実行やグロースが伴わないケースが特に大企業においては多いように思います。

 なので、現場はいいと思っているけど経営陣からするとだめで通らない、という乖離が生まれることになる。そういうズレはけっこう大きいんじゃないでしょうか。目線をすり合わせたうえで、あとは主観で判断されないように、評価・審査基準をある程度網羅的・定量的にできるように作り込んで標準化する。そういう工夫で解決しやすくなると思います。

Relicの受付エントランスにはロボホンをはじめ、携わった企業の新規事業に関わるプロダクトが並ぶ
Relicの受付エントランスにはロボホンをはじめ、携わった企業の新規事業に関わるプロダクトが並ぶ

ビッグデータ、AI時代のこれからは大手企業が有利に

――新規事業が順調な会社は数年でどれくらいの売上規模、というような制限をあまりしていない。また、新規事業に一生懸命な企業は経営陣自身が危機感をもっているとも感じます。

 最近の新規事業においてテクノロジーが絡まないことってほとんどないわけですが、テクノロジーをわかっている経営陣がほぼいないという問題もIT化が遅れている産業や企業においてはよくありますね。現場がブロックチェーンで何かやりたいと言っても、ブロックチェーンが何であるかがわかっていなくて説明しても理解してもらえないとか。

 意志決定する側にある程度IT、デジタルがわかる人がいないと厳しい部分はあるかもしれません、そういうことを判断できるCTOとか、技術に理解のある人がジャッジする側にいないとしんどいですね。なので、我々としては企業に対して「そういう人を巻き込んで」という話はよくしています。理解している方が上にいるとスムーズに動くんです。ただ、その場合は逆に技術ドリブンになってしまいがちなのでバランスも大切ですが、理解してもらえないよりはいいかなと。

――目線のすり合わせ、イコール共通言語化ということなのかもしれません。

 どの会社もだいたい最終的に役員プレゼンがあって、そこでジャッジされることが多いんです。最近はスタートアップのピッチみたいな形で、7分とか10分のプレゼン内容でジャッジされることも増えてきたんですけど、それだと正直なところ情報量が少なすぎる。膝を突き合わせて事業について議論していかないと本来ジャッジの精度を高めるなんてできないんですけど、それをやっている企業が本当に少ないですね。

 役員がプレゼンだけ聞いて、そのときの印象で良し悪しを判断していたりもします。なので、役員の評価が高かったアイデアがその後全然進まなくて、評価が低かったのが事業として立ち上がってうまくいっていることもある。プレゼン上手、ピッチ上手だけが残る、みたいなことになってしまうリスクもあります。

――まさにコンテスト化しちゃっているんですね。

 オープンイノベーションが最初に流行になり始めた頃、KPIが他の企業・組織とのマッチング件数、もしくは協業の件数を追っていることが多かった。数だけを追っていて質が上がらないとか、結局マッチングだけで終わっているということも少なくありませんでした。

 でも、オープンイノベーションって、全体の事業構想があって、どのリソースやアセットをクローズドでやるか、どれをオープンでやるかという順番で考えるべきことのはず。一次ブームの頃はマッチングすれば良かったんですけど、今はそれだけだとうまくいかないから、けっこう本気でやり始めた。だから1回目は失敗して2回目になって、どうしたらいいですか……という相談がオープンイノベーション関連ではすごく多いですね。

――ズバリ、成功する事業、継続性のある事業に共通点みたいなものはありますか。

 やっぱり仮説検証をまじめに、しっかりやっているところは上手く行くことが多いですね。例えば、もともとある特定の技術に優位性がある会社で、その技術を使った事業開発を支援したケースだと、どういう使い方ができるかを最初に洗い出して、想定顧客や課題を定義しました。

 有望と思われる市場がそこで3つくらい出てきて、そのセグメントの各20社ずつくらいにテストセールして、導入の可能性や、導入する場合の妥当な金額、プロダクトの課題など聞いて、特定の市場に販売先を絞った。そして、さらにそのなかでも30社くらいにテストセールした。

 やがて、「このプロダクトの機能を一部だけ切り出してくれれば導入したい」という話も出てきました。そうやって元々考えていたソリューションと、その技術をベースに提供できるサービスとを分けてスタートしました。さんざんテストセールして、ほぼ目処が立っていたのであまり失敗するイメージはなかったんですが、短期間で10億円以上の規模になっています。

――プロダクトを売る前の検証がやはり最も重要だと。

 従来の考え方だと、プロダクトを作ってからマーケティングやセールスを行うことがどうしても多いんですよね。作り込んでから売りに行って、結局売れない、というのはもったいない。クラウドファンディングもそれに近いと思うんですけど、こういうのをやろうと思ってるから買ってくれますか、みたいな話を徹底してやって、売れそうになかったらやめるか、改修すればいい。

 頭ではそういうやり方がいいとわかっていても、徹底してそこまでやっている会社が実際にはほとんどないんですよね。特にB2Bの事業だと、その方法でテストセール、テストマーケティングをきちんとしていれば、大きくコケるイメージはありません。そういう意味では勝ちパターンがある程度見えてきているのかなと思います。一方でB2Cは、ロジックで判断しないユーザーも多いので、よりテストマーケティングの設計が難しくて時間がかかったりもするんですけど。

――最後に、新規事業にチャレンジしようかどうか悩んでいる人にメッセージを。

 昔に比べると新規事業開発に関する支援や社内制度、セーフティネットも整い始めている気がしますので、挑戦するにはいい時代です。挑戦しないのはもったいないと個人的に思っています。基本は失敗するので、失敗しないようにと考えるんじゃなくて、必要な失敗はなるべく早めにしてしまう。致命的にならないように、失敗して学びながらやっていくことが大事ですね。

 これからは大手企業が有利になってくると思っています。インターネット時代はいろいろなことを低コストでチャレンジしやすくなって、スタートアップなど小さな集団が動きやすい時代だったと思うんですけど、ビッグデータやAIの話になってくる今後は、逆にスタートアップの優位性があまりなくなってくる。大企業のアセットやデータ、技術の蓄積が、ようやく活かせる時代になってきて、大企業に有利な時代に揺り戻しがくるのでは、と思っているんです。スタートアップのマネをするんじゃなくて、大手企業らしい事業開発のやり方を我々が一緒に作っていけたら、と思いますね。

「これからは大手企業が有利になってくると思っています」と北嶋氏
「これからは大手企業が有利になってくると思っています」と北嶋氏

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