「GAFA」や「GAFAM」などの代名詞で呼ばれるようになった巨大IT企業のGoogle、Apple、Facebook、Amazon、Microsoft。これらテックジャイアントの出身者が、新たなスタートアップやベンチャーを立ち上げて注目を集めるのは珍しいことではない。
しかし、ほぼ全社員がそのテックジャイアントからスピンアウトしたメンバーからなるベンチャー企業となると、まだ少ないのではないだろうか。それが全員日本人だとすれば、なおさらだ。
2018年4月に設立されたフライウィール(FLYWHEEL)は、共同創業者の2人がGoogle、Facebook、Microsoftなどで要職を務め、他の社員もGoogle、Microsoft、Amazonいずれかの出身者。最先端企業のなかで磨かれた経験や知識、ノウハウをベースに、データとAIで日本企業の生産性向上を目指すことをビジョンに掲げる。
「プラットフォーマーではできなかったことを実現したい」と、同社代表取締役社長の横山直人氏は穏やかな表情でそう語る。
フライウィールを創業した1人である横山氏は、2年の米国留学の後、NTTドコモに入社した。当時の携帯電話で利用可能なインターネットサービス「iモード」を海外で展開すべく、欧州各国を渡り歩く海外赴任生活が5年ほど続いた。その後はGoogle JapanでGoogle Apps(現在のG Suite)やAndroidの立ち上げに携わり、フェイスブック ジャパンでは執行役員を務めた。
もう1人の共同創業者であるCTOの波村大悟氏は、米MicrosoftでC#コンパイラの開発に、Google JapanではGoogle Playの開発などに携わった。それから再び米Microsoftに戻り、業務執行役員として検索やAIのエンジニアリングを担当した。
そして、2018年12月現在在籍しているフライウィールの社員10名のうち3名がGoogle、4名がMicrosoft、1名がGoogleとMicrosoft、もう1名がGoogleとAmazonをそれぞれ経歴にもつ(他1名は新卒)。全員が日本人だ。
プラットフォーマーの、しかもそれなりの地位で活躍していた立場を捨てて、フライウィールを立ち上げたのはなぜなのか。
横山氏は、日本の企業と接するなかで、汎用的なクラウドサービスを展開するプラットフォーマーだと対応できない部分が多いことを常々課題に感じていたと明かす。「要望に沿った(ソリューションの)提案をしてパートナーやクライアント企業のビジネスを大きくしていくのが基本だが、要望が10個あったら、プラットフォーマーとしてはそのうち2個くらいしかできない」のが実情で、残りの8個は断らざるを得なかったという。
全世界でほぼ共通のサービスを展開する役割を負ったプラットフォーマーとしては、その国・地域ごとの文化、業界ごとの商習慣などに沿うようにカスタマイズ・開発をするローカライゼーションや最適化までは手を広げにくい。そういった「ラスト数マイル」の部分はベンダーに任せるしかなく、忸怩(じくじ)たる思いもあったという。
また、「こんなものもあるのか」と横山氏が驚くような貴重なデータを持つ日本企業が数多くあるにも関わらず、それがデータとして使える状態になっていないことも多かった。データで何を成し遂げたいのか目標があいまいだったり、データを戦略的に活用する経験がないために活用の仕方そのものがわからなかったり、といったケースも少なくなかった。「ビッグデータを超えるウェブ・スケールのデータを用いて、利用者の体験や事業そのものにインパクトを出していく。そこまでつなげられる技術力と、それを担う人材が企業のなかで足りていない」ことに気付いた。
こうした日本企業の状況を目の当たりにして、「自分たちにできること、変えられることがあるんじゃないか」と、共同創業者である波村氏と意気投合したのがフライウィールを立ち上げるきっかけとなった。同じくそれに共感し「日本のためにもっと何かできることがあるのでは」という情熱をもつエンジニアをはじめとする10名も追従した。目標は、データと人工知能を駆使して日本のあらゆる産業のプラットフォームをつなげ、日本企業のデータ価値を最大化し、それを活用して生産性を高めることだ。
フライウィールが手がけるのは、広告、マーケティング、物流、決済など、ネットからリアルまでのすべてを統合するデータプラットフォームと、データ活用のためのソリューションの開発だ。GoogleやFacebookなど、グローバルプラットフォーマーならではの大規模データを処理してきた同社のエンジニアたちの経験が生かされており、440億以上のウェブと同レベルのデータを扱うための分散処理やデータクリーニング、インデックス化などを可能としている。
現在のところ「FWデータプラットフォーム」「FW広告プラットフォーム」「FWレコメンドエンジン」が開発中、もしくはリリース済みで、どれもこれまでにないユニークな特徴を備えている。
例えば、ある商品をサーチエンジンで検索し、ECサイトで購入したとき、その後に訪れた他のウェブサイトで購入したばかりの商品の広告が表示された経験はないだろうか。これは、検索履歴と広告(アドネットワーク)がデータプラットフォーム上で結び付いているものの、商品を購入したECサイトのデータプラットフォームとは連携していないことが原因だ。
それらを統合可能なFWデータプラットフォーム、FW広告プラットフォームなら、こうした的外れな広告を表示することはなくなり、商品を購入した後に消費者が欲しくなる、あるいは必要になる別商品の広告を露出することが可能だという。
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