不動産テック、フィンテック、シェアリングエコノミーといった、「暮らし」に関わる企業やクリエーターが集まる「LivingTechカンファレンス」が、11月21日、東京都渋谷区の渋谷ストリームホールで開催された。開催は2017年に引き続き二度目。会場には約300名が来場し、スマートホームや不動産テック、シェアリングエコノミーなどのテーマにそって実施された、10のセッションに参加した。
ここでは「顧客志向から生まれるスマートホーム戦略」をテーマに、アマゾンジャパン 消費財事業本部 統括事業本部長 バイスプレジデントの前田宏氏、アレクサビジネス本部 本部長の柳田晃嗣氏、リノベる 代表取締役の山下智弘氏がスピーカーとして登壇し、米DUFL 共同創業者でリノベる 社外取締役の塚本信二氏がモデレーターを務めた、HomeTech関連セッションの様子を紹介する。
ECサイトとして本からファッション、家電、食品までを取り扱うアマゾンと住宅デザイン、リノベーション事業を手がけるリノベるは、業態から本拠地、創業年など大きく異なるが、塚本氏によると「お客様に寄り添い、必要なものをテクノロジを使って作っていくという姿勢がとても良く似ている」という。
アマゾンは1995年に米国でサービスを開始。前田氏は「品ぞろえを重視し、顧客満足度を高める。それが口コミとして広がることで、さらにお客様が増える」と共同創設者でありCEOのジェフ・ベゾス氏が描いたビジネスモデルを紹介。さらに「お客様が増えるとオペレーションコストは下がるが、削減できたコストを広告に使ったり、株主に還元したりするのではなく、商品価格を安くすることに投資した。品ぞろえとともに価格が安いことで満足度はさらに上がる」と、品ぞろえを重視することが、成長ドライバだったと話した。
日本でのサービス開始は2000年。当初はオンライン書店というイメージだったが、現在は日用品から家電、食品まで取り扱うほか、「Amazonプライム・ビデオ」「Amazon Music」といったエンターテインメントコンテンツサービスも実施する。一方で、クラウドコンピューティングサービス「アマゾン ウェブ サービス(AWS)」を手がけるなど、事業領域は広い。
「インターネットを使ってお客様の『ペインポイント=困りごと、不便なこと』を解消し、どうすればより便利な仕事、生活ができるかを考えている。そうしたソリューションの提供を日本では主に進めている」(前田氏)と現状を話す。
対するリノベるは、2010年に設立。「日本の暮らしを、世界で一番、かしこく素敵に。」を企業理念に据える。山下氏は「『賢く』『素敵』という2つの相反することを同時に達成したいと思っている。住まいではなく暮らしとしたのは、住まいは暮らしを彩るための道具に過ぎないため。暮らしを賢く素敵にできるかをコミットしていきたい」とビジョンを明確に描く。
住宅リノベーション事業が目立つが、リノベーション施工管理プラットフォームや一棟リノベーションなど、BtoB向けのサービスも展開している。
ここで塚本氏は前田氏に、消費動向について聞いた。前田氏は「買い物は2つに大別できる。いわゆる趣味のように楽しんでする買い物と、食品や洗剤など、買わなくてはならないものの買い物。後者は労働に分類され、できれば時間を使わず必要なものを買いたいというニーズはある」と話す。
アマゾンでは、日用品のネットショッピングを推し進めるほか、2年前にはIoTデバイスとして「Amazon Dash Button」を投入。ワンプッシュでお気に入りの商品を注文できる環境を整えた。現在は、スマートスピーカーを使って声による操作だけでの注文にも対応。「確認画面があるが、PCを使わずに買い物ができるようになった」(前田氏)と説明する。
労働に分類される買い物をさらに進化させたのが、「Amazon Dash Replenishment」サービスだ。これは、洗剤が無くなりそうになると洗濯機が、コーヒーカプセルが足りなくなるとコーヒーマシンが注文をしてくれるという新サービス。米国ではすでにプリンタにこの機能が搭載されており、インクが減ってきたら、自動的にインクを注文してくれるという。「労働に分類される買い物はここまでお客様に負担をかけない技術ができている」と前田氏は、新たな買い物方法を紹介した。
それを受け山下氏は「リノベーションする時は、トイレットペーパーの補充をどこに置くかまでを考えて設計する。Amazon Dash Replenishmentが実現すれば、このスペースの無駄が省ける。設計の仕方自体がものすごく変わってくる」と、日用品の買い方の変化がもたらす、自宅設計のあり方について話した。
一方、声で操作ができるスマートスピーカー「Amazon Echo」も、好調に売れ行きを伸ばしているという。柳田氏は「スクリーン付きのAmazon Echo Spotは、特に日本での人気が高い。12月には10.1インチのスクリーンを備えた『Amazon Echo Show』の発売も控える。10インチあれば映画の鑑賞もできるし、音周りも充実している。お客様がしたい体験の選択肢が増える」と話す。
Amazon Echoでは「Alexaスキル」というアプリ的なサービスを用意しており、現在スキル数は1500を超える。「この内95%が日本で開発されたもの。鉄道や金融など、異なる業界の企業からエンターテインメントまで、あらゆるスキルが出てきている。九州朝日放送ではKBCラジオ『居酒屋清子』の清子女将と話せるスキルをリリース。スキルを活用することで、全国に名を知らしめることができ喜ばれている」(柳田氏)と成功例を紹介した。
柳田氏は「私たちがやりたいのは、Amazonの音声AIアシスタント『Alexa』をより自然なサービスにしていくこと。将来的にはEchoデバイスを作らなくてもいいかもしれないとさえ考えている」と将来を見据える。それに対し山下氏は「スマートスピーカーを使っていると、暮らし全体に変化が出てくる。例えば声で操作ができるため照明などをつけるためのスイッチプレートがいらなくなる。今までは当たり前と思っていたが、スマートスピーカーを導入すると、スイッチはいらなくなる。スイッチプレートのないすっきりした壁を実現できる」とスマートホームにおける役割を話す。
柳田氏も「暮らしの中でほしくても入手できない情報がある。例えばキッチンにいると洗濯が終わったかどうかわからない。こんな時に近くにあるAmazon Echoが『洗濯が終わりました』と言ってくれるだけで便利になる」と説く。塚本氏は「本当はAlexaを自宅の壁に埋め込みたい。電気、水道、ガス、Echoみたいになると理想的」とした。
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