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麻倉怜士の新デジタル時評--ついに新4K8K放送開始、「8K完全版2001年宇宙の旅」試写レビュー - (page 2)

加納恵 (編集部)2018年12月01日 10時00分
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体が吸い込まれるような臨場感と実物感「8K完全版2001年宇宙の旅」

 今後大きな影響力を持つと考えられる8Kだが、テレビ、放送分野における魅力とは何か。それはNHK放送技術研究所が挙げた2つのキーワード「臨場感」と「実物感」だろう。

 SD画質の時代、テレビの視聴距離は画面の高さ×7の距離が必要だったため7Hと言われていた。2Kになりその距離は3H、4Kは1.5Hと狭まってきて、8Kでは0.75Hとされている。視聴者がテレビに近づくことによって、大きな画面ではすべてを見ることはできない。そこにこそ、臨場感が存在する。しかし近づくと今度は画素構造が見えてしまう。そこで8Kでは、視力1.0の人が0.75Hの距離から画面を見たときに画素が見えなくなると言われる3200万画素を持つ。画素が見えない高精細さにより、映像にはリアリティを与えられる。

 人間の視野角は約170度と言われており、目の前だけをしっかり見ると、その周辺はぼやけてしまう。それと同じ現象がテレビを見ていても起こる。そうなると人は視線を上下左右に動かすようになる。実際の世界でものを見るのと同じ視覚感覚で8K画面を見られるようになる。

 もう1つ重要なのが実物感だ。臨場感は大画面によって実現できるが、実物感で重要なのは解像度だ。最近の研究では、実物感について視距離は0.75Hより1.5Hの方が適切と言われ始めた。

 臨場感と実物感、この2つがそろうことによって、8Kは今までのテレビとは次元の違う進化を遂げられる。限りなく現実の視野、視覚に近づけたのが8Kの凄さであり、その意味からすると、これまでのテレビの延長線ではないところに8Kは存在する。

 異次元のテレビとも位置づけられる8Kテレビだが、重要なのはそのコンテンツ。スカパー!とNHKを除き、4Kコンテンツでさえ、2Kのアップコンバートがほとんどの中、8Kではどんなコンテンツが見られるのかはとても気になるところだ。

 NHKでは、10~22時の12時間編成で新4K8K衛星放送を実施。スポーツ、音楽、映画、ドキュメンタリーといったコンテンツを用意する。これだけでは、従来のTV番組と変わらないと思うかもしれないが、その質は全く次元が異なる。

 目玉の1つが「8K完全版2001年宇宙の旅」だ。12月1日13時10分から放送されるこの映画作品は、1968年に公開されたオリジナルネガを、現在作品を管理しているワーナー・ブラザースの専門作業チームが修復し、8K化したもの。幅の広いハイレゾリューションのフィルム規格である70mmフィルム作品で、公開当時は35mmフィルムに比べ圧倒的な大きさだった。

「2001年宇宙の旅」
(C)Turner Entertainment Company
「2001年宇宙の旅」 (C)Turner Entertainment Company

 オリジナルネガから8K化は実に1年の月日を費やし、完成した。丹念に1コマ1コマをスキャンしたため、監督であるスタンリー・キューブリックさんの意図が強く感じられる仕上がりとなった。

 特に印象深かったのは、使用レンズの素晴らしさ。細かな部分まで書き込まれており、色調も素晴らしい。キューブリック監督がいかにレンズにこだわって撮影したのかが、8K映像から伝わってくる。

 色の再現については、監督や撮影監督を招き、指示を仰ぐのが通常だが、2001年宇宙の旅では、関係者に立ち会ってもらうことができず、映写機で写したフィルムを確認し、直後にグレーディングルームで色調の作業をしながら作り上げていったとのこと。こうした丁寧な作業が8K画質の素晴らしさにつながっている。

 10月にNHKで開かれた試写会では、フィルム感が濃厚で、輪郭も丁寧かつ素直。強調感もなくナチュラルな仕上がりが確認できた。特に驚いたのは、グレインノイズの少なさ。粒子ノイズをほとんど感じることなく、とてもいい状態で見られた。

 特に素晴らしかったのは、月面基地への着陸シーンにおける基地の窓の中に働いている人々を確認できる精密さや、木星に向かう宇宙船内の壁の質感まで伝わる描写力。最後の場面に出てくるスプリットした光の襲来、スターゲイトには、体も心の感動した。

 8Kは見るのではなく、まさに体験の域。自分の体の半分が作品に吸い込まれているような感覚が得られる。2001年宇宙の旅は、映画館、VHS、DVD、BDとさまざまなメディアで見てきたが、これまでに体験したことがないレベルで作品に没入した。

 少し残念だったのは、60pというテレビならではのフレームレート。8K放送は60pもしくは120pでのフレームレートが採用されるが、2001年宇宙の旅の元のフレームレートは24p。そのため、24コマを60コマに変換する「2-3プルダウン」が用いられる。これにより本来の動きではなくなってしまう。映画の良さは24コマによる動きのジャダー感。監督自身もこのジャダー感を意識した上で演出しているため、24コマで見たいという思いが募った。

 もう1つ期待するコンテンツが宝塚歌劇だ。NHKで各組の代表作を順次放送する。宝塚が持つ絢爛さやきらびやかさというゴージャスな世界観はまさに8Kでこそ再現できるもの。ディテールへのこだわりも2Kでは表現しきれず、8Kだからこそいかせるコンテンツだ。放送はHDRのため、明暗部の階調もきちんと表現される。視線を動かさざるを得ない程の情報量が画面上にある。ある意味、宝塚は8Kに最も合致しているコンテンツと言えるだろう。

8Kの音響方式22.2マルチチャンネルを自宅で楽しむには

 BS8Kでは「世界三大オーケストラの響き」と題し、「ウィーン・フィル」、「ベルリン・フィル」、「ロイヤル・コンセルトヘボウ」による名曲を収録した音楽コンテンツも楽しみ。

「 世界三大オーケストラの響き 」(ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団)
「 世界三大オーケストラの響き 」(ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団)

 8K放送では、22.2マルチチャンネル音響方式を採用しており、低層、中層、高層によるイマーシブサラウンドが得られる。しかし、22.2chをそのまま再生するには22.2のスピーカが必要になり、自宅に設置するのはかなり無理がある。

 2018年のNHK技研公開では、より少ないチャンネル数に変換し、22.2ch音響を家庭で再生できるシステムを発表。直線状のラインアレースピーカーやステレオスピーカー、既存のホームシアターなどを使って、22.2ch音響再生できる機器を展示。加えて、デノンやヤマハといったAVアンプメーカーからは、22.2ch信号をドルビーアトモスなどのオブジェクトオーディオに変換することで、AVアンプでも扱えるようにするとの計画が明らかにされた。

 8Kは、テレビよりシアターとの親和性が高いスペックであることからホームシアターとの相性は非常に良い。そのため大画面で視聴できるプロジェクターへの波及も大変期待している。現在、JVCブランドから8K映像表示に対応したD-ILAプロジェクタ「DLA-V9R」が登場しているが、この映像も素晴らしい。JVC独自の「8K/e-shiftテクノロジー」により、4K/2K映像を高解像度化することで、8K映像表示を実現しているのだが、質の良さを強く感じる。残念なのは、8K伝送HDMI 2.1規格用のレシーバーICが未完で、8K入力が搭載されていない点。この辺りの整備も2019年には整ってくると思う。8K入力プロジェクターの登場が楽しみだ。

8K映像表示に対応したJVCのD-ILAプロジェクタ「DLA-V9R」
8K映像表示に対応したJVCのD-ILAプロジェクタ「DLA-V9R」

 8Kはテレビというより、シアターの世界。テレビジョンという名前の通り、テレビは遠くの絵を目の前に持ってくる技術。8Kは、その遠くの場所に自らが行くような現実感と実物が目の前にある実在感がセールスポイントだ。

 NHKのプロデューサーに聞いたところ、8Kの番組作りは、テロップやナレーションを最小限に押さえ、テレビ的な絵作りを極力控えるという。フィックスで撮影し、見る人が見たい場所を見る。ズームよりもワイドを重視した作りになっているのもうれしい。

 素晴らしい8K映像を、より身近に楽しめるよう、ハードメーカーにも対応機器を続々と増やして欲しい。

 

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