金融領域の“リデザイン”を掲げるLINEは、ここ最近、FinTech企業との提携を加速させている。その皮切りとなったのが、テーマ投資サービスを展開するFOLIOとの提携だ。発表後は特に目立った動きはなかったが、10月18日に「LINEスマート投資」としてサービスの提供を開始した。LINEにとって、資産形成分野で初めてのサービスとなる。
FOLIOは、2015年12月に設立されたオンライン証券サービス「FOLIO」を手がけるスタートアップで、2018年8月に正式版を提供した。「電気自動車」「5G」といったテーマをもとに投資先を選定でき、各テーマには、FOLIOが厳選した10社がラインアップされている。単元未満株取引により、最低10万円から分散投資することが可能だ。
LINEスマート投資は、FOLIOと同様、用意されたテーマそれぞれで厳選された10社に投資でき、こちらも最低10万円前後から分散投資できる。LINE代表取締役社長CEOの出澤剛氏は、「株を難しいと考える人にも切り口をわかりやすくするように、生活圏に即した金融サービスとして身近な投資先を選定している」と、LINEのユーザー層を考慮し、有名企業・ブランドを集めたテーマや「ドローン」「VR」「ガールズトレンド」「コスプレ」といった趣味カテゴリも含めた、「好き」や「応援したい」を引き立てる70テーマを用意する。
最初はすべてのテーマが見えるようになっているが、ユーザーの興味関心に応じて表示内容を変える。また、FOLIOにはない機能として、テーマごとのランキングや1年前に投資を始めていた場合のシミュレーション額などを確認できる。FOLIO代表取締役社長CEOの甲斐真一郎氏は「さまざまな人に投資への第一歩を踏み出してもらうには、いろいろな情報を提供する必要がある」としており、他のユーザーが投資しているテーマやリターンが大きいテーマなどから、まずは興味を持ってもらいたいとしている。
アクセスは、LINEのウォレットタブに表示されたLINEスマート投資のボタンをタップするだけ。全体的に少ないタップで操作できるようになっており、投資に不安を持つユーザーでも簡単に使うことができる。テーマの売買で発生する手数料は、銘柄ごとに売買代金の0.5%(税抜、最低手数料50円)を実現した。
なぜLINEは証券業界に参入するのか。出澤氏は、同社が掲げる金融業界の“リデザイン”の観点で「(金融業界全体として)規制が大きく参入障壁が高いため、ユーザーフレンドリーになっていない」と指摘する。「日本の個人投資家は、さまざまなデータがあるものの資産運用人口の比率は十数%のみと、諸外国に比べると低い。数千万の口座があるものの、一部しか有効活用されていない」と指摘する。
「日本がこれから高度成長するとは考えづらく、若い世代ほど自分の将来を自分で考えないといけない。必然的に株式投資を検討したり、ロボアドバイザーなどを使っている人が多い」と現状を説明。「米国の個人投資家はかなり多く、金融資産を運用している人は50%弱に上る。こうした必然性もあり、なるべくユーザーフレンドリーな価値を提供すべきではないかというのが、真正面から見たわれわれの見方。ニーズに応じて、自然なレコメンドもできると思う」とした。
甲斐氏も同じ考えを持っており、「もともと証券会社に務めていたことから、ファイナンスでの起業は決めていた」とし、「なぜ証券会社かというと、変えなければならないメインポイントがあり、マーケット規模でホワイトスペースが一番大きいのが資産運用だった」と説明する。退職金や年金に不安を覚えるようになる中、資産運用のニーズがあるのにもかかわらず、他国と比較して“圧倒的に”普及していない現状を見て「ヤバイなと思った」という。見ていた方向が両社とも同じだった。
資産形成サービスでは、テーマ投資や少額の株式投資、ロボアドバイザーなど、投資の敷居を下げるサービスは国内でも複数登場している。なぜ、LINEはFOLIOと手を組んだのだろうか。
出澤氏によると、FinTech領域に注力するにあたり、テーマ投資やロボアドなど、新しい形での投資に非常に興味を持っていたという。「FOLIOは、デザイン、ユーザー体験を非常に重視しおり、FinTechサービスでは唯一といっていいほどこだわり持ってサービス設計している。表面上のUIだけでなく裏側の業務処理も含めて、ユーザーがどういうプロセスを踏むかを想定し、本質的に証券を買うことを分析。一度バラバラにし、必要なところを組み立て直している」と評価。また、「われわれは非常にスピードが早い会社でプロダクト中心の考え方をする。FOLIOは素晴らしいチームを持っており、相性が良かった」と述べた。
FOLIOは、資産運用を広げるべく、証券サービスを生活圏に持ち込もうとしている。ECでよく見る「カート」の概念を導入。投資を“カート“に入れてショピング感覚で始めることができるなど、顧客体験を生活圏に合わせて再設計している。しかし、こうした顧客体験に注力しても、1ベンチャーが生活圏のユーザーにサービスを訴えたところで振り向いてもらえない。甲斐氏は、生活圏で使われるLINEとの提携について「非常に心強い展開」とし、LINE Payが生活圏で浸透し、毎日使われる“財布”の延長線上に投資サービスが入ることで、生活と投資に大きなシナジーが生まれるとしている。
もちろん、敷居を下げることと同時に、相応のユーザー教育、リスク説明もしていく必要があると出澤氏は強調しており、「スマートフォンだからこそ伝えられることがある」と、LINEならではの投資サービスを実現するようだ。
今後は、簡単な質問に答えるだけで低コストでの資産運用ができるロボアドバイザー「おまかせ投資」サービスの提供、LINE Payとの連携による資金決済などを予定しているという。さらに、野村證券との新会社「LINE証券」は、個別銘柄を運用したいといったニーズに応えるなど、FOLIOと補完しあう関係になり、“おまかせ”なユーザーから自分で運用したいユーザーまで幅広い層に対応するという。
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