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宿泊業界に寄付という新風--「KIKKA」が愛されるホステルになることで得る無二の価値

加納恵 (編集部)2018年07月28日 10時00分
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 ホテルの建設が急ピッチで進み、民泊サービスが本格化する中、新たな宿泊施設「KIKKA(キッカ)」が東神田にオープンした。手がけるのはイタンジ、7garden、TABLE FOR TWO Internationalの3社。異業種からの参入も相次ぐ宿泊業界だが、この3社は、不動産テック企業2社とNPO法人という顔ぶれだ。

 目を引くのは、KIKKA内で飲食をしたり、イベントに参加したりすると、料金の一部がアフリカの子供たちに給食として届く、寄付ができる仕組みを整えていること。「サスティナブルホステル」として、新たな宿泊施設の役割を提示したKIKKAが生まれた背景を、イタンジ 代表取締役CEOの伊藤嘉盛氏、7garden 代表取締役CEOの北野賢氏、TABLE FOR TWO International チーフ・マーケティング・オフィサーの大宮千絵氏に聞いた。

左から、TABLE FOR TWO International チーフ・マーケティング・オフィサーの大宮千絵氏、7garden 代表取締役CEOの北野賢氏、イタンジ 代表取締役CEOの伊藤嘉盛氏、
左から、TABLE FOR TWO International チーフ・マーケティング・オフィサーの大宮千絵氏、7garden 代表取締役CEOの北野賢氏、イタンジ 代表取締役CEOの伊藤嘉盛氏、

宿泊に“寄付”という別のきっかけを与える

 KIKKAは約2年前、イタンジの伊藤氏がホテルを開業したいという思いから始まった。2017年の夏には、ホテル事業に着手したことを発表。「当時は、ドミトリーと個室の両方がある簡易宿泊所を想定していた。寄付ができる仕組みなどは全く想定していなかった」と伊藤氏は振り返る。

 ホステルとしてスタートしたKIKKAに寄付の仕組みを取り入れたのは7gardenの北野氏だ。7gardenはKIKKAの運営を担い、ホステルのリノベーションやデザイン、飲食のプロデュースまでを取り仕切る。「地下と1階を飲食スペースにして、2~6階を宿泊施設にする。このコンセプトは決まっていたが、より良い宿泊体験を提供するコンテンツを取り入れたかった。そこで出てきたのがコーヒーと酒にこだわりたいということ。さらにデザインにも独自性を出したが、これだけだと特色が出ない。そこで寄付の仕組みを取り入れて、宿泊に別のきっかけを加えて提供したいと思った」と北野氏は話す。

 インターネットやクレジットカードを使ったものから、衣料など物資の提供、さらにはマッチングギフトなど、やり方はいろいろあるが、寄付は、日本にはなかなか根付きにくい側面も持つ。理由はさまざまあると考えられるが、その1つが寄付ができる仕組みに人々が気付きづらいこと。もう1つが本当に寄付が然るべきところにきちんと届いているのかわかりにくいことだ。

 KIKKAが採用するのは、特定のドリンクや「おにぎりセット」などを飲食することで、代金の一部が寄付に回る、客室のシーツやタオルの交換をしない、アメニティを使わないことで寄付ができる仕組み。宿泊体験の中で、ちょっとした気遣いが寄付に結びつく。

代金の一部が寄付に回る「おにぎりセット」
代金の一部が寄付に回る「おにぎりセット」

 手がけたのは、対象となる定食や食品を購入すると、1食につき20円の寄付金が、開発途上国の子どもの学校給食になる仕組みを提供するTABLE FOR TWO。大宮氏は「本当に素敵な話だと思った。今までもホテルのレストランで1食食べると寄付できる仕組みは提供していたが、アメニティやシーツなど余分なものがあると感じていて、課題意識が常にあった。余分なものを減らして、それが誰かのためになる流れはとてもいいなと思った」と話す。

 北野氏も「シーツの交換をしなければ、ミネラルウォーターを1本プレゼントするなど、余分なものを使わない仕組みは、ほかのホテルにもある。確かに余分なものを使わないのはいいことだけれど、オペレーションコストを減らしたいだけなのかもしれないし、経営側の思いが透けて見えてしまうと感じた。そういう形ではなくては、本当にいいことに結びつく仕組みを提供したいと思った」と、仕掛けを考えていた当時のことを話す。

 頭を悩ませたのは、いかに多くの人にこの仕組みを伝えるか。新しい試みだけに「宿泊で寄付ができる」と聞いただけでは、その内容を理解しづらい。そこで大宮氏は「サスティナブル」というキーワードをピックアップする。「エコやエシカル、ソーシャルといった言葉もあったが、今一番伝わるキーワードは持続可能という意味を持つサスティナブルだろうなと。せっかく寄付などの良いことをしていても、お客様になかなか認知されないことも多い。このホステルのやろうとしているコンセプトを伝えるのに相応しい言葉はないかと考えた。TABLE FOR TWOは1食につき20円が寄付できるという、寄付の中身が明確であることが特徴の1つ。その透明性がそのまま伝わる形に打ち出したかった」(大宮氏)と言う。

 KIKKAで提供するおにぎりセットは、47都道府県の特産品や郷土料理を使い、日本の食文化を一望できるようになっている。バーで出すビールには、徳島県上勝町で作っているクラフトビールを採用。このビールは、ゴミをリサイクルして作った工場で製造しており、街全体でもゴミゼロを目指す、ゼロ・ウェイスト政策を敷く。「日本の食文化に触れる」「無駄を省く」という思いをホステル全体で推進する。

 この思いは、リノベーションにも通じる。天井部には配管がむき出しで、壁もコンクリートの打ちっぱなし。「最小限のリノベーションに留めることで無駄を省いた」と北野氏は話す。ただし、個室にはバルコニーを設置したり、バーやカフェなど共用部の施設を充実することで、ほかのホステルとの差別化を図る。

事務所や倉庫が入ったビルをホステルへとリノベーションした
事務所や倉庫が入ったビルをホステルへとリノベーションした
無駄を出さないようにリノベーションも最小限にして行ったという
無駄を出さないようにリノベーションも最小限にして行ったという

 「ホステル自体の強みは立地。東京駅や日本橋からの距離が近いこと、4駅が使えてアクセスもいい。個室とドミトリーの両方を備えたことで、いろんな人が交わる空間を作れたと思っている。ビジネスホテルだと、同じ属性の人だけが集まり、コミュニケーションは生まれづらいが、さまざまな用途があることで、小規模の新しいコミュニティを生み出せることが大きな特徴だと思っている」と北野氏は、ホステル全体を分析する。

 伊藤氏も「差別化ポイントは現地の人間や宿泊者同士の交流が生まれること。外国人観光客の人が宿泊先にシェアハウスを選ぶ理由の1つは現地の人と仲良くなりたいから。KIKKAはそうしたきっかけも提供できるホステルになる」とした。

ファンを作り周りの人に愛されることがホステルの価値になる

 伊藤氏はKIKKAに「投資の仕組みを変えたい」という思いも寄せる。「KIKKAには、寄付をして誰かを幸せにしたい、いろんな人と出会えるコミュニティの場として側面があり、周りの人から愛されるホステルにできる。ホステルにファンがいることが、ホステルの価値になり、資金を集められたり、生み出したりできるようにしていきたい。今までホテルを作るには、銀行から融資してもらわなければいけなかったが、銀行は利回りやキャッシュフローなど、定量的なものでしか融資を判断しない。しかし最近はクラウドファンディングなど資金を集める方法はほかにもある。その時にファンがいる、愛されるという場所に、出資したいと思う人は必ずいるはず」と、新たな投資の形も視野に入れる。

 今後は、不動産テック企業として業務の自動化や価格設定、予約管理といった部分のIT化を推進し、ホテルの構造にもデジタルの仕組みを取り入れていく計画。イタンジでは、エンジニアが不動産業務を体験することで、新たなサービスを生み出しているが、ホテル事業においても同様にエンジニアがホテル業務を体験し、課題や改善を探る取り組みを始めているという。

 北野氏は「稼働率は個室85%、ドミトリー100%で、5割以上は外国人客にしたい」と目標を据える。宿泊プランだけでなく、日中少しだけ休めるデイユースプランや、朝シャワーを浴びて出社ができるモーニングプランなども検討中だ。「企業の採用にも使ってもらいたい。例えば地方の学生を1週間宿泊させて、最終日にプレゼンするなど、企業や教育との相性はかなりいいと思う」とアイデアは尽きない。

個室にはバルコニーがついている
個室にはバルコニーがついている
地下1階にはバー、1階にはカフェを備え、人が集まる場を提供する
地下1階にはバー、1階にはカフェを備え、人が集まる場を提供する

 「寄付の側面からは、場を作ることが最も大事。ただし、同じことを続けていると飽きられてしまうこともある。ホテル宿泊による寄付の仕組みは斬新だと言われるので、新しい寄付の形としてアピールしていきたい」(大宮氏)と話す。

 伊藤氏は「ファンが増えていくようなホステルにしていきたい。AIやロボティクスの登場により、ビジネスのやり方は変わってくる。そうなったときに残るは気持ち。10年後、20年後に愛されるホステルになっていればいいなと思う」と思いを話した。

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