新規事業で陥りがちな「負のスパイラル」とは--経営者と起案者がすべきこと

 朝日インタラクティブは2018年7月、ソフトバンクをはじめ数多くの企業で新規事業を手がけたスペックホルダー 執行役員/統括プロデューサーの大野泰敬氏を招き、社内勉強会を開催した。本稿では大野氏が語った新規事業を創出する秘けつを紹介する。

スペックホルダー 執行役員/統括プロデューサーの大野泰敬氏
スペックホルダー 執行役員/統括プロデューサーの大野泰敬氏

経営層は明確なビジョンを提示すべし

 2004年からソフトバンクでYahoo! BBなどの新規事業を手がけた後、2006年からCCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)で配信事業に携わり、ソフトバンクに復帰。iPhoneのマーケティング担当者として、すべての戦略に携わり、現在は社会や企業が抱えている問題を技術とアートで解決する団体「4001field」(企業名: スペックホルダー)の執行役員/統括プロデューサーを務める大野氏。VRのベンチャー企業から、リコーなどを始めとする大企業や内閣府を顧客としたコンサルティング業務の傍らで、東京オリンピック組織委員会の戦略アドバイザーも務める。

 その経験から大野氏は、新規事業の創出を目指す企業の多くが「負のスパイラル」に陥っていると指摘する。起案側は自身の提案した企画に対する素早い判断を経営層に求めるものの、説明材料の不足やプレゼンテーションのつたなさから、経営層は判断に至らない。一方で、経営層側も事業計画書を見ずに判断できる経営者は限られる。つまり、両者とも経験が不足しており、人も企業も成長しない負のスパイラルが発生する状態だ。「起案者、経営者ともに変わらなければ、新規事業は育たない」(大野氏)のである。

大野氏が指摘する「負のスパイラル」
大野氏が指摘する「負のスパイラル」

 経営側が成すべきこととして、大野氏は「ビジョンの明確化」「新規事業ガイドラインの設定」「組織作り」「環境整備」「評価制度/採用の見直し」「社内教育や意識改革」を挙げた。たとえばガイドラインは、「感情論をなくすことが大事。昔(同種の事業を)立ち上げたけれど失敗した、といった過去の経験や技術で判断すると、現代に通用するものを見逃してしまう。試験的に開始し、あらかじめ定めた条件を満たしてから本格稼働させるなど、明確なガイドラインが必要」(大野氏)だという。

 また、評価制度/採用の見直しでは、「30年以上の歴史があり、1つの事業が突出している企業に顕著だが、優秀な人材を採用するには評価制度を見直さないと、そもそも入社しない。たとえば、私服NGではエンジニアが集まらないこともある」(大野氏)など、古い評価制度や採用基準を用い続けている企業は、新規事業創出の大きな障壁となると説明する。ほかにも、ビジョンを全社に落とし込んで新規事業創出の阻害要因を抑止する組織作りや、IT投資を含めた環境整備で社内に新規事業を創出しやすい地盤作りが必要だと語った。

起案者が気をつけるべき3つのこと

 他方で起案者が成すべきこととして、「情報収集」「資料作成」「プレゼンテーション」の3つが重要だという。これまで58もの事業を立ち上げてきた大野氏は、その理由として、「情報を正確に把握し、問題点を洗い出して課題解決案を提示するプランを資料化。そして、それらを説明できたからだ」(大野氏)と述べた。もちろん新規事業に100%の成功はあり得ない。だが、「会社の課題を整理し、自分の考えを可視化することで、決済承認の確率が格段に上がる」(大野氏)という。

 その100%の成功を実現する際に注意すべき点が、「感情論に走ってしまう」「対策が不十分」「資料回答集が不足し、回答がその場でできない」の3つ。「プレゼンテーションにストーリーを持たせつつ、つまらない資料よりも(経営層・顧客に)ワクワク感を持たせることで、飽きずに最後まで見てもらえる。さらに質疑応答もやりやすくなる」(大野氏)そうだ。

 プレゼンテーション資料は10〜16枚以内にまとめ、安心感を与えるプレゼンを心がけるためには、「2週間前からプレゼンテーションを練習していた。自身で嫌な役員を演じて200〜300の回答を想定し、どんな質問をされても適確に回答すれば安心感を与えられる」(大野氏)とコツを語った。

「核心部分はAppendix(付録)にまとめるのが重要」と大野氏
「核心部分はAppendix(付録)にまとめるのが重要」と大野氏

 また、資料では詳細すべてを語らず、核心部分はAppendix(付録)にまとめるのが重要だという。なぜなら、「事前に話してしまうと、後で(役員が質疑応答で矛盾点を)指摘する要素を用意することで、質疑応答が盛り上がる。メインページで出し尽くすと質問が出てこない」(大野氏)からだ。この点については多くの発表会に出席する筆者も同感である。

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