国内外で数社のスタートアップを起業し、現在は各企業のアドバイザーやCSO(最高戦略責任者)を務めながら、2017年11月に「起業の科学 スタートアップサイエンス」を上梓したユニコーンファーム 代表取締役社長 田所雅之氏。日々スタートアップの育成支援に注力している田所氏が考える新規ビジネス創生の重要ポイントとは。聞き手は朝日インタラクティブ 編集統括 CNET Japan編集長の別井貴志が務めた。
――ユニコーンファームとは、どのような企業でしょうか。
ウェブにもあるとおり「ユニコーン企業を1000社輩出する」ことを目的としています。イノベーター(革新者)を多数創出したいと考えました。イノベーションに必要な要素を分解し、研修やアドバイス、もしくはサービスを通じて身に付けてもらうことを目標としています。
その必要な要素が「6つのSと1つのC」です。専門知識や実行力、万能型コンピテンシー(行動特性)を持つに超したことはありませんが、それだけでは不十分。Strategist、Story Build、Story Designer、Story Finder、Story Marketer、Story Teller、Catalyzer/Team Builderをコンピテンシーとして供えることが、必要な要素だと思っています。
まずStory Finderは、今後登場するテクノロジや社会変化に対応し、生まれつつある市場を見つけます。そして、現場に行って顧客の声を聞くだけでなく、まだ顕在化/言語化されていない「心の叫び」を炙り出すデザインシンキング的なアプローチを可能にする能力です。新規事業を興すのは1年後に利益を最大化するのではなく、「5年後のユーザー」を指すStoryをターゲットとして見つけ出すこと。ユーザー体験型時代に沿ってデザインすることが重要です。自社が持っていない技術をエコシステムで実現するといったStory Builder。作った製品を適正なチャネルで広めるStory Marketer。仲間やパートナー、投資家を集めるStory Teller。各局面で必要なヒト・モノ・カネを集めるStrategist。かつCatalyzerは際立った人びとを管理し、自身が触媒として組織を構成します。
さらに3つのリソースが欠かせません。各企業はさまざまアイデアを持っていても、1人1人がどのような欲求を持っているかを、前述したStory FinderとResource Finderが浮き彫りにさせる必要があります。社内新規事業であれば組織外の協力者も欠かせません。それがInternal Story Tellerです。そして大きな市場を作るのであれば、サプライヤーや産学官のエコシステムを生み出すEcosystem Orchestratorも必要となるでしょう。
――まもなく開催するアクセラレータープログラム「B-SKET」とは?
私がCSOとして携わるベーシックでは、B2B領域スタートアップ向けアクセラレータープログラム「B-SKET」を2018年7月20日から実施します(応募受け付けは同年6月21日から7月14日まで)。アクセラレーターはオープンイノベーションにおける1つの形ですが、多くの企業が自社で取り組むのは難しいのが現状です。
その理由はさまざまなものがありますが、1例を挙げると最初はイノベーションを追求しますが、歩留まりの削減や貢献レートの向上など目的が変わるケースは珍しくありません。ある意味で健全な流れとも言えますが、IPO(新規上場株式)後はリスクの許容度が下がります。
オープンイノベーションとは自社と外部との協力ですが、協力の深度と範囲で見ると、多様な施策が存在することがお分かりでしょう。ここから先に進むと共同実証実験やオープンイノベーションプログラムへの参加、そして業務事業提携やリソース提供に至ります。
本プログラムでは、実践的なメンタリングや事業開発サポートを通じて、短期間で事業価値を最大限に高めることを目的としています。注目してほしいのは「6つの箱」でしょうか。目的をファイナンス、カスタマー、オペレーション、人材スキル、ミッション/ビジョン/バリューと事業全体戦略の6つに分けてスタートアップの課題を洗い出し、6つの要素を強化します。約4カ月のプログラム期間で、時価総額を2~3倍くらい伸ばすようなサポートをしたいと考えています。
――新規事業を起こすうえで重要なことはなんでしょう。
市場熟成度に沿って建物をフロアーごとに分けた「3階建て組織」が重要です。1階には企業のコアビジネスでキャッシュを確保し、オペレーションの最適化がKPI(主要業績評価指標)となるでしょう。2階は新規事業。こちらは市場の取り合いに当たるため、個性的な人材を集めて市場を開拓し、マーケットシェアや売り上げがKPIとなります。
そして、3階もしくは屋上に位置するのがオープンイノベーションです。市場成長率も不明な状態のため、洞察材料を蓄積できた、(製品と顧客需要が同時化した状態を指す)PMF(プロダクトマーケットフィット)の達成率をKPIとしました。それぞれの注力度は、(1階が)0:1、(2階が)1:10、(3階が)1:100にすればバランスがいいでしょう。
各企業の課題となるのが、「各階層の切り分けができていない」という点です。そもそも3階は実験の場であり、前述したとおりKPIも同じではありません。そのため、各階にStory FinderやStory Builderなど適切な人材配置が必要になります。ここを見誤るとうまく行きません。
ただ、1階&2階経営という少数の事業を長いライフサイクルで回すのではなく、多数の新規事業を興して芽が出そうな部分に注力する。それがアクセラレーターの役割ではないでしょうか。
――大企業が新規事業に取り組むと、上司や管理職が潰すケースが多いように思います。
それは組織を3階建てにするしか方法はありません。2階建てだと質問にあるようなケースが多発しますが、「3階は実験場」と割り切ってもらう必要があります。(そのため既存の状態では)難しいでしょう。1つの方法としては、外のスタートアップと連携するのが現実的です。
とある大手携帯通信企業も最初は失敗していました。コアビジネス(1階部分)が強い企業はスタートアップを下請けとして見ている傾向があります。それでも黒船の到来(グローバル企業の日本進出)やコアビジネスに対する危機意識を供えてからは、業務提携から始まり、FOF(ファンドオブファンズ)、そしてファンドを成功させてきました。
重要なのは最初から成功したのではなく、多くの間違いを経て少しずつ知見を蓄積し、アクセラレーターやCVC(コーポレートベンチャーキャピタル: 社外のベンチャー企業への投資や投資活動を行う組織)と段階を経て進めていくことです。
――現状を踏まえると、3階建て経営ができない企業に先はない?
同感です。自社が動かなくても他社がディスラプト(破壊)することは、(旧態依然の)経営者は理解されていることでしょう。ただ、すべての業界においてディスラプトが進んでおり、他社が行うか自社で行うかの違いです。断言できるのは、コアビジネス(1階部分)と同じ管理体系を(2階や3階部分に)用いてはうまく行きません。(3階部分は)同じビル内でも違う組織として階層を分けるべきでしょう。
確実に自社を3階建て組織に変革させる方法は、3つあります。1つは新規事業をオープンイノベーションさせる土壌(風土・文化)となる社員。もう1つは経営陣が健全な危機意識を持つこと。明らかに既存ビジネスが収縮して行く場合、その先はありません。最後は戦略的な3階建てへの移行です。
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