ソニーは5月22日、経営方針説明会を行い、4月1日付けで代表執行役社長兼CEOに就任した吉田憲一郎氏が、経営方針および中期経営計画について発表した。吉田氏が社長就任後、会見を開くのは今回が初めてとなった。なお、今回発表した中期経営計画を「第3次中期経営計画」と呼び、前任で現在会長を務める平井一夫氏が取り組んできた、2回に渡る中期経営計画との継続性を強調した。
2020年度を最終年度とする第3次中期経営計画では、2020年度までの3年間の営業キャッシュフロー(金融分野を除く)で2兆円以上を目指すとともに、連結株主資本利益率(ROE)10%以上を継続することを掲げた。
売上高や営業利益目標については公表しなかったが、その点について吉田氏は、「長期的視点での経営を大事にしたいと考えたのが理由である。3年後の営業利益目標を出すことは大切だが、3年後の営業利益目標をこだわった経営になる可能性がある。そこで、累計キャッシュフローを3カ年の指標に据えることにした」と説明。さらに、「利益については、利益成長よりも、リカーリング比率を高めることで、利益の質を改善することを目指したい」とも述べた。
だが、2020年度のセグメント別営業利益目標を別途公表しており、これによると、ゲーム&ネットワークサービス分野では1300~1700億円、音楽分野は1100~1300億円、映画分野は580~680億円、ホームエンタテインメント&サウンド分野は750~1050億円、イメージング・プロダクツ&ソリューション分野は850~1050億円、モバイルコミュニケーション分野が200~300億円、半導体分野は1600~2000億円を見込んでいることを明らかにした。
最低ラインでは6380億円、最大では8080億円となり、これに金融分野の利益が加わることになる。ソニーは、2017年度の連結業績において、営業利益で過去最高となる7349億円を達成。これを維持する方向性を打ち出したともいえる。
さらに、スマホやデジタルカメラ、テレビなどのソニーブランドのエレクトロニクス製品である「ブランデッドハードウェア」に関しては、1800~2400億円の営業利益を目指すとした。
そのほか、投資についても言及。コンテンツIP、DTCサービス、半導体IPへの継続投資、AI×ロボティクスおよび医療領域への投資を示しながら、「設備投資は3年間累計で約1兆円とし、イメージセンターを中心に設備投資を行うことになる」とした。
第3次中期経営計画では、音楽、映像、アニメ、ゲームといったコンテンツIPを強化することや、関心を共有する人々のコミュニティであるCommunity of Interestを創り出すこと、ブランデッドハードウェアを安定的に高いレベルのキャッシュフローを創出する事業とし、持続的なキャッシュカウ事業にすること、CMOSイメージセンサの領域で、イメージング用途での世界ナンバーワンを維持するとともに、新たにセンシング用途でも世界ナンバーワンを目指すことを掲げた。
さらに、ムバダラインインベストメントカンパニーが主導するコンソーシアムが保有する、EMI Music Publishingを運営するDH Publishingに関する約60%の持ち分すべてを、ソニーの完全子会社であるSony Corporation of Americaが取得することを発表。「これによって、ソニーは、世界最大の音楽出版企業になる。これは、今後のソニーの成長の布石になる」と位置づけた。
好調なプレイステーション事業についても言及した。プレイステーションを中心とするゲーム&ネットワークサービス分野の売上高が1兆円を超えたこと、月間アクティブユーザー数が8000万人を超えたことに触れ、「『プレイステーションネットワーク』は、世界有数のネットワークサービスとなった。今後は、サブスクリプションサービスであるPlayStation Plusの会員数のさらなる拡大のほか、PlayStation VR、PlayStation Now、PlayStation View、PlayStation Video、PlayStation Musicといった商品やサービスを利用してもらうことで、プレイステーションネットワークへの訪問頻度と利用時間を増やすことで、ユーザーエンゲージメントを増やしていく。これが、プレイステーションにおける成長戦略の基本になる」と語った。
また、音楽事業、映画事業ではコンテンツIPの強化や、メディアネットワーク事業の展開、金融ではDTC(Direct to Consumer)サービスの強化、フィンテックに取り組むことなどを示した。
一方で、吉田社長は、「ソニーのミッションとキーワードは『感動』である」と宣言。そして、「感動を作るのは人であり、感動するのも人である。『感動』と『人に近づく』をキーワードに、エレクトロニクス、エンタテインメント、金融の3つの事業領域において、持続的に社会価値と高収益の創出を目指す」と宣言した。
「感動」については、「今回の中期経営計画では、私の色はあまり出ていない。『感動』というヒジョンも変わらない。だが、『感動』を突き詰めることを目指したのが、今回の中期経営計画である」とし、また、「人に近づく」では、「第3次中期経営計画は、感動を作る人と、感動する人を近づけるものになる」と述べた。
さらに、「テープレコーダーとトランジスタラジオから始まった当社のエレクトロニクス事業は、感動を作る人と感動する人の間に存在している。撮る、録る、再生する、観る、聴くという当社のブランデッドハードウェアは、ユーザーとクリエーターの両者をつなぐことになる。また、1968年に設立したCBSソニーレコードから始まったエンタテインメント事業は、感動をもたらすコンテンツによる事業展開であり、50年を経過して、今では、クリエーターによる感動コンテンツの創造をサポートしている。ここでは、クリエーターに近づくことが行動規範となる。
そして、1981年のソニープレデンシャル生命保険(現ソニー生命)により始まった金融事業では、顧客と直接つながるリカーリングビジネスを、DTCサービスと名付け、これが当社の経営のキーワードになっている。ここでの行動規範は、ユーザーに近づくことである。私はソネットの社長時代に、コールセンターの朝礼で、できるだけ多くの人に、できるだけたくさんのサービスを、できるだけ長く使ってもらおうということを語っていた」などと述べた。
会見の冒頭に、吉田氏は、「ソニーの72年の歴史のなかで、私は11代目の社長に当たる。創業者の井深大や盛田昭夫には、直接的には薫陶を受けたことはないが、1993年9月に一度だけ身近で話を聞く機会があった。赴任先のニューヨークであり、盛田が脳溢血で倒れる2カ月前のことであった。
ソニーは、米国から多くのことを学んできた。米国を追い越したと思っている日本企業もあるかもしれない。だが、ソニーはもう一度謙虚に米国から学ぶべきだ、というものだった。その危機感はインターネットのことではなかったかと思っている。ネットスケープが登場し、アマゾンが誕生したのはその翌年のことである。ソニーは、1997年に過去最高益を記録し、インターネットがソニーの経営に深刻な影響を及ぼし始めるのは21世紀に入ってからである」とした。
そして自らの経営に言い聞かせるように、「改めて、経営における危機感、謙虚さ、長期視点の大切さを感じている」などと述べたほか、「ソニーの金融事業は、長期視点の象徴である。20年の計をもってこの事業に参入したが、累積損失を解消するのに20年を要した」などと語り、ソニーの経営の基本姿勢に戻ることを示してみせたのが印象的だった。
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