MQA-CDが日本から登場したのには、日本ならではのオーディオ事情が大きく関わっている。日本は今でもCD大国として、パッケージ人気が根強い。この人気を受け、各レコード会社でもCDの高音質化に熱心で、ディスク製造に液晶パネル用のポリカーボネイト樹脂を用いた「SHM-CD(スーパー・ハイ・マテリアルCD)」や、反射膜素材に特殊合金を使った「HQCD(ハイ・クオリティCD)」などを生み出している。
今までの高音質CDが材料論だったのに対し、MQA-CDは信号処理を変えた新たな方向だ。MQAは折り紙効果を使うことで、CD同様の容量になるが、デコーダーを使わず通常のCDプレーヤーで再生した場合でも、MQAでエンコードされていれば、CD帯域でも時間軸解像度は細かくなっているはず。つまり今まで4000マイクロ秒という粗い時間軸解像度に比べると、さらに細かくなることで高解像度化され、高音質化に結びつくはずだ。
そこで、2017年に開催した国際放送機器展「Inter BEE 2017」で、デコーダーを通した再生とデコーダーを通さず通常のCDプレーヤーで再生したMQAファイルの聴き比べを実施した。すると、エンコードしていないものでもMQAのCDの音が素晴らしいことがわかった。聴き比べでは、エントリークラスのCDプレーヤーを使用したが、それで聴いても十分に違いがわかる高音質を再現。柔らかくしなやかでナチュラルな音を聴くことができた。
MQAジャパンではその後、MQA-CDを広めるため、レコード会社向けのセミナーを開催。これに来場していたユニバーサルミュージックの担当者が、MQA-CDに閃いた。普通のCDプレーヤーで聴いても、この音質なら、新しく「高音質シリーズ」として新編成できるし、MQAデコーダーを通すと、ハイレゾが得られる。そこで「ハイレゾCD」と名づけ、リリースを決めた。
ユニバーサルミュージックがハイレゾCDを発売する意義は大変大きい。影響力の大きいメジャーレーベルから発売されることで、多くの人にMQA-CDを知らしめ、さらに、今までにない高音質CDを発売することで、過去の名盤カタログタイトルの活性化にも寄与する。
デコーダーを通して聴けば、前述のようにリニアPCM以上の高音質を再生でき、通常のCDプレーヤーで聞いてもCDを大きく上回る音質を再現する。ハードウェアの改良以上に高音質化の効果があるといえるだろう。材料はメモリーテックのUHQCDなので、材料と信号処理の二重効果で音を良くした。今後、すべてのCDがMQACDになるトレンドも見える。
ユニバーサルでは、ハイレゾデータを折りたたんだCDに収録したハイレゾCDを、6月に100タイトルをリリース。税別3000円(2枚組は4000円)と通常のCDと同程度の価格だ。
MQAは、CD以外にもコンサートの生配信などにも使われようとしている。パケットを気にせず使えるほか、遅延も起こさず、高音質を配信できる方式として注目を集めている。
MQAが担うのは、広い意味での音の発展だ。例えばテレビの世界では2Kから4K、8Kと映像のハイレゾ化が見えている。が、音はいまだにハイレゾ化されていない。オーディオだけに留まらない音の発展はMQAにかかっているといっても過言ではない。ネットストリーミング、放送はMQAの次のターゲットだ。
開発者であるスチュアート氏は、早くから音の信号処理技術に着目した発明者だが、彼のすごさは行動者でもあること。MQAがここまで浸透した理由は、スチュアート氏がオーディオメーカやレコード会社などに単身で乗り込み、デモをし、そのメリットを広く説いたからにほからない。
6月16~17日に東京都千代田区の東京国際フォーラムで開催する「OTOTEN」では、「今明かすMQAのすべて!」“MQAの最新情報を知り、MQAを聴く”と題し、私、麻倉怜士とボブ・スチュアート氏によるMQAセミナーを開催する。開発者であるスチュアー氏から話が聞ける貴重な機会なので、ぜひ足を運んで欲しい。
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