アニマルセラピーに代わるぬいぐるみロボット、患者の心のケアに一役 - (page 3)

Patrick Holland (CNET News) 翻訳校正: 川村インターナショナル2018年04月13日 07時30分

アザラシ型ロボット、パロ

 パロは1993年に日本でプロジェクトが始まり、2005年に生産が開始された。現在9世代目となるパロは30カ国以上で使用されており、認知症やがん、不安症、自閉症、ダウン症の患者を癒やしている。2011年、アニメ「ザ・シンプソンズ」にパロのパロディーが登場したことはよく知られている。そのエピソードで、登場キャラクターのバートとマーティンは老人ホームの入居者を幸せにするため、ペットロボットを作った。2015年には、Netflixのドラマシリーズ「マスター・オブ・ゼロ」にも登場している。

 タテゴトアザラシをモデルとし、人間の赤ちゃんと同じくらいの大きさのパロには、多数のセンサやマイクが搭載されている。パロはそれらを使って、さまざまな動きをしたり、本物の赤ちゃんアザラシのようにうれしそうな鳴き声を出したり、体温を調節したりする。目を閉じたり、開いたりすることもできる。さらに、顔を認識することも可能で、なでられたり、抱きしめられたりすると、音を出して反応する。それに、パロが愛くるしいということは、もうお伝えしただろうか。

 米国では、パロは脳損傷や心的外傷後ストレス障害(PTSD)に苦しむ退役軍人を癒やしている。カリフォルニア州リバモアにある退役軍人病院の老年心理学者であるGeoffrey Woodward Lane氏によると、パロはボランティアの動物より実用的だという。Lane氏は、次のように述べている。「必要があれば、パロを入院患者の部屋に置いておくことができる。世話をする人は必要ない。基本的に、パロはアニマルセラピーの面倒な部分なしに、その利点だけを提供する」

 Lane氏は高齢者の精神疾患を治療する心理学者だ。同氏は、第二次世界大戦で海軍に従軍したRayさんという退役軍人の話を聞かせてくれた。Rayさんは認知症を患っており、同退役軍人病院に入院している。

 Rayさんは夕方頃に不安な気持ちに襲われることが多く、その不安は背中の痛みによって悪化する一方だった。だが、Lane氏がRayさんにパロを与えると、すぐに気分が明るくなった。「Rayさんはパロに話しかけて、パロの鳴き声をよくまねしている」(Lane氏)

 それからの2年間、Rayさんは週に1回、パロを抱きしめたり、なでたりして時間を過ごした。パロと過ごす時間のおかげで、Rayさんはほかの入院患者や職員とより積極的に交流するようになり、一部の薬を摂取する必要も少なくなった。

 筆者がLane氏、パロと一緒に病院内を見て回ると、患者たちは、まるで有名人が訪問したかのようにパロに反応した。患者たちから、「あのアザラシだ」「パロが来たぞ」という声が聞こえてきた。愛らしいパロをなでることで、患者が元気を取り戻したり、リラックスしたりする様子を実際に見るのは、驚くべき体験だった。退役軍人の1人であるJohn Wilsonさんはパロを抱きながら、ずっと笑顔を浮かべていた。パロは首を伸ばして、大きな目をぱちくりさせ、クークーという音を出して反応した。


パロを抱えるWilsonさん
提供:Josh Miller/CNET

 「認知症の患者たちは、よくパロを本物の生きた動物と間違える。私は、ほとんどの場合、患者がパロを気に入っている限り、そう思い続けていいと思っている」(Lane氏)

 パロを開発したのは、日本の国立研究開発法人産業技術総合研究所(AIST)の上級主任研究員である柴田崇徳氏だ。柴田氏はパロに関して、さらに大きな夢を抱いている。

 「私はパロを、火星への飛行などの長期任務において宇宙飛行士の精神衛生を助ける相棒にすることを提案している。宇宙飛行士が動物を宇宙に連れていくことはとても難しい。パロは宇宙飛行士のストレスを軽減し、人的ミスのリスクを下げるかもしれない」(柴田氏)

セラピーロボットの未来

 セラピーロボットは基本的に人を思いやるように設計されている。病気を治すことはないが、最も必要とされるときに、子どもや大人に希望や共感をもたらす。セラピーロボットは友達だ。

 こうしたセラピーロボットの未来は明るい。しかし、多くの画期的な技術と同様、その長期的なメリットは現時点では不明である。癒やしや安心感を与える潜在的可能性は明白に思えるが、ロボットを心の支えとして利用することは、倫理面にどのような結果をもたらすのだろうか。それは、高齢化や高齢者のケアに対する社会のアプローチを変えるのだろうか。

 筆者は病室にいた母親を思い返しながら、そのときセラピーロボットがあったら、ペットの猫の代わりを務められただろうか、と考えた。最終的には、筆者の兄弟が猫のCapucineの写真をプリントアウトして、母に渡してくれた。その写真を見て、母の目は輝き、顔色が健康的になった。筆者にとって、その瞬間は素晴らしい思い出だ。

この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。

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