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熟練者の“介護ノウハウ”をAIが伝授--エクサウィザーズが提案する「コーチングAI」 - (page 2)

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介護現場に“良い介護”を普及させるコーチングAI

 こうして、エビデンス・ベースド・ケアによって何が“良い介護”なのかを解明できるようになってきた。では、この“良い介護”を介護の現場にどのように広げていけば良いのだろうか。石山氏によると、そこでも人工知能が活躍するという。つまり、人工知能によるコーチング(コーチングAI)の実現だ。「熟練の介護者の能力を人工知能が学習して、介護初心者にその能力をコーチングする」(石山氏)。

 具体的には、まず介護初心者がケアをしている様子を動画で撮影し、熟練介護者がその動画をタブレットで視聴して赤ペンを入れながら指導する。その指導内容は人工知能に蓄積されて教師データを構築。次の介護研修の際には、天井に設置したカメラと介護者が装着したメガネ型カメラによって撮影された動画を人工知能が解析して、その様子を評価するのだという。これにより、都度熟練者が指導しなくても、介護初心者は人工知能に蓄積された教師データをもとに的確な指導を受けることができるようになるというのだ。


エクサウィザーズが開発した「コーチングAI」の仕組み

 「病院や施設単位で熟練者が直接指導すれば良いという意見もあるかもしれないが、2045年には50歳以上の人口が6割になることを考えると、今よりも在宅ケアなどの必要性が高まる。すると、そこでは熟練者が指導しながら介護をするというのは難しくなる。そういった状況を、人工知能を活用することで解決し、良い介護コミュニケーションを生み出すことができれば」(石山氏)。

 一方、石山氏は介護現場におけるもうひとつの活用法として、認知症の症状の進行予測を人工知能が行うという事例も紹介した。具体的には、要支援・要介護などの認知症の認定データを人工知能が分析し、今後の介護度の進行を予測。進行の可能性がある被介護者に重点的なケアを行うことで、実際の進行を防げるようになるという仕組みだ。さらに、この取り組みは予防以上の意味がある。認知症は時間とともに症状が悪化することが多く、従来、ケアの介入効果を可視化することが難しかった。例えば、要介護度4の人に介入したら、要介護度が変化しなかったとすると、効果が無かったように見える。しかし、人工知能の予測により、一定の確率で要介護度が5になるはずだったとしたら、4で抑制できたことの価値が見える化されることになる。

 「介護度が上がると社会保障費の支出や介護者のコストも大きく増える。エビデンス・ベースド化されたケアによる被介護者の症状の改善結果を介護度に紐付けられると、PDCAサイクルを回すことができるようになり、将来的な社会保障費の抑制に繋げることが可能となる」(石山氏)。


要介護者の個票を分析して将来の症状進行を人工知能が予測する

コーチングAIを“働き方改革”に応用する

 石山氏は、このエビデンスに基づいて人工知能が的確に指導するコーチングAIについて、今後超高齢化社会の到来とともにやってくるもうひとつの課題である労働人口の減少にも応用できると説明する。「50歳以下の人口が4割にまで減少することで、労働生産性を高めるための働き方改革が大きな課題になる。こうした状況に対して、コミュニケーションの模様を解析して人工知能がコーチングするというコーチングAIの仕組みを様々なビジネスに応用していきたいと考えている」(石山氏)。

 たとえば、将棋の藤井六段をはじめとする若い棋士たちの間は、人工知能を使って将棋のトレーニングをするのが当たり前になっているのだという。同じように、営業や接客、スポーツ、保育、製造などの現場でコーチングAIを活用したトレーニングを普及させることで、優秀な人材を生み出すことが期待できるのだ。「コーチングAIによって各業界・職種に将来のイノベーションを生み出すような人材が育まれると、今後の若い世代も続けて人工知能によるトレーニングを実践していくようになる。2017年11月にはHR Tech分野のサービス「HR君」を発表しており、介護現場向けに開発したコーチングAIと分析・予測技術を組み合わせて人材育成に活用することができる」(石山氏)。


スタッフのパフォーマンスを人工知能が分析・評価して必要なコーチングを行う

人工知能による将来のパフォーマンスに基づき、必要な対応を考えることができる

 講演の最後に、石山氏は超高齢化社会や労働人口の減少などのさまざまな社会課題を解決する人材を増やすために何が必要かというテーマで、次のように提言した。

 「シリコンバレーでは、“時間を通じて嘘を本当に変える力”によってイノベーションを生み出している。この力は“フィクションを作る力”と“フィクションをノンフィクションにする力”に分解される。たとえば、この課題を人工知能でこう解決できるかもしれないと考えるのが“フィクションを作る力”であり、それを実現して人工知能を実装するのが“フィクションをノンフィクションにする力”。日本の企業は、技術力は高いのに“フィクションを作る力”が弱い。社会課題に対して人工知能を利活用できれば、もっと社会がよくなるかもしれない”と仮説を打ち出していく力がこれからの時代に重要になっていくのではないか」(石山氏)。

 その上で、社会課題が生まれている現場を取材して正確に捉えるセンシングの力、センシングした社会課題を解決するためのストーリー(課題解決のための仮説)を生み出して科学でレバレッジする力、そのストーリーを世の中に発信して仲間を作る力、そして集まった仲間と共に世の中の変化を実現するまでやりきる力が必要であると提言した。

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