2月27と28日の2日間に渡って開催されたイベント「CNET Japan Live 2018 AI時代の新ビジネスコミュニケーション」で、2日目最初の講演で登壇したのは、hapi-robo st代表取締役社長の富田直美氏。1人乗り用電動モビリティで登場し、来場者の度肝を抜いた同氏は、「人を幸せにするテクノロジーは何か」について、刺激的な言葉で語り始めた。
講演が始まるやいなや、電動モビリティにまたがって颯爽と現れた富田氏。セグウェイを買収した中国企業NinebotのNinebot mini Proを自在に操り、その洗練された技術と購入価格約10万円という安さ、そして御年70を迎えながらも自転車よりも簡単に乗れて、歩くよりもずっと素早く、簡単に移動できることをアピールし、「みなさん買い物好きなはずなのに、こんなに素晴らしいものをなぜ買わないのか、経験しようとしないのか」と、来場者に問いを投げかけた。
こうした製品については、日本国内の法律の問題で好きな場所で利用できず、多くの人々の関心を奪っている可能性はもちろんあるが、「世の中にはいろんなものがあふれているのにみなさんは経験していない。話を聞く、本を読むというだけでは意味がない。ベストプラクティスとか、テンプレートとか、他人が作ったものを活用して生きてきたのでは」と述べ、優れたモノやコトを自分自身で体験することと、自らの力で考えることの大切さを説いた。
自分の力で経験し、考えるということを大事にする同氏は、昨今のAIやIoT、ロボットをはじめとしたテクノロジの“行きすぎた商業主義”に違和感を覚えている。「技術は幸せにしてきたか、楽になることは幸せか」と問いかけ、必ずしもテクノロジの発達が人の幸せにつながるわけでも、楽になるのがいいわけでもない、と語る。「自動運転はドライビングスキルが落ちる。昔、洗濯は手でやっていたが、自動洗濯機のために今は人の体力が落ちているだろう」とし、人の能力に悪影響を与えると感じているのがその理由だ。
同時に、テクノロジの限界についても言及する。ディープラーニングやビッグデータなどのおかげで囲碁・将棋で人間を上回る成績を実現していることは認めつつも、自然と人が身に付けた運動能力などについては「飛んだり跳ねたりして、障害物を乗り越えながら自在に歩けるロボットはまだない」ことが、これまでのところの技術の限界を示しているとした。
では、人を幸せにする技術とはどういうものなのだろうか。富田氏は、同氏がアトラクションの企画などにも関わる長崎のテーマパーク「ハウステンボス」を例に挙げた。ハウステンボスは、同氏によれば「世界で唯一、環境改善しながら人を喜ばせてきた」テーマパーク。運営開始から20年間ほど赤字続きだったハウステンボスだが、元は「モナコと同じ大きさの埋め立て地に工場を誘致するために用意した」土地。長い間売れず、環境汚染が始まったことから、当時の「長崎オランダ村」によって約2000億円かけて環境改善が進められたとのこと。
それがハウステンボスにも引き継がれたわけだが、こうした環境保全の取り組みも含めた「環境会計」という視点では、赤字が続いていたときでもトータルで1890億円のプラスになっていたという。近年は旅行会社H.I.S.の傘下となって黒字転換を果たし、「今はハッピー。でも実は借金だらけだったときも、お客様(の表情)はハッピーだった」と振り返る。
そのハウステンボスで現在運営されているアトラクションの1つが、富田氏の企画した「ロボット王国」。世界中のロボットを体験できるというものだ。また、同氏は数々のロボットが受付や雑務をこなすハウステンボス内の「変なホテル」の立役者であり、2017年に実施された300機のドローンが夜空に光のアートを描く「ドローン・ライトショー」も、同氏のhapi-robo stがプロデュースした。
平昌オリンピックで飛んだドローンはハウステンボスの時と同じスタッフの手によるもので、ハウステンボスではその半年以上前からその先進技術で来場者を魅了してきたことになる。同氏いわく「ハウステンボスは数年前に300億円を売り上げ、100億円の利益が出た。H.I.S.グループの中ではすごい利益率」を達成している。技術によって高い売上と利益率、すなわち人々の「幸せ」に貢献してきたというわけだ。
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