シカゴで画廊を営むBert Green氏は、もともとテクノロジ好きだったこともあって、2013年にビットコインでの支払いに応じ始めた。米国では、早期からこのデジタル通貨を扱ってきた画廊のひとつだ。
だが、計画どおりには進まなかった。
「めったに使われなかった。誰もビットコインで取引しない」と、Green氏は当時を振り返る。同氏の画廊Bert Green Fine Artで、過去4年間に暗号通貨で売り上げがあったのは、たったの2件だった。
Green氏の体験が特別なわけではない。ビットコインをはじめとするデジタル通貨は、ご存じのように「通貨」と称されてはいるものの、実際には投資の手段あるいは貯蓄が目的になっている。こうした動きが加速したのは、2017年だろう。ビットコインの価格が、同年2月の約1000ドル(約11万円)から12月までに2万ドル(約210万)近くまで高騰したときのことだ。それ以来、暗号通貨は一般家庭でも話題にのぼるようになった。
暗号通貨の消費が進んでいない現状を見ると、その将来的な可能性には限りがありそうだ。ビットコインやイーサリアムといったデジタル通貨は、投資家とマニアの世界にとどまるのかもしれない。そうなれば、人々が日常的に使い、世界中どこの店頭でも、またウェブサイトでも使えるという待望の世界貨幣になる見込みは低い。
2018年に入ってビットコインの価格が急落してからも、そうした見込みに到達できるかどうかは、誰にも予測できない状態だ。
「それこそ超難問で、ビットコインの次の展開はなかなか読めるものではない。解明するのは本当に困難で、それも価格変動の一因になっている」と語るのは、独立系調査会社DataTrek Researchの共同創業者Nick Colas氏だ。同氏は、2012年から暗号通貨の動向を追ってきた。
暗号通貨の展望は、ずっとこのように不透明だったわけではない。2013年までさかのぼると、ビットコインは来たるべき新しい通貨として期待され、政府の束縛を受けず、やすやすと国境を越える、そして、ユーザーの匿名性も維持されるとうたわれていた。
こうした新しい概念を自ら体感しようと、同年、ビットコインしか使わずに1週間を過ごし、その体験をForbesに寄稿したのがKashmir Hill氏だ。ビットコインを使える店を探すだけでも、大変な苦労だったという。同氏は現在、サンフランシスコでGizmodo Media Groupのシニアレポーターとして活躍している。
Hill氏は、その1年後にも同じ実験を試みている。デジタルトークンを使える店は増えたものの、そのほかに多くの問題にぶつかることになった。ある日、同氏はビットコインを使える地元のスーパーでランチを買おうとする。だが、支払い処理が進まず、空腹のまま過ごすことになったという。取引が完了したのは1時間以上たった後だった。
「私の経験でも、ビットコインはあまりに扱いにくく、最寄りのATMまで行って預金をおろすより手軽になるとは考えにくい」(Hill氏)
また同氏は別のときに、10ビットコインを払って、大勢の赤の他人に寿司をおごったことがあった。2013年当時で約1200ドル(約13万円)相当だったが、現在の価格で言えば10万ドル(約1100万円)近くに当たる。
「それほど価値が高騰するかもしれない通貨を、今だったらとても使えないだろう。使っているうちに、頭が変になりそうだ」とHill氏はコメントしている。
同氏の実験で、ビットコインの消費には不便な点が山ほどあることが明らかになった。使える店舗はごくわずかで、何か買おうと思っても、そう簡単にはいかない。大抵は、公開鍵と呼ばれるオンラインアドレスを使って、デジタルウォレット間で資金を移動する必要がある。しかも、暗号通貨の愛好家は、次の価格急騰を逃したくないと考えるあまり、デジタルトークンを手放そうとしないのだ。
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