テクノロジと並んで知財の二大柱であるブランディング。選んでもらうに値する機能をテクノロジで実現することと同時に、プロダクト自体を知ってもらうための努力も欠かせません。そして、ブランディングにおいて最も基本となるのがネーミングです。ただ、ネーミングは簡単に済ませることもできる一方、考えれば考えるほど難しくもあります。
そこで日本経済新聞社が2017年に未上場有力スタートアップを対象に実施した「NEXTユニコーン調査」の企業価値上位10社のプロダクト名を分析してみます。各社のプロダクト名をみていくと、ネーミングを考える上での軸が見えてきます。
まずフリマアプリの「メルカリ」。「market」の語源であるラテン語の「marcari」がその由来で、「個人間で、あんしん・あんぜんに取引を行えるマーケットにしていきたい」という思いが込められています。それから名刺管理サービスの「Sansan」。「san」は「Mr.」や「Ms.」にあたる「人」を象徴する言葉で、それをつなげることで人と人、そして出会いを表しています。
メルカリはフリマ(フリーマーケット)というサービスの機能を、Sansanは名刺管理・人脈管理というサービスの機能をそれぞれ抽象的に表すネーミングです。
次にクラウド会計ソフトの「freee」。それから、ファブレスネット印刷の「ラクスル」。freeeは中小企業、そして中堅企業をバックオフィスから自由にするというサービスの提供価値を、ラクスルは印刷発注を楽にするというサービスの提供価値をそれぞれ一般的で記述的な表現に一工夫を加えて表すネーミングです。
この4つの例から、説明を聞かないと意味が分からない抽象的な表現と、パッと聞いて意味が理解できる記述的な表現という軸が1つ見えてきます。
また、サービスの機能と結びつきのある表現と、サービスの提供価値と結びつきのある表現というもう1つの軸も見えてきます。これは、サービスの内容か品質かと言い換えることができます。
他社についても同じように検討してマッピングしてみた結果が次の図です(TBMの石灰石を主成分とした新素材「LIMEX」と、ビジネスパーソンのための転職支援サービス「BizReach」については、分かりやすさのため、この記事では割愛します)。
ダイエット支援サービスの「FiNC」は、FitとLINKの造語で、最後のKは創業者が好きなChallengeという言葉のCに置き換えたもので、抽象的に提供価値を表しています。医薬開発の「BONAC」は、Bridge of Nucleic Acids Chemistryの略語で、より抽象的と言えます。
「Preferred Networks」はIoT時代のネットワークテクノロジを提供する企業で「Network」という用語によりそのことを直接的に表し、「ELIIY Power」はリチウムイオン電池による蓄電システムを「Power」という用語により直接的に表しています。「Preferred」や「ELIIY」という用語が、具体的にどのような意味を示しているのかははっきりとしないところはありますが、「Apple Computers」「Starbucks Coffee」も同様の例として挙げられます。創業期は記述的な用語で事業内容をはっきりと伝えつつ、ブランドが確立したらその部分を落としてすっきりとさせる手法は1つの定石です。
いかがでしょうか。自分たちで考えたネーミングに加えてベンチマークとする企業や競合企業のネーミングをマッピングして整理してみてください。きっと新しいネーミングが浮かんでくるとおもいます。
そして、ネーミングの素案が出てきたら商標調査をお忘れなく。
大谷 寛(おおたに かん)
弁理士
2003年 慶應義塾大学理工学部卒業。2005年 ハーバード大学大学院博士課程中退(応用物理学修士)。2006-2011年 谷・阿部特許事務所 。2011-2012年 アンダーソン・毛利・友常法律事務所。2012-2016年大野総合法律事務所。2017年 六本木通り特許事務所設立。
2016年12月 株式会社オークファン社外取締役就任。
2017年4月 日本弁理士会関東支部中小企業ベンチャー支援委員会ベンチャー部会長就任。
2014-2017年 主要業界誌 Intellectual Asset Management により、4年連続で特許出願分野で各国を代表する専門家の一人に選ばれる。
2014-2016年 主要業界誌 Managing IP により、3年連続で特許分野で各国を代表する専門家の一人に選ばれる。
専門は、未来を変えていくスタートアップの特許・商標を中心とした知財戦略実行支援。
Twitter @kan_otani
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)