最近では、IoTホステル「& AND HOSTEL」の運営で知られるand factoryだが、スマートフォン向けアプリの開発、制作、運営が事業の主体だ。& AND HOSTEL内で使う複数のIoT機器を一元管理できる「&IoTアプリ」を開発、提供する一方で、ゲーム攻略やメディアなどのアプリも多数手がける。2017年には「マンガPark」(iOS、Android)「マンガUP!」(iOS、Android)の2つの漫画アプリをリリース。いずれも、出版社スクウェア・エニックス、白泉社のオリジナル漫画アプリになる。
「出版社の方と二人三脚で作り上げる」と話すand factory 取締役の青木倫治氏に、紙とは異なる新たなメディアとして注目される漫画アプリのあり方から、出版社専用アプリならではの開発の仕方、見せ方などを聞いた。
――漫画アプリを手がけるようになったきっかけを教えてください。
私自身が漫画好きということもあるのですが、以前に漫画アプリの開発、運営に携わっていて、とても可能性を感じていました。その頃は、音楽も漫画も有料コンテンツが主流で、試し聴きや試し読みはできても、残りは購入という流れが一般的でした。
一方で、人気を獲得していたゲームアプリは無課金でも遊べる仕組みが整ってきていて、この仕組みを漫画アプリに取り入れれば、今以上に伸びると感じました。当時、ゲームの次にくる人気アプリが何になるか見えていない状態でしたが、コンテンツの豊富さやスマートフォンネイティブアプリとの相性、それに無課金でも読める仕組みが加われば、漫画アプリの人気が高まってくると、確信していました。
――無料で見られる仕組みを提供すると、収益化しづらいのではないでしょうか。
ゲームでもアプリ内課金を利用せず、ずっと無課金で遊んでいるユーザーがいるように、無料でずっと楽しむユーザーはもちろんたくさんいます。現在もマンガParkには「FREEコイン」、マンガUP!には「MP」を発行することで、無料で読める仕組みを導入していますが、毎日ポイントが付与されるため、少しずつ読み進めてもらえます。
一方で、読み進めていくうちにどうしても次が気になる、続きが読みたいという衝動が出てきます。そこから課金に移行していく新しい収益モデルの形が確立し始めております。また、漫画アプリは単なる課金モデルとしてだけではなく、漫画を読む新しいメディアとして認知してもらうことも役割の1つですから、アクセスしてもらうためのツールの1つとしても位置づけています。
――無料コンテンツに対して出版社側の反応はいかがでしょうか。
紙媒体で販売している漫画雑誌は有料が当たり前ですから、僕がはじめてマンガアプリに携わった2012年頃は、無料に対しては受け入れやすい状況とは言えませんでした。そこでスモールスタートで始めることを提案していました。人気連載をいきなり無料で、などはできませんが、単発読み切りなどのやりやすいコンテンツはあります。そういったコンテンツを無料で見せて、その反応を得ることで、可能性を感じてもらうことから始めました。
現在では、無料で読めるモデルが浸透しているため、後発である「マンガUP!」「マンガPark」については、このモデルを取り入れることはスムーズだったと思います。漫画は、一定の期間が過ぎてしまうと目にしづらくなってしまう作品もあります。そうした作品をアプリで再掲載したり、無料コンテンツとして見せたりすることで、新たなファン層を獲得しています。
――出版社の方との連携について教えてください。
役割分担を明確にしています。アプリ側の設計やプログラムは、and factoryにまかせていただいて、出版社の方には、とにかく面白いコンテンツをご用意していただくようにお願いしております。
運用例ですと、単行本における1話分が30~40ページだとしても、アプリ内ではさらにそれを分割して提供することでスマホアプリならではの読書スタイルに合わせています。そうした分割はand factory側でも判断に携わっておりますし、次に読む作品のレコメンドなども私たちのシステムが分析したものを出すようにしています。
この辺りは漫画アプリならではのノウハウなので、アプリとして読んでもらうにはどうしたらいいかを常に考えて提供することが大事です。ユーザーの読書傾向はトレースできているので、作品を読み終えた後に、どの作品をレコメンドすればいいか、更新の通知はいつ出せばいいかなどは、出版社様と協議しながら当社でシステム構築しています。
――人気作品も雑誌とアプリで異なりますか。
最近の傾向として、かなり違ってきていますし、漫画アプリからヒット作が生まれることも出てきました。アプリにおける人気作品は、展開が早く、衝撃性の高い作品が好まれる傾向にありますね。
スマートフォンの中には、ゲームやSNS、メール、動画など、漫画アプリのライバルが無数にいるので、静かなシーンが続いたり、説明が長すぎたりすると、アプリを閉じられてしまう。読者は移動中やちょっとした空き時間など、さくっと読めることを望んでいるケースが多いので、短時間で読めて、なおかつ続きが気になるようなストーリーバランスや話分割を心がけています。
続きを読むことを忘れられないように、プッシュ通知も活用しています。これはこちら側からできる唯一の宣伝手法なので、更新のタイミングやポイントの回復など、アプリを開いてもらう動機を喚起できるようにしています。
ただ、アプリから大ヒット作が生まれているかというと、まだまだその事例は少ないですね。そこは今後の課題としてありますね。漫画アプリで読まれるコンテンツは分析しやすいので、そこを突き詰めていくことで、アプリで読まれるヒット作は生み出せますが、それが一大ブームになるような大ヒット作には未だつながっておりません。今後の壮大な目標は、誰もが知るような大ヒット作品をアプリから生み出していくことです。
――出版社の専用アプリとして気をつけていることはありますか。
紙とは異なる新しいメディアとして、読者の方が集まってくれる場所を提供していきたいと思っています。雑誌同様に、アプリにも固定ファンが付いていて、毎週の更新を楽しみに待っていてくれる読者がいます。
紙媒体の部数はどこも減少傾向にありますから、雑誌に代わるメディアを作りたいという思いは出版社の方にもあるはずです。私たちはそうした現状を理解して、新メディアを作るサポートをしたいと思っています。そうした思いを汲み取りつつ、アプリでのマネタイズや新規ユーザーの開拓の仕方、アプリで読まれるコンテンツの作り方などの提案をしていきます。漫画アプリを出版社の方と二人三脚で育てていく姿勢が大事だと考えます。
アプリの進化は日進月歩ですから、改修や開発は常に出てきます。そうした細かな調整もトータルで提案させていただくことで、より良いアプリが作れると信じています。
先程も言いましたが、アプリ側の運営はすべてこちらに任せていただいています。外から見るとアプリの外注先に見えるかもしれませんが、外注という意識は全くありません。二人三脚で作っていくことがアプリの成功に必ずつながってきます。
――今後の取り組みを教えてください。
課題は多々あって、まずは全体的な流入の数を増やすことですね。自然流入の数が増えることは、メディアとして強くなっている証しだと思うので、アプリ名を覚えてもらって、漫画を読みたいなと思ったときに、ちゃんと選んでもらえるようなアプリになっていきたいと思います。
もう1つは、漫画だけでなくてもいいという気もしていて、動画やSNSなどのコンテンツも取り込んでいきたいと思っています。エンターテインメントが1つに集まることで、新たなファンも獲得できると思いますし、そういう総力戦でやっていく時代になるのかなという気もしています。
私が学生の頃は紙の雑誌が主流でしたから、漫画雑誌の貸し借りはよくある光景の1つでした。学校の休み時間などで話題に上るような漫画アプリを作って行きたいですね。二人三脚で漫画業界を盛り上げる、そういう新メディアになれるようにアプリを育てていきたいです。
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