エイベックスが大規模な構造改革に乗り出した。4月には大幅な組織改編を実行し、新人事制度を導入。12月には建替え中だったビル完成に伴い、南青山に本社を戻した。2018年に創業30周年を迎える巨大エンターテインメント企業が目指す“ポジティブ”な働き方とは何か。新たに構えたコワーキングスペース「avex EYE」からはどんなオープンイノベーションが生み出されるのか。エイベックスグループ執行役員グループ戦略室長の加藤信介氏に話しを聞いた。
東京・南青山に構えるエイベックスの新社屋は地上17階建て。最上階には社員食堂「THE CANTEEN」を備えたほか、2階エントランス近くにコワーキングスペースavex EYEを設置。4、5階には、レッスン、レコーディング。映像スタジオも開設予定だ。
「都内に点在していた施設を本社に内包した。スタジオの設置はスタッフの利便性だけでなく、“混ざり合い”を考えて作ったもの。社内のコミュニケーションはもちろん、社外の人との混ざり合いも重視している」と加藤氏は新社屋のコンセプトを話す。
引っ越しにともない執務フロアは全席フリーアドレスを採用。島型オフィスからの変更は、当初不安視する声もあった。「エイベックスのスタッフは仕事柄、サンプルCDやポスター、グッズなど、個人が管理する持ち物が多い。スペース面も含め、懸念もあったが、トップダウンで導入した結果、それほど大きな混乱はなかった。むしろ社内のコミュニケーションが促進され、会話が生まれやすい環境になった」という。
エイベックスでは、プロジェクトごとに各部署のメンバーがチームを組むケースも多く、そうした場合にもフリーアドレスは最適とのこと。会議室に集まるのではなく、一時的にメンバーがオフィスの一箇所で仕事をすることで、打ち合わせや確認事項がスムーズに進んでいる。「今までであればわざわざ打ち合わせをセッティングするためにスケジュールの調整や会議室を確保するなどのワンアクションが必要だったが、そばにいることで話しがスピーディに進む。メリットは大きい」と導入後の改善点を説明した。
社内のコミュニケーションを活性化させる一方、コワーキングスペースavex EYEは、「社内とは違う価値観やスキルを持った人たちと、混ざり合い、ゆらぎを起こす」ことを目的に設置された新スペースだ。
「使って欲しいのはエンターテインメントや関連テックにおいて一旗揚げたいと思っている、面白い人たち」と間口は広い。「細かくガイドラインを設けて、入る人を制限してしまうよりも、大きな枠組みの中で、何か一緒にできそうな人たちと関わりを作っていきたい。どういう事業をやっているかも重要だが、それ以上に重視しているのは人そのもの。可能性が感じられる人に使ってもらいたい。だから基準は“エイベックスが面白い!と思う人材や会社“とした」と選定基準を話す。
2016年にエイベックス・ベンチャーズを立ち上げるなど、ベンチャーとの協業に積極的な姿勢を見せる中でのコワーキングスペースの設置。その背景には「なんでも自社でやるよりも、いろんな人たちと協業することで、新しいものを作っていきたい」という思いがある。加藤氏は「ビル全体をエンターテインメント業界を盛り上げるきっかけを作れるコミュニティにしていきたい」と長期的な展開も見据えている。
今回の改革にはエイベックスが抱える現状の課題を解決したいという強い思いがにじむ。「設立から29年が経ち、成長段階はそれでも良かったが、現在のフェーズには合わないことがいくつか出てきた。縦割り組織や複数階層になっている社内構造により、決済のスピードが遅い、イノベーティブなことが起こりづらいといった弊害が出ていた。私たちが目指すのは、非連続的な成長を成し遂げる企業。それを実現するために、社内の人事制度を見直した」と言う。
目指すのは社員一人ひとりの才能の最大化だ。「人が財産」という考えに基づき、人事のローテーションを組織目線から人目線に変更。2018年からは、個人のスキルややりたいことを重視した人事制度に切り替える。「今までの組織目線では、組織側の都合によって人をホールドしたり、スキルが生かされなかったりするケースもあったが、それをなくしたい。何がやりたいか、どんな未来を描いているのかを明確にしながら、人材育成をしていくことが才能の最大化につながる」と話す。
この導入に合わせ、新オフィスには「1 on 1会議室」を設置。これは、部下と上司が密にコミュニケーションを取れるスペースで「未来の話をする場所」だという。「組織側の都合でこんな人材が欲しい、この人はホールドしておきたいということが優先されていたが、そうした考え方を改め、横串で全社員を見た上で人材をローテーションさせていく。そうした役割を人事グループが担う」と説明する。
過去の振り返りを中心としていた、キャリアアップから「未来に何ができるか」へと視点を大きく切り替え、人材を全社の財産と考える。「社員のモチベーションや育成の観点から会社としてローテーションさせる方向にもっていきたい」という。
人事制度とともに、働き方改革では労働時間の長さを指摘する声も多い。加藤氏は「労働時間のセーブがイコール働き方改革だという方向ではなくて、自分の仕事が楽しいと感じられるような職場を提供していきたい。労働時間のセーブには当然取り組むが、業務内容にあった働き方を重視すべき。まずはポジティブに働いてもらうこと、それが一番大事」と強調する。
新社屋とともに新制度へと大きく舵を切ったエイベックスだが、加藤氏によると、代表取締役社長CEO松浦勝人氏は『社員300人くらいだった時のオフィスにしたい』と話しているとのこと。加藤氏は「その当時は社内が活気にあふれ、何かを仕掛ける時に社員の一体感があった。スタッフやアーティストが混ざり合って新しいヒットが生み出されていた。そういう環境を新オフィスに作っていきたい」と今後の方向性を示した。
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