エルブズは11月30日、大阪大学ベンチャーキャピタルを無限責任組合員とする、OUVC1号投資事業有限責任組合、TIS、大阪大学大学院基礎工学研究科教授の石黒浩氏、同特任講師の小川浩平氏、Gunosy取締役CFOの伊藤光茂氏から、総額8450万円の資金調達を実施したと発表した。
同社は、「社会性を持つAIで幸せを提供する」をビジョンとし、高齢者に寄り添うコミュニケーションサービスの提供を目指すスタートアップ。「Agents of Socialization(社会性エージェント)」と呼ばれる、AIが社会に存在する具体的なアクターの代理人として、利用者と対話する基幹技術を活用し、過疎地域の高齢者向けにサービスを提供する「御用聞きAI」などを開発している。
御用聞きAIでは、スマートフォンやタブレットの画面上に「タクシー」「商店」「三河屋」などの各サービスを示すエージェントが表示され、利用したいエージェントを画面の中央にドラッグしてサービスを開始する。エージェントの下には選択肢が表示され、選択肢にそって買い物やタクシーの配車依頼、バスの時刻表、銀行、行政サービスなどが利用できる。シンプルなUIと絞られた選択肢のおかげで、高齢者でも無理なく使えるようになっているという。なお、エージェントが受けた依頼内容は、各サービスの担当者にメールなどで送信される。通話による時間ロスを抑え、担当者が効率よく業務に取りかかれる。
また、独自の電子地域通貨 「エルブズコイン」 を提供。買い物など御用聞きAIにおけるキャッシュレスが可能となるほか、専用のレジアプリを店舗・請負側がインストールすることで、専用設備の導入なしにコインの受け取りが可能となる。当面の間は、ふるさと納税支援金の分配用途などでの利用を想定しているが、今後は口座からのチャージなど一般的に利用できる電子通貨を目指す。ただし、資金決済法(同社では準備中と公表)の観点のほか、端末を落とした際に通貨を使われてしまった場合の対処など、幾つか課題があるという。
こうした対話インターフェイスは、大阪大学大学院の石黒研究室での成果が生かされている。エルブズの技術顧問でもある石黒氏は、「対話において重要なのはストーリーを共有すること」とし、2015年に高島屋大阪店で実施したアンドロイドによる衣類接客の実験を紹介。音声認識が十分に機能しない騒がしいデパートのなかでも、来店客が聞きたいであろう質問をタッチパネルに表示し、それをコンピュータが発話することで自分の発話のように認識できるため十分な対話感を得られるという。結果、実験では人の接客よりも多くの服を販売している。エルブズではこのタッチパネルのシステムを活用する。
同社では、京都府南山城村との実証実験を進めている。村長の手仲圓容氏は「南山城村は3000人足らずの村で、コンビニもない。高齢化率も40%を超えて、若者が消えていくなかで買い物にも行けない人が増えてきている」と、過疎地が抱える課題を説明。同村では、地域経済活性化を目的に道の駅を設置しており、御用聞きAI経由で買い物依頼を受け取った職員が空き時間で配達しているという。また、手仲氏は御用聞きAIに手応えを掴んでおり、「コミュニティバスの時刻表や現在地の共有、病院や村の窓口との連携なども構想している。技術が進歩して、私どものような僻地であっても自由に買い物できる社会を実現したい」とする。
今後は、御用聞きAIの複数地域での利用を促進し、過疎地に住む全国300万人以上をむすぶ経済圏を構築する。コインに流動性を持たせることで、過疎地域の経済活発化を後押しする狙いだ。また、御用聞きAIを都市部在住者にも提供することで、旅行やふるさと応援寄付金など、さらに広い経済圏を構築するとしている。
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