日本でAI発展のチャンスは“キャラクター”にある--人はAIに愛をささやく - (page 2)

AIキャラに「愛している」「好き」「かわいい」と愛をささやく

言語理解研究所/Intelligent Machines Amaze You代表の結束雅雪氏(右)
言語理解研究所/Intelligent Machines Amaze You代表の結束雅雪氏(右)

 第2部では言語理解研究所/Intelligent Machines Amaze You代表の結束雅雪氏、SMEの井上敦史氏、ソニー・ミュージックコミュニケーションズ(SMC)の松平恒幸氏、そして三宅氏が登壇。AIを活用したキャラクタービジネスについて語った。

ソニー・ミュージックエンタテインメントの井上敦史氏(左)と、ソニー・ミュージックコミュニケーションズの松平恒幸氏(右)
ソニー・ミュージックエンタテインメントの井上敦史氏(左)と、ソニー・ミュージックコミュニケーションズの松平恒幸氏(右)

 結束氏は技術面で、井上氏はコンテンツプロデュースで前述のPROJECT Samanthaに携わっている。松平氏は、「ソードアート・オンライン」のアスナがユーザーの目覚ましをサポートする朝専用音声対話型エージェントアプリ「めざましマネージャー アスナ」や、「冴えない彼女の育てかた」の加藤恵をテーマにした生活シミュレーションアプリ「一択彼女 加藤恵」などの企画開発を手掛けている。

AIを活用した会話について、トレンドは自由対話へ移行
AIを活用した会話について、トレンドは自由対話へ移行

 井上氏からAIを活用した会話について、入力文と出力文がひもづけられた固定対話から、入力文の意図をくみ取り出力文を選択する自由対話へと、トレンドが移行していると説明。この自由対話をエンタメの分野で活用していく取り組みがPROJECT Samanthaであるという。

 結束氏は自由対話の難しさとして、「実際に使われる言葉は例外と矛盾だらけで、文法通りに話をしている人はいない」と語り、字面上の言葉だけでは文意が含まれておらず、それをくみ取ることが難しいと指摘。固定対話の仕組みでは、特定の単語や文章に対応してAIが返答するものの、対話としてちぐはぐなものになってしまうことが多いという。

 そのため、AIとのコミュニケーションの実現にはアルゴリズムだけでは難しく、文意をくみ取るために知識のデータベースと組み合わせることが必要であり、それがNLUベースの知的駆動型AIと説明する。

自由対話における意図理解の比較
自由対話における意図理解の比較

 前述した罵倒少女:素子では、12日間で734万2661回“罵倒”したという。井上氏によれば、1万人以上のユーザーが30分以上、なかには「一番長い方は15時間以上、素子と会話し続けた方がいた」とも語った。魔法科高校の劣等生の場合は、スマホ版だけではなくウェブサイトにも組み込み、より多くのファンが気軽に利用できる環境を整えたと説明する。

AIの罵倒少女:素子における罵倒(会話)の回数
AIの罵倒少女:素子における罵倒(会話)の回数

 罵倒少女:素子において、ユーザーが入力した言葉の上位には「愛している」「好き」「かわいい」といった言葉が並ぶ。松平氏からも、めざましマネージャー アスナにおいても同じような言葉が上位に来ると説明。井上氏は「AIということもあり、心無い言葉を投げかける人もいるが、キャラクターとの会話を続けていくことで、好意を示す言葉を言うようになる」という。このことから井上氏は「日本人は、AIに対して愛をささやくという知見は得られた」と語る。

罵倒少女:素子において、ユーザーが入力した言葉の上位。「素子」「は?」以外は、めざましマネージャー アスナでもほぼ同じという
罵倒少女:素子において、ユーザーが入力した言葉の上位。「素子」「は?」以外は、めざましマネージャー アスナでもほぼ同じという

 松平氏からは、ソニーモバイルの耳に装着する対話型スマートデバイス「Xperia Ear」において、アシスタントの音声をアスナに変更できるプラグインを販売した際、驚くほどの高い装着率だったことから「UIを対話型にシフトするとエージェントにキャラクターが求められる。“何を話すか”もさることながら“誰と話すか”も日本においては重要視される」と語り、人はキャラクターと話したいという願望があることを確信しているという。

日本人はAIのキャラクターに好意的で、愛をささやくぐらいに話しかけたい欲求があるという
日本人はAIのキャラクターに好意的で、愛をささやくぐらいに話しかけたい欲求があるという

 AIを活用したキャラクタービジネスの展望については、松平氏から2020年を見据えて、多言語に対応して日本を案内するエージェント、井上氏から好きなキャラクターと話すことができるという体験を生かしたファンクラブビジネスや、AIだから話せるという心理を生かしたインタビュアーや採用ビジネス、結束氏は「若い頃の自分をAI化」など高齢者に向けたAI、取材からコンテンツ生成までを行う取材やライターができるAIといった案が飛び出した。ちなみに質疑応答のなかでは、結束氏から亡くなった先代社長のAIを作ってほしいという依頼は本当に多い、というエピソードも飛び出していた。

 三宅氏からは、日本人はAIに対して話しかけるのが苦手でも、AIにキャラクターが組み合わさることで話しかけやすくなるとし、会話のなかからユーザーの内面にあるプロファイルを抽出し、その嗜好に合う形でゲームを動的に変化させるという案を語った。

AIを活用したキャラクタービジネスが普及するうえで必要なことでは、4人がそれぞれの立場から意見を述べた
AIを活用したキャラクタービジネスが普及するうえで必要なことでは、4人がそれぞれの立場から意見を述べた

 AIを活用したキャラクターが普及するうえでの課題について、まず井上氏から“権利の整備”を挙げた。キャラクターコンテンツにおいてアニメではアニメ化の権利、舞台であれば舞台化の権利があり、これらはすでに数多く行われていることもあってか権利として整備されているものの「現状では、AI化の権利はない」とし、エンタメ業界で議論を深めていかなければいけないと指摘。松平氏も補足する形で、合成音声に関する声の権利についても整備が必要だと語った。

 結束氏は、「AIが普及すると人間の仕事がなくなる」が話題として言われていることに触れ「そんなことは、まったくない」と一蹴。キャラクターAIを作るうえで重要なのは、人間にしかできないプロデュースやクリエイティブ能力であると主張し、その要望を生かすものを開発していきたいと抱負を語った。

 三宅氏は、“学習データの整備”を挙げた。SNSやブログなど、ネットで公開されている情報はAIの学習データとして使っていいものとなっているが、AIから個人情報につながるものを出力することは、個人情報保護の観点からできないという。そのため固有名詞を抜く作業を行っているが、それをやると個性もなくなると指摘。「特定情報をなくすのとあわせて個性を出すことは矛盾している」とし、学習データまわりの整備は今後ビジネスをしていく上で重要になってくるとした。

 松平氏は「キャラクターAIはあくまでもインターフェース」とし、技術が進化していく過程のなかでも、どのように相槌を打つかや声のトーンなど、快適なインターフェースを作りこみ、提供するには長い道のりが必要だとした。

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