「シビックテック」の現状を知る最大規模サミット開催--Code for Japan Summit 2017

  • 4回目にして西日本初開催となるサミットには2日間で30を越えるプログラムが行われ、700名以上が参加した。

  • 多い時で同時間に6つのセッションが行われていたが、情報共有できるよう各プログラムの内容はグラフィックレコーディングや議事録が残され、オンラインで公開されている。

 世界的に注目を集めるシビックテックをテーマにした国内最大のイベント「Code for Japan Summit 2017」が、9月22、23日に神戸市のしあわせ村で開催された。

 主催するCode for Japan(コード・フォー・ジャパン)は、「ともに考え、ともにつくる」をコンセプトに、IT技術を活用した地域課題の解決をめざす団体として日本で活動する非営利団体で、2017年10月で設立5年目を迎える。サミットの開催は今回4回目で、西日本での開催は初めてだ。運営は有志を中心に、企業やスタートアップがパートナーとして支援する。

 プログラムは、カンファレンスやワークショップ、アイデアソン、技術に関する勉強会といった参加型のものが中心で、内容は幅広い。各地域で活動するブリゲードと呼ばれるコード・フォーのメンバーをはじめ、コミュニティに参加するエンジニアやデザイナー、企業、自治体職員ら、現場で活動する人たちが登壇し、シビックテックの実情が赤裸々に語り合われた。

 今年は自治体職員が登壇するセッションも多く、話題となった経済産業省若手PJによるペーパー「立ちすくむ国家」や、行政における破壊的イノベーションをテーマにするなど、刺激的な内容が多かった。他にも、健康保険や救急医療LINEアカウントを活用した住民サービスなど、生活に密接する話題も多く、参加者の関心も高かったようだ。各セッションはグラフィクレコーディングやオンライン議事録ですべて公開されおり、終了後も議論につなげられるようにしているのもシビックテックのイベントならではと言える。

世界一有名なシニアプログラマも登壇

  • Sheba Najmi氏は本業と並行してシビックテック活動を行っており「専業スタッフが雇えるぐらい活動が浸透してほしい」とも話していた。

  • 台湾で活躍するWu, Min Hsuan氏は、政府ともうまく関係しつつシビックハッキングを進めていくのが大事だと言う。

 海外からのゲストもあり、今回はCode for Pakistanの創設者でCEOのSheba Najmii氏が参加。Najmi氏は市民活動が社会に影響を与える事例として、政府の活動を追跡できるアプリを開発したCode for Mexicoの話や、市民参加のハッカソンで公式サイトを使いやすくしたホノルル市の話を紹介した。「シビックハッキング」と名付けられた活動は世界に拡がり、南アフリカでも始まっているという。「テクノロジーより利用者からのインプットが重要。それも、できるだけ多くの人をプロセスに巻き込むことが有効な手段となる」とコメントしている。

 もう1人の海外ゲスト、台湾のOpen Culture Foundationで活動するWu, Min Hsuan氏からは、18カ月で1000人以上のコントリビューターを集めたシビックハッキングコミュニティの「g0v.tw(gov-zero Taiwan)」の活動が紹介された。政府のオープンデータ化やデータライセンスを制定する活動で注目され、東アジアをはじめ世界へ活動を広めようとしている。「オープンカルチャーの経験を活かし、技術者以外のデザイナーやその他のスペシャリストともネットワークするのが大事」とし、「1対多ではなく相互につながるのがこれからの市民には必要」と提言している。

 国内ゲストでは、Appleが6月に開催した「WWDC」でTim Cook CEOが最高齢のアプリ開発者と紹介した、若宮正子さんことまーちゃんが登壇。「シニアプログラミングからの1億総プログラマー計画」と題したテーマで、アプリ完成の経緯やシニアプログラマコミュニティを設立した話をプレゼンで紹介した。一緒に登壇した、若宮氏らシニアプログラマの活動サポートを行っている小泉勝志郎氏は「シニアプログラミングの輪は拡がっており、シニアハッカソンも開催されている」と説明。若宮氏は「年齢は関係ない。日々の生活力の延長でプログラミングもできる。とにかく作ることを楽しんでほしい」と、全ての世代に向けてメッセージを送った。

市民と自治体が協働するシビックテックの意義

  • 最高齢のアプリ開発者として知られるまあちゃんこと若宮正子氏がアプリ開発をサポートした小泉勝志郎氏と登壇しプレゼンを披露した。

  • 「自分が欲しいアプリがなくて、自分で作るしかなかった」という若宮氏。「自分ができるのだから誰でもプログラミングはできる」とも。

 初日の最後に行われた、21世紀型政府のあり方をテーマにした基調セッションでは、改革を進めようとする自治体の動きやそこでは何が必要とされているかについて、具体的な意見が語り合われた。

 2017年8月まで、政府のICTおよびIoTの社会実装や地方創生に関する政策立案、実行に関わってきた太田氏は、市民生活にITを活用していこうという動きはあるが、「日本では実証実験に失敗するとマスコミに即叩かれ、次のステップに進むのが難しい。企業も自治体も同じで、それが世界的な遅れにつながっている」と説明。「スピードや課題が見えているかも不可欠で、地方の方がおもしろいアイデアが出てくるだろう」とコメントした。

 「地域課題の解決にはどの自治体も試行錯誤しており、従来の仕事とどう結びつけるかが課題」と言う久元市長は一方で、「業務を横断できるようにすれば解決するという単純なものではない」とコメント。「キーワードはデータ。なぜなら、嘘をつかないから共通理解を深めるきっかけになる」とし、2016年から課長級職員を対象に実施してるデータアカデミーを実施していることを紹介した。オープンデータにも力を入れており、Code for Kobeの協力も得ながら、GISの活用も目指しているという。

  • 初日最終の基調セッションには(写真左から)神戸市の久元喜造市長、前総務省大臣補佐官の太田直樹氏、ウィズグループの奥田浩美氏、神戸デジタルラボの村岡正和氏が登壇し、シビックテックの可能性について語り合った。

  • 神戸市では行政職員が提案した課題解決にスタートアップの協力を求める「アーバンイノベーション神戸」や職員向けのデータ勉強会など、先進的な活動を次々実施していることが紹介された。

 他にも具体的な活動として、スタートアップと行政職員が協働し地域課題を解決する「アーバンイノベーション神戸」を会場でも実施。また、市職員が地域活動に参加して報酬も得られるようにし、第二の人生につなげる「地域貢献応援制度」も検討中だという。「市民の声を直接聞くとやらねばならないことがわかる。普段は地道な仕事が多い職員にとっては自分の仕事の意義を知るきっかけになるかもしれない」と説明する。

 地方のIT化支援などを行うウィズグループの奥田浩美氏は、「イノベーションの種を見つけられるのは女性。男性より視線が広く、身近な課題が見えていて、Code forの活動も女性の力による影響が大きい」とコメント。神戸デジタルラボの村岡正和氏は、2014年に大阪で開催された公務員とエンジニアによるハッカソンが大盛況だったのを例に「クリエイターと行政のマッシュアップは小さいところからも始められる。シビックテックはとにかく動き出すことが次につながる」とコメントした。

 進行役で参加していたCode for Japanの関治之代表は、「公務員が課題解決を目指す『Gov Hack』というハッカソンが世界で開催されているが、評価軸とプロセスがオープンにされているのが大事」とコメント。太田氏からは、海外の自治体では活動内容とその効果の有無がデータベース化されていることが紹介された。

 村岡氏は「シビックハッカソンから生まれた新たなソリューションから地域の仕事が生まれるかもしれない」と、地域創生につながる可能性を指摘。最後に久元市長は「シビックテックは義務ではなく面白がって取り組んでほしい。思いついたことをとにかくやって、議論したことをFacebookなどで伝え、市長福祉協会や局長会議でも報告する。問題を解決したいという意識を強くもつ幹部は多く、シビックテックが解決のヒントになるかもしれないことを伝え続けたい」とコメントし、議論は締めくくられた。

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