ヤフーと新潮社、スマホで読む「純文学」に挑戦--雑誌と同時掲載

 ヤフーと新潮社は9月7日、「新しい読書体験」を提供するプロジェクトを開始したと発表した。


(左から)Takramの渡邉康太郎氏、月刊文芸誌「新潮」編集長の矢野優氏、作家の上田岳弘氏、Yahoo! JAPANメディアチーフエディターの岡田聡氏

 これは、このプロジェクトは、純文学の体験を再設計するもので、月刊文芸誌「新潮」と「Yahoo! JAPAN」のスマートフォンブラウザ版において、三島賞受賞作家の上田岳弘氏の最新作「キュー」を9カ月間、同時連載する。7日発売の新潮10月号から毎月1章ずつ掲載しつつ、Yahoo! JAPAN上では1章をおおむね8パート程度に分割して、同日より週2回更新で掲載するという。Yahoo! JAPAN上での閲覧は無料だ。


上田氏のこれまでの作品

 ウェブ上での読書体験、UI/UXデザインは、タクラム・デザイン・エンジニアリング(Takram)が担当する。キューは、ユーザーの閲覧機会を増やすため、アプリではなくブラウザ版として配信しているが、ウェブでは珍しい縦書きの文字組みを採用している。また、親指だけで操作できる縦スクロールによるページ移動、ジェネレーティブアートによる“動く挿絵”など、新たな読み味を実現する。

 Takramの渡邉康太郎氏は、「読みやすさ」と「デジタル/デザインの付加価値」に注力したという。縦スクロールする際に、テキストを一瞬非表示にし、スクロールが終わる直前あたりで再度“ふわっ”と表示させることで、目の負担を減らした。ジェネレーティブアートは、自律的システムが生成する芸術作品を指し、デジタルならではの付加価値として提供。読者がタップした画面上の位置と、その時刻をベースに、アルゴリズムが挿絵を自動生成する。なお挿絵は、同作のキーとなる「パーミッションポイント」をビジュアライズしたものになる。


スマートフォンでの閲覧に最適化されている

 ヤフーでYahoo! JAPANメディアチーフエディターを務める岡田聡氏は、即物的・短期的なコンテンツに寄りがちのウェブコンテンツがあふれる中「長い時間じっくり体験してもらうインターネットコンテンツをどうやって作ればよいのか、どうすれば長文のリーディングコンテンツが成立するのかを考えた」という。デバイスの特性をフルに生かし、純文学の新しい可能性に挑戦したいとして、今回の試みを「読書体験のアップデート」と説明した。

 また、3社との協業に至った背景として上田氏は、「デビュー前からキューを書きたかったが、デビュー当時の担当からまずは力をつけようと言われ、中短編を中心に書いてきた。2年半ほど前にヤフーの岡田氏と会食する機会があり、ヤフーが20週年を迎えるなかで、クリック率やPV以外でウェブコンテンツの価値を出したいという話があった。小説とマッチしそうだねという飲みの席のよもやま話」が発端になったという。

 その後、とある先輩作家に今後の日本文学について聞いたところ、海外では企業が支援する話もあると聞き、ヤフーとの会食時の話を思い出したという。ヤフーと新潮編集長の矢野優氏に話を持ち込んだところ快諾を受け、実際に話が進んだという。執筆は通常とは異なり、3社と上田氏が共同で制作する。第1稿が上がったタイミングで3社で共有し、インターネットで読む設計に上田氏が変化させていくという。これにより、デジタルならではの表現も含めたコンテンツを制作を実現する。

 矢野氏は、「小説を作り上げる力を、この作品に投入することが私たちのもっとも大事な役割。新しい小説が新しいプロダクト上で発表される」としたほか、「新潮自体は部数の大きな雑誌ではないが、ヤフーは日本最大のポータルサイト。これまで届けることのできなかった読者に作品を届けることができる。小説の力をこれまで感じてこなかった人にも読んでもらい、読者の拡大、読書機会の拡大を狙いたい」とした。

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