植物から造る「本物の」エコカー--オランダの工科大学が開発

 電気自動車などのエコカーは排気ガスの削減に成功したが、車の軽量化を目指した結果、アルミや炭素繊維といった素材の生産に意外にも多くのエネルギーが消費され、せっかくのエコロジー効果を打ち消してしまっている。

 この問題に、オランダ・アイントホーフェン工科大学(TU/e)のエコモティブチームは果敢に挑み、植物を素材とした真のエコカーを開発した。


アイントホーフェン工科大学エコモティブチームが開発した「Lina」(写真:Bart van Overbeeke Fotografie)

車両重量は310㎏、ボディもシャシもバイオ複合素材

 TU/エコモティブチームの21人が開発したのは、エコカー「Lina」。4人乗りで車両重量はわずか310㎏。ダイハツのコンパクトカー「シャレード」の740㎏と比べて半分以下の軽さである。ドライブトレインはバッテリ(30㎏)で、2つのDCモーターを使って8kWを出力。これにより時速80㎞までスピードを出せる。

 車両重量の軽量化にあたっては、素材の選択が重視された。これまでのエコカーでは、車両の軽量化に向け、鉄に代わってアルミニウムや炭素繊維が使われてきたが、これら素材の生産過程では、鉄の生産を5~6倍上回るエネルギーが消費されている。また、アルミや炭素繊維は鉄に比べてリサイクルも難しく、実は真のエコカーとは言えない状況になっていた。

 このため、同チームはこれらに代わる再生可能マテリアルとして、亜麻とテンサイを素材としたサンドイッチ構造の板を車のシャシ、ボディ、内装すべてに使用した。


シャシ、ボディ、内装で植物素材が使われている(写真:HOWDO Creative Direction)

 この板は亜麻を素材としており、テンサイから成るバイオプラスチックを挟んだ形になっている。バイオプラスチックはハチの巣構造になっており、亜麻素材の板を強化し、軽量化する役割を果たしている。板の強度はガラス繊維と似たようなレベルだという。

 素材の選択においては、重量や強度、再生可能性のほかに、「地元で調達できる」という点にもこだわった。亜麻はオランダ国内で生産されており、輸送コストやエネルギーの削減に貢献。さらに、亜麻の生産により二酸化炭素も吸収されており、多くの点で環境負荷を小さくするマテリアルなのだ。


亜麻の板がバイオプラスチックを挟んだサンドイッチ状の板(写真:HOWDO Creative Direction)

ドライバーを自動認識、カーシェアリングに活用

 TU/eのエコモティブチームが考える「未来の車」は、軽量化とエネルギーの効率化にとどまらない。同チームはLinaのドア部分にNFC(近距離無線通信)を搭載し、乗車するドライバーをコードで認識できるようにした。NFCのコードで、ドライバーのお気に入りのプレイリストや最近通った道のルートなど、個人のセッティングを呼び出すことが可能となる。

 この技術はカーシェアリングに活用でき、ドライバーは車に乗った瞬間から自分仕様のドライブを楽しめるというわけだ。カーシェアリングの普及により、自動車の台数を減らすことができれば、さらにエコフレンドリーだ。

 ほかにも安全性を考えた結果、スピードモーターやその他情報をウィンドスクリーンに投影するというアイデアもある。ドライバーは運転しながら、目線を落とすことなく車に関する情報にアクセスできる。「未来の車」へのアイデアは尽きない。

公道で走れるよう当局に認可申請

 TU/エコモティブチームはこれまでに「Penny」「Isa」「Nova」という名のエコカーを開発しており、Lisaは4代目に当たる。2年間の開発期間を経て2017年には公に披露され、同年5月にはロンドンで開催された「シェル・エコマラソン・ヨーロッパ2017」にも参加した。

 同大会では速さではなく、エネルギー消費の少なさが競われる。Lisaは重量制限に合致せず、残念ながらレースに参加することはできなかった。1~2人用の超軽量車が参加するレースで、4人乗りのLinaは重量をオーバーしてしまったのだ。ただ、大会最終日にはトラックを走ることができ、メディアや企業の関心を大いに集めた。以降もロンドンのオランダ大使館をはじめ、オランダでプロモーションツアーが実施され、各地でLinaのテクノロジーを紹介。多くのメディアやスポンサーに注目されている。


2017年5月には「シェル・エコマラソン・ヨーロッパ2017」に参加(写真:TU/e)

 同チームの広報担当者によると、Linaの課題は「ドアなどの強度が足りないこと」。Linaが提示したコンセプトを今度は産業側が受け取り、新しい自動車の開発に生かしてほしいと考えている。また、Linaをプロトタイプに終わらせず、オランダの運輸当局RDWからの承認を得て、実際に公道で運転できるようにしたいという。植物製の自動車が街を走り回る日は近い。

(編集協力:岡徳之)

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