宇宙から野菜の生産予測--農業先進国のオランダが新たな挑戦

 オランダは農産物輸出において、米国に次いで世界第2位であることをご存じだろうか。オランダ政府によれば、2016年度の農産物関連の輸出は940億ユーロ(約12兆円)で、2015年度の900億円から4%の伸びを見せている。オランダの国土面積は米国の約4.2%でしかない。地理的に農業に適している干拓地がほぼ全土を占めるとはいえ世界第2位というのは驚異的である。

 さらに特筆すべきなのは、畜産品、野菜などの食物、花き類が輸出の85%を占める一方で、農業関連の材料とテクノロジが全体の9.4%、90億ユーロ(約1兆円)に達していることである。農業相のファン・ダム大臣は「農業分野においてオランダは、欧州や世界をけん引する確固たるポジションを築いている。“メイド・イン・ホーランド”のラベルは、もはやチーズ、チューリップだけではない」と自信を見せる。さらに「農業の知識やテクノロジ分野で成長を続けることで、今後も高い評価を得ることができる。効率を重視し、かつ健康や安全を確保しながら持続可能な食糧供給システムを、世界規模で取り組んでいきたい」と語る。

 エネルギー効率に優れたグリーンハウス関連の材料を輸出品の筆頭として、知識、イノベーションの輸出も大きな柱のひとつだとオランダ政府は考える。それは自国の経済発展はもとより、飢餓や栄養失調が大きな問題となっている発展途上国、気候変動、そして気候変動にともなう世界の食糧供給など、食のさまざまな課題に取り組む重要なファクターであると位置づけている。

衛星からの情報を活用する新しい農業

 そんな農業先進国のオランダは3月、国内農家が無料で利用できる新サービスを展開すると発表した。それは、プレシジョン・ファーミングを可能にする衛星からの情報の提供である。

 プレシジョン・ファーミングとは、プレシジョン=精密、ファーミング=農業/農法で、気候や土壌、病害などのさまざまな不確定要素を適切に管理しながら、作物を細密に観察、管理して生産性を維持向上させる新しい農業生産管理システムである。それには地理情報システムGIS(Geographic Information System)、衛星情報システムGPS(Global Positioning System)の2つの技術が中核となる。今回オランダ政府は、150万ユーロ(約1.9億円)を投じて衛星情報を購入し、農家が無料で利用できるようにするという。


 地球から500~900㎞の軌道にある衛星は、土壌、湿度、温度、大気の状態などの情報を送ることが可能で、作物の窒素やでんぷんの含有量、バイオマスの開発に必要なデータなども解析できる。さらに、水質、植林、環境の変化など多岐にわたるデータも豊富に備えている。それらの生データは複雑なため、研究機関や専門会社が間に入って解析・分析を行い、農家が使える情報に落とし込む。これらのデータを使えば、農家は100㎡単位で、作物の生育状態、生産予測に加えて7つの変数で解析することが可能になるという。

データ解析を専門にする企業


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 衛星から送られる生データを解析する企業の一例を見てみよう。2000年以来、50カ国以上にサービスを提供しているeleafという企業がある。4つの主要なサービスの中の「農業」で提供しているソリューションでは、作物の生育状況を週/月単位、キロ/広さ単位で可視できる「Crop Monitoring」、独自の技術を使い灌漑のタイミング、必要となる水量をメールや電話で伝える「Irrigation Planner」、収穫時期を場所や作物単位で予測する「Yield prognosis」などがある。

 農家・企業単位、大陸単位、国単位でのデータ解析が可能で、このようなデータを利用すれば、どの畑が水や肥料を必要としているか一目で分かり無駄なコストをかけずにすむ。それはeleafがミッションとして掲げている食糧の生産性向上、持続可能な水の管理、環境保全にもつながっていく。

 農作物の生産性向上というと、遺伝子組み換えなどによる病害や環境に強い作物の品種改良、化学肥料の開発を頭に浮かべてしまうが、自然を宇宙から読み取って生産性につなげるというのは、昔から続く耕作を情報化技術に結実できる新旧が同居したアプローチであることを実感する。

国をあげて取り組むプレシジョン・ファーミング

 オランダでは、2017年からde Nationale Proeftuin Precisielandbouw (ナショナル・テストファーム・プレシジョン・アグリカルチャー:NPPL)プロジェクトを立ち上げ、国をあげてプレシジョン・ファーミングに取り組んでいる。今回の衛星情報の無料公開もその一環であり、今後4年間の第一フェーズに国から2百万ユーロ(約2.5億円)を補助する。

 さらにスタートアップを促すための50万ユーロ(約6,300万)も用意し、医療、ロボティクス、ビックデータ、コンピューティング、新素材の開発など、あらゆる側面からのイノベーションを一挙に加速させる方針だ。

(編集協力:岡徳之)

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