マネーツリーは6月29日、コワーキングスペース「Diagonal Run Tokyo」(東京都中央区)で、「API、AIで変えていく地方銀行のデジタルバンキング」と題したイベントを開催した。
時代の変化により、苦境に立たされている地方銀行だが、APIやAIといった技術で生き残りをかける銀行も増えている。金融庁長官の森信親氏就任以降は同庁の方向性も変化し、より積極的に新しい技術を取り込む流れが生まれている。この記事では、池田泉州銀行、横浜銀行、ふくおかフィナンシャルグループ、マネーツリーの4者によるパネルディスカッション「これから始まる地方銀行のデジタルバンキング」の内容を紹介する。
まず、各地銀担当者にFinTechに関する取り組みを尋ねたところ、池田泉州銀行ICT企画室の吉岡純太氏は、「実感としてはサービス業として出遅れていた金融の世界に、(他業で一般化している生産性の効率や改善を求める波が)やってきた」と感想を述べた。吉岡氏は行内で啓蒙しつつ、保守的な銀行に変化を求めながら、現実的な落とし込みを探っているという。
横浜銀行ダイレクト営業部チャネル企画グループの五十嵐俊行氏は、「当行では20年前からデータベース部署を立ち上げていた。そのデータを元に(顧客の出来事を推察し、最適のタイミングで商品やサービスを提案する)EBM(Event Based Marketing)という経営手法で収益を拡大した」と取り組みを紹介した。
同行には「データを中心に考えるDNA」が脈々と受け継がれてきたという。横浜銀行では、従来のマーケティング担当者が経験・知見に頼ったダイレクトメール(DM)と深層学習を用いたDM配信を比較する実証実験を実施。その結果、同等のリーチ率であり、深層学習型DMの方が人件費も発生せず工数も半分程度だったことが判明したという。また、AIが新たな顧客を発見するケースもあり、深層学習型DMの優位性をアピールした。
ふくおかフィナンシャルグループは、スマートフォンを活用した新金融サービスプラットフォーム「iBank」を約5年前から展開している。昨今の技術革新に伴う金融サービスについて、ふくおかフィナンシャルグループ営業戦略部iBank事業グループの永吉健一氏は、「金融機関に問わず、理念があるか問われている。顧客のことを考えて商品を作っているのか」と苦言を呈した。
今後は人口減少に伴い、金融業界市場も収縮していくのは火を見るよりも明らかだが、永吉氏は「デジタルネイティブ世代を意識した方が、新しい顧客にリーチできる」と方向性を示しつつ、同行では現行技術やソリューション、サービスに取り込んでいる最中だという。
5月26日に成立し、2018年春にも施行されるであろう銀行法改正では、金融機関に対してオープンAPI公開の努力義務を課し、接続側の企業は登録制を導入する。APIの概要について訪ねられたマネーツリー常務取締役のマーク・マクダッド氏は、銀行とFinTech企業の協業をうながしつつ、「顧客視点で利便性の高い金融サービスを生み出す基盤作り」だと説明した。
FinTech協会で理事も務めるマクダッド氏は「全国銀行協会の検討会やFinTech協会の勉強会でも、(法改正について)議論を続けてきた。今後登場するAPIや技術で何が実現できるか、APIのビジネスモデル化なども議題にあがる」と状況を説明しつつ、今後数年内には画期的なAPIが登場すると聴講者の興味を惹き付けていた。
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