埼玉西武ライオンズの「モノマネするPepper」の舞台裏--選手らしさとエンタメ性の工夫

 プロ野球球団の埼玉西武ライオンズは、ロボット「Pepper」を活用したファンサービスの一環として、Pepperが選手のモノマネを行う施策を実施。この取り組みについて、埼玉西武ライオンズならびに共同開発したアイネスの担当者に話を聞いた。

  • 構えを取るPepper

 埼玉西武ライオンズでは2016年からPepperを導入し、来場者に向けて球団や対戦相手の情報を発信するなどして活用していた。今回のモノマネをするPepperについては、アイネスとともに、独自のエンターテインメントアプリケーション「Pepperの“このモノマネだーれだ?”」を開発。4月に行われた主催4試合において、本拠地のメットライフドーム近くのライオンズストアに設置した。

 球団には数少ないアンダースローで投げる牧田和久投手や、ホームランを打ったときに決まったジェスチャーを行うエルネスト・メヒア選手など、特徴的な動きをする選手が所属。その動きを表現する形でPepperがモノマネをするというものだ。単に披露するだけではなく、3択のクイズ問題として提供。集まったファンもスマートフォンを活用し、QRコードをスマートフォンで読み取ってクイズに参加できるという、多人数参加型のシステムとなっている。この施策を通じて選手に興味を持ったり、その日の試合観戦をより楽しんでもらうことを目的としたものだ。

両手を挙げてスライディングを表現。選手らしく見せる工夫

 このきっかけは、西武グループの持株会社である西武ホールディングスが、人材育成の観点から行っている企画の一環として、Pepperを活用したアイデアソンを実施。西武ライオンズ、アイネスと3社における企画案を検討するなかで、モノマネをさせるアプリの開発が決まったという。

 今回の企画について、西武ライオンズ 事業部の岡宏俊氏は「球団運営の課題点のひとつは、試合日におけるグッズショップの待機列の長さ。待ち時間に楽しませる何かを求めていたというのが背景にあった。ただ並んでいたりスマートフォンで時間つぶしをしてもらうよりは、球団として選手を身近に感じてもらいたいというのが決め手となった。さまざまな企画を持ち寄ったなかで検討したことなので、最初からモノマネアプリの開発ありきではなかった」という。

ライオンズのモノマネアプリ
試合開催日での様子。ちなみに右腕が特に負荷がかかりやすく、一時休憩を入れるといったこともあったとか。ファンはかなり正解していた様子だったという

 実際に開発を務めたアイネスは、自治体や金融機関など法人向けの業務システム開発を50年以上にわたって手掛けている企業で、Pepperにおいても、2015年に「Pepper パートナープログラム ロボアプリパートナーBasic」の認定を取得。これまでに10以上の企業や団体にむけて、Pepperや人型二足歩行ロボットの「NAO」のアプリ開発や運用を手掛けているという。

 アイネス アプリケーションサービス本部の府川鉄平氏は「Pepperでは可動範囲が限られているため、選手の動きを完全再現しているわけではなく、実際には誇張した動作も取り入れつつ表現した。特にモーション作りは、Pepperのプログラムにおいてかなり難易度が高い。本当にそっくりなモーションはできないが、腕と手の動き、頭、ホイールを使った動き。使えるところをフル活用しつつ動作を組み合わせて、選手というコンテンツをいかに表現し、楽しんでもらうかを考えた」と振り返る。

 それらしく見せる工夫のひとつとして、金子侑司選手のモノマネにある「盗塁」を挙げた。「腕を振ることで走っている表現はできるが、スライディングをどう表現するかは苦慮した。最終的には両手を挙げさせるというモーションを付けた。角度やタイミングを駆使して表現している」(府川氏)

 また、可動範囲の制限やクイズ形式を逆手に取った問題やセリフでカバーするといったものも用意したという。Pepperが右手で横投げをするモーションにおいては、選択肢に牧田投手とともに、浅村栄斗選手をあわせて入れ、牧田投手のアンダースローかと思いきや、浅村選手の“セカンドからのファーストへの送球”という、ひっかけの問題も入れた。「モーションとしてはほぼ同じ。Pepperはシュールな雰囲気を持つロボットでもあるので、得てして似ていない方がウケやすし、『ちょっと似ていないけど許してね』みたいなセリフを言うと、どこか許せてしまう。こういったところでカバーをした」(岡氏)

今は業務の肩代わりは難しいものの、コンテンツならば受け入れられる

 両社は今回の取り組みを振り返り、アイデアソンという形でできたことが大きかったとそれぞれに語る。とかく府川氏は、自社の事業の中心がBtoB、BtoBtoBとあるなかで、BtoBtoCの領域で3社で取り組めたのは大きなインパクトがあったと語る。

 府川氏は「Pepperを使って何をさせるかは、アイデア勝負の領域。ユーザー(西武ライオンズ)がやりたいことや、その先にいるファンに伝えたいこと、そしてベンダーとしてできることが、うまくすりあっていないと、企画が生まれない。そして企画がいいものでないと運用もできない。プロジェクトをいい形で立ち上げて開発を進めていく方法として、ユーザーと一緒に企画をするというのはインパクトがあり、取り組みのプロセスとして特徴的だった」。また岡氏も、「1社だけでは凝り固まったものになりがちで、外部からの意見と協力で新しい知見が得られた。西武ホールディングスからのファン目線に立った意見もあり、アイネスさんの開発力が高く、レスポンスも早かった」と振り返った。

 ロボット活用の今後について、府川氏は「現状BtoBtoBのビジネスとして扱っている立場からすると、いかに業務活用できるかがミッションとなるが、業務の肩代わりをロボットがするような次元にはいたっていないのが正直なところであり、人工知能の活用などで、いかに近づけさせていくか。まだロボット単体では限界があるので、いろんなサービスとロボットを融合させて、いかに業務に貢献できるようになるかが、今の段階で取り組む方向性だと思う。また今回のようなBtoBtoCでの経験は少ないが、ロボットのコンテンツを世に出していく形であれば、受け入れられる素地が今でも十分あるように思う」と語る。岡氏は、今回のPepperのモノマネ再披露については未定としつつ、ロボットやドローン、VRなど、さまざまな新技術を活用したファンサービスに取り組んでいくとした。

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