MRヘッドセット「HoloLens」が実現する近未来--訓練やリハビリ現場

 米国では2016年3月、日本では同年12月からプレオーダーを受け付け、2017年初頭より出荷を開始したMR(複合現実)デバイス「Microsoft HoloLens(以下、HoloLens)」。現実世界と仮想世界を融合させることで、ビジネスの生産性や顧客のユーザー体験を大幅に塗り替える可能性が高い。

千葉慎二氏
日本マイクロソフト テクニカルエバンジェリスト 千葉慎二氏

 日本マイクロソフトが3月22日に開催した「Microsoft Innovation Day 2017」は学生向けITコンテスト「Imagine Cup」と、革新的なアイデアを具現化したソリューションを表彰する「Innovation Award」を同時開催しており、HoloLensを題材にした「Mixed Realityがもたらす新しい世界」というセッションも開かれた。

 そもそも“現実世界”はIT技術と関係なく、我々人間の感覚を通じて実在する状態を指す。一方の“仮想世界”は、人々や環境、物体などから得られる感覚がすべて人工的に作られた状態。この両者を融合させたのがMRである。日本マイクロソフト テクニカルエバンジェリストの千葉慎二氏は「リアルとバーチャルを融合できる世界」と説明し、MRの世界を実現できるのがHoloLensであると強調。「当たり前の世界を一変させる可能性がある」(千葉氏)と語る。

比較
AR(拡張現実)/MR/VR(仮想現実)の比較

 HoloLensは、それ自体が小型のPCだ。579グラムのHMD(ヘッドマウントディスプレイ)には、Intel製32ビットCPUに、リアルタイムでオブジェクトをモデリングするオーダーメイドHPU(Holographic Processing Unit)1.0、64GBフラッシュメモリーと2GB RAM(2GB CPUおよび1GB HPU)、そしてWindows 10を搭載。ユーザーがHoloLensを装着すると、裸眼で見ていた現実世界の風景と透過型ホログラムレンズを通した仮想世界の映像が目に飛び込んでくる。

 普段と同じように首を傾けて視点を変えれば、仮想世界もともに移動し、それまで横にあったオブジェクトに視線を向けることが可能だ。日本マイクロソフトによれば「ベースとなったKinect技術を上回る」(千葉氏)という。

HoloLensはケーブルレスのPCである(充電はUSB経由で行う)
HoloLensはケーブルレスのPCである(充電はUSB経由で行う)
環境察知カメラや深度カメラ、環境光センサなどで環境情報を取り込んでいる
環境察知カメラや深度カメラ、環境光センサなどで環境情報を取り込んでいる
自動瞳孔距離較正を持つ透過ホログラフィックレンズを搭載
自動瞳孔距離較正を持つ透過ホログラフィックレンズを搭載
センサから取得するデータをリアルタイムで処理するため、オーダーメイドしたHPUを備えている
センサから取得するデータをリアルタイムで処理するため、オーダーメイドしたHPUを備えている

 すでにHoloLensの導入事例は生まれている。2016年4月には日本航空(JAL)がボーイング787型用エンジン整備士訓練生向けツール、そしてボーイング737-800型機運航乗務員訓練生用トレーニングツールを発表した。

 一見するとVRデバイスでも充分と思えるが、JALは「パイロットの訓練は視覚だけはなく触覚で覚えることが必要。さらに目の前に自身の手が動く様が大事。エンジンの内部構造を学ぶ場面でも、(環境情報を遮断する)VRデバイスでは移動時に恐怖を覚えてしまう」(千葉氏)と、HoloLensの採用理由を語る。

 クラウドサービスと連携することで、HoloLensの可能性はさらに広がると千葉氏は続けて説明した。HoloLensはUWP(ユニバーサルWindowsプラットフォーム)をサポートしているため、UWPアプリケーションの「Microsoft Translator」も問題なく起動する。クラウド経由で翻訳をするMicrosoft TranslatorをHoloLens内で起動すれば、インバウンド旅行者への接客もスムーズに進められそうだ。

 また、リハビリ現場の活用も想定しているという。遠方に住む身近な人々から得る励ましの声は、リハビリをする患者や高齢者にとって効果的であることは疑う余地もない。これまではSkypeビデオ通話などを使ってきたが、身近な人々をMicrosoft Kinectなどで3Dモデリングし、仮想映像としてHoloLensに映し出せば、患者のモチベーションも向上するだろう。筆者にとっては意外な提案だったが高齢化社会を迎える日本の状況を鑑みると実に興味深い。

動画
Microsoft Kinectで3Dモデリングした自身をHoloLensでリアルタイムに映し出す動画が紹介された

 このほかにも、保守現場でサンプルデータと現状を見比べることで部品の劣化情報を確認し、その結果をクラウドに集約して分析すれば予兆保全などにも役立つと日本マイクロソフトは説明し、「HoloLensの可能性は無限に広がる」(千葉氏)とまとめた。

 なお、HoloLensは開発者向けとなるDeveloper Edition(33万3800円)と法人向けのCommercial Suite(55万5800円)の2種類を用意。後者はビジネス向けWindowsストアやキオスクモード、デバイス管理やAzure Active Directoryと連携した認証機能などを備える。

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