自宅勤務は快適だが、1人で黙々と働くことに孤独感や閉塞感を感じるフリーランサーは少なくない。オフィスを借りて数人でシェアしたいところだが、賃料などのコストがかさむのが難点。そんな個人事業者に朗報がある。自宅がオフィスとして無料開放され、ソーシャルな環境で仕事ができる機会が生まれているのだ。
これはスウェーデン発の「Hoffice」と呼ばれるネットワーク。その名も「Home」と「Office」を融合した造語である。ボランティアが自宅を開放し、Facebookを通じて参加者を募集。見知らぬ者同士が1日“コーワーカー”として一緒に働いたり、休憩したりするシステムだ。
スウェーデンやデンマークを中心に現在世界102都市に広がっているHofficeは、新しいスタイルの働き方として注目されている。
実際にHofficeの集まりに参加するには、まずFacebookで自分の住む町のHofficeをチェックする。「Hoffice Tokyo」など、Hofficeの後に都市名を付けることで検索できる。近くに参加できそうなHofficeを見つけたら、メンバー登録し各日程の申し込みをするだけだ。
一方、Hofficeのホストになりたい場合は、Facebookでグループを作成。Hoffice開催の日程を決め、どんな設備が使えるか(Wi-Fi、プリンター、スキャナ、電話室など)、お茶やコーヒーは提供されるか(寄付を募るか)、ランチをどうするか、休憩時間でのタブー事項などを明記する。
面白いのは、皆が集まって仕事をする際に一定のルールがある点だ。各メンバーはただやみくもに仕事をするのではなく、45分間の仕事セッションと15分の休憩を繰り返す。さらに、仕事を始める前に次の45分に自分が到達したい目標を皆の前で発表し、セッションの終わりにそれが到達できれば、皆でそれを祝う。仕事の時間を区切り、小さな目標を設定することで達成感を味わい、単調になりがちな一人仕事にもモチベーションを維持できるシステムとなっている。
休憩時間にも工夫がみられる。メンバーの得意分野などを活かし、ヨガやストレッチ、メディテーション、太極拳、簡単なゲームなどが催され、ここでも1人ではできない楽しみ方が可能になる。こうした活動で見知らぬコーワーカー達との親近感が生まれるとともに、仕事の効率もアップするのだ。
実際に筆者もHofficeのホストとなって自宅をオフィスとして開放してみたところ、近所の3人が集まった。45分の仕事セッションにはキーボードをたたく音だけが響く静かな時間が流れ、休憩時間にはメディテーションやおしゃべりでリラックス。目標達成も皆に祝ってもらえて、1日の仕事は大いにはかどった。
参加したある男性も「生産性が上がった。休憩時間におしゃべりなどできたのは、Facebookを開くのと違って本当にリラックスできる」と満足気。ただ、インターネットが時々ダウンしたため仕事が中断される場面があり、ホストとしてはインターネット環境の整備が必須だと痛感した。
Hofficeはスウェーデン人のクリストファー・グラディン・フランゼン氏により、2013年秋に設立された。自宅のキッチンで修士論文に取り組んでいた際、孤独感を感じ、友人と一緒に働くことにしたのがHoffice誕生のきっかけだ。
この背景には、彼が6カ月のスリランカ滞在で学んだ「サルボダヤ運動」という仏教とミクロ経済を融合したソーシャル・プロジェクトの存在もある。このプロジェクトは、仏教の慈悲の心を持って、村人が生活に必要な水、食料、シェルターで相互に助け合うというもので、クリストファー氏はお互いに与え合う「ギフト経済」の考え方に強く影響を受けている。
Hofficeは「使われていない資源」としての自宅を他人に「ギフト」として開放すること。そして、参加者は時間と個人の資質を提供し、新しい労働環境の実現に貢献する。シェアの精神とインターネット環境さえあれば、誰でもすぐに与えられるこのギフト。見ず知らずの人を家に入れるリスクはつきものだが、まずは知り合いのフリーランサーを招くだけでも効果を試すことができる。
クリストファー氏は「ギフトをもらった人は、何かを返したいと思う。そして何かを返してもらった人は、もっと与えたいと思う。こうして『与える』好循環が生まれる」と語る。ギフト経済としてのHofficeも多くの好循環を生み出すに違いない。
(編集協力:岡徳之)
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