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未来へのヒントがみつかる次世代デジタル戦略

ロボットが日本刀で“居合切り”--安川電機「YASKAWA BUSHIDO PROJECT」の舞台裏 - (page 2)

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「できるかどうか分からない」ことへのチャレンジが人の心を動かす

——そこまで話題になると、当初の狙いであった「内部のモチベーションアップ」という点でも、かなり高評価だったのでは。

 社員の方から「家族から『テレビで見たけど、あれってお父さんの会社でしょ?』と言われた」と喜びの声をいただいたり、ビジネスにおける会話でも「あの動画の安川電機さんですよね」「あの動画すごいですね」と話題にしていただいたり、各方面から大きな反響があったようです。あとはコードアワードを始め、国内外から多くの賞をいただいたので、「トロフィーの置き場に困っている」と(笑)。 嬉しい悲鳴を上げていただきましたね。

——社内に向けたアピールも、一般に向けたアピールも「人の心を動かす」という原点は一緒ですよね。そこで「いっさい合成のない映像」というのも、人の心を動かした、いわば成功の要因にあると感じました。

 「絶対に合成はしない」というのは最初から決めていましたが、確かに大きな要因だったと感じています。少しでもウソがあれば胸が張れませんし、「何度見ても面白い、すごい」と思われるには、リアルであることが重要。これは常に思っていることです。

 ただ、そこにこだわった結果、大変な苦労が待っていました。ロボットの正確な動きを伝えるため、居合術家の町井さんの動きをコピーし、3Dデータで入力したのですが、これが一筋縄にはいかない。刀が曲がってしまっては叩いて直し、データにも微細な修正を加え、成功までに3カ月を要しました。撮影日は決まっているのに、なかなか成功しない。「ヤバい!」という状況の中、ついに成功したのが撮影の10日前くらいでした。

——想像以上に大変ですね、聞いていて怖いくらい(笑)。

「いっさい合成のない映像」

 こんなに大変だと分かっていたら、やらなかったかも知れない(笑)。 世界初の試みなので、クライアントさんも「できるか分からない」と。けれど「チャレンジしないと世界初の映像は撮れません。ぜひ挑戦しましょう!」と、話しながら進めていきました。成功に至るまで、クライアントの中のエンジニアさんにも、ずっと帯同いただいていましたね。

 居合が成功し、撮影が終了したころには、ロボットにも疲労が蓄積していました。というのも居合には相当な速さが必要ですが、産業用ロボットって、そこまでのスピードを必要としないんです。実働では想定されないほど電圧を高くしたり、いろいろなリミッターを外したりして撮影したので、個人的には頑張ってくれたロボットに対し、「ご苦労さん、ありがとう!」という気持ちでした。人間だったら温泉にでも浸かって、疲れを癒やしてほしいかったくらい(笑)。

インサイトに基づくアイデアとテクノロジの融合がバズを生む

——映像には映っていない「できるか分からないところを挑戦する」という背景が、人の心を動かすんですね。ところで今回のプロジェクトもそうですが、テクノロジーを用いたウェブ動画の今後について、どうお考えですか。

 そこはすごく難しい時代にきていると感じています。たとえばプロジェクションマッピングにしても、ドローンにしても、みんなが見慣れてきていますよね。今も先進的で美しい映像はたくさんあるけれど、すでに珍しくはない。そこで重要になるのが、やはりアイデアだと感じます。

 新しいテクノロジを使っているからではなく、そこにプラスのアイデアがあるから面白いのだと思います。OK GoのMVなんて、まさにそうですよね。「一瞬の出来事を、ハイスピードカメラで撮影する」というアイデア。ああいう遊び心と、あとはそれを映像として再現できるだけの根性かな(笑)。

OK Go – The One Moment – Official Video

——根性とは、まさに安川電機のプロジェクトに通じるところですね(笑)。

 そうですね。だから「テクノロジと驚き」とか「テクノロジとストーリー性」とか、何か新しい組み合わせがあれば、たとえ古いテクノロジを使用していても面白くできるはずです。

 その一方で、僕が映像を見ていて引き込まれるのは、人間の力を拡張するようなテクノロジ。たとえば義手や義足のメーカーがマーベルやディズニーとタッグを組んで、子どもが喜ぶようなアイアンマンやアナ雪の義手をつくってプレゼントする。こうした映像にも「すごい!」と思うし、心が動く。他にも義足によって人間が不可能だったことを可能にする、という映像も強いと感じます。

The Collective Project: Robert Downey Jr. Delivers a Real Bionic Arm

 SF好きとしては、惑星にロボットを送り込んで、3Dプリンタで建物をつくってから移住するなんていう人間の宇宙移住計画の実験映像にも惹かれるんですが、バズることを狙うなら、テクノロジの裏に人として応援したくなるようなエピソードやストーリーが必要だと思います。ボストン・ダイナミクスのロボットがコケたりすると、やっぱり笑っちゃうし、がんばれと思ってしまう。

Introducing SpotMini(※1:27頃から)

 インサイトに基づいた感情移入できるアイデアと、テクノロジの融合ですね。それがないと、バズるまでには至らないと思う。

先人たちが築いたコツ、そして再びコピーが主役になっていく

——テクノロジを用いないウェブ動画をバズらせることについては、どうですか。

 これには、ある種のコツが存在していると思います。アドテック東京2016の公演でもお話ししましたが、そこでご一緒したTBWA HAKUHODOの栗林和明さんが、ウェブで「バズのツボ」という表を公開しているんです。これは、いわゆる先人たちが築いてきたバズ動画から話題になるための80のキーワードが抽出されていて、さらに、Twitter、Facebook、Instagram、ニュースサイトと、主な4媒体別のツボも分かるようにチャート化されています。中には4媒体すべてに共通するキーワードもあるのですが、安川電機の映像のキーワードである「超絶技/テク」「日本文化」も4媒体に共通するキーワードですね。

 この4媒体すべてに共通するキーワードの中で、僕が面白いと思っているひとつが「二度見仕掛け」。これは、Yahoo!映像トピックスの人気ランキングで1位になったXperia EarのCM動画にも使用した手法です。最後まで見ると「あれ?」という驚きがあって、もう一度見ると「たしかに!」という仕掛けが潜んでいる。

Xperia Ear 「TWOURIST~ふたり旅~」

——これは……確かに最後までみないとわからないですし、もう一度見たくなりますね。広告業界の人間は必見ですね。では最後に、これも業界人からすると気になるところ、阿部さんの次なる展望を聞かせてください。

 音楽アーティストのPVにチャレンジしたいですね。それも先ほどもお話ししたOK Goの映像のように、「どうやって撮影しているんだろう」と、興味を引かれるようなものをつくりたいです。他にも安川電機さんのロボットのように、商品の特性自体があまり広告として使われないような業界については、今後も自分から売り込みをしていこうと考えています。

 もっと業界の流れを汲むなら、Googleのバンパー広告が始まったことで、6秒という“ピンポンダッシュ”的な映像にも興味がありますね。タレントさんが出てきて、たった一言だけ何かを言って終わるような。実はかつて日本にも5秒間のCMが存在していて、あの「インド人もビックリ」という有名なフレーズも5秒CMから誕生しているんです。

 すると今後は再びコピーが主役になってくるでしょうし、6秒、15秒、それにテレビでたまに流れる60秒CMがシームレスに繋がるような広告キャンペーンが増えていくのではないでしょうか。ただ、やっぱり個人的にはPVへの挑戦ですね。この記事を読んで気になった方がいましたら、よろしくお願いします(笑)。

 阿部光史氏
電通 阿部光史氏(左)、カケザン クリエイティブプランナー 新野文健氏(右)

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