ただし、前回(2004~2005年)同様の「タックスホリデー」を実施した時には、持ち込まれた資金の大部分が株主や企業経営者側の利益につながる目的(配当金増額や自社株買い戻しなど)に使われてしまい、肝心の雇用創出にはほとんど役に立たなかったとの政府機関の調査結果も出されており、いずれにしても長年の懸案となっている法人税改革と抱き合わせでないとこの問題の抜本的な解決にはならない(そうでなければ、企業側がまた次の「タックスホリデー」実施に期待して資金を国外で溜め込むだけ)といった指摘もこのBloomberg記事にはある。
このBloomberg記事で特に興味を引くのは、Appleが法人税のかからないネバダ州に設置した投資会社(Braeburn Capitalという資産運用会社)を使って米国内での利益を圧縮した上に、国外での利益も同社を経由させて米国債を買い続けている、というところ。
記事中にはそのプロセスを説明した図解があり、それを見ると、欧州各国などの現地法人からアイルランドのコーク(Cork)という都市にある子会社に集まった資金がこのBraeburn Capitalに流れていること、Braeburnがその資金をニューヨークにある米銀行内の口座(custodial account、信託管理勘定?)に預けた上で、それを使って米国債などを購入していること、さらに国債売却で得られた利益が再びコークの子会社に送られていることなどがわかる。
Appleをはじめとする多国籍企業が高度な節税策を講じて納税額を圧縮していることや、そのことに対して米国内だけでなく欧州連合(EU)などからも批判の声が上がっていたことは周知の通りで、実際にAppleの場合はTim Cookがこの件で連邦議会上院の公聴会に出頭していた(2013年5月)し、また2016年8月末にはEUがアイルランド政府によるAppleの「特別扱い」を違法と判断して、同社に145億ドルの追徴金支払いを命じていた(現在係争中)。
なお同記事中には「Braeburn Capital=Appleの指示で、BlackRockやPimcoといった大手の資産運用会社が米国債を購入」という一節もある。2014年夏に、Sue Wagnerという女性経営者(BlackRock共同創業者)がAppleの社外取締役に就任していたが、あの任命も結局こうしたつながりによるものだったというのは今回初めて知った。
そのほか、この記事にはたとえばAppleに対する米国政府からの利払いが過去5年間で推定5.9億ドル(Cisco Systemsへは4.3億ドル、Googleへは1.5億ドルといった数字も)に上ったことや、これら3社を含む上位10社への支払いが14億ドル以上に達したことなども記されている。
またこうしたやり方で購入される米国債が増えた結果、人口が500万人に満たない(=約460万人の)アイルランドが、中国、日本に続く世界第3位の米国債購入国になっているとの記述もある。この点に関して、米財務省が公表しているデータ(MAJOR FOREIGN HOLDERS OF TREASURY SECURITIES)には、下記のような数字が出ている。
2016年9月末時点の米債券保有国・地域別ランキング(単位は10億ドル)
仮に「タックスホリデー」が再び実施されて米国内に流れるとなれば、EUから反発の声が上がる可能性も高く、米多国籍企業に対して相応の負担を求める姿勢をより鮮明にしてきているEUとしても黙って引き下がるわけにはいかないのではないか。実際、EUによるAppleへの追徴金支払い命令に対しては、現財務長官のJack Lewがこれを批判する発言をしていた。
それでなくても各国間の政治的なボラティリティが高まっているように感じられる現在の状況で、この国外滞留資金の問題が、新たな摩擦の火種にならなければいいのだが。
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