Sheila Burgelさんは、アナログレコードに囲まれて育った。毎週末、彼女は父親と電器店Crazy Eddie(「His prices are INSANE!」のキャッチコピーでお馴染みだった)に足を運び、山積みのレコードの中から最新のヒット曲を探し回ったものだった。家では、父親の作ったステレオからいつも音楽が流れていた。
当時は80年代。まだレコードが音楽業界を支配していた時代だ。
1997年、Burgelさんがロンドンの友人のもとを訪れた頃には、業界はCDに席巻されていた。とはいえ、すべての音楽がレコードからCDに移ってしまっていたわけではない。例えば、彼女の友人が収集していた60年代のフレンチポップシンガー、France GallはCD音源にはなっていなかった。BurgelさんはEPの山を探りながら、それらのカバーに見入っていたものだった。その写真や色使い、活字のデザイン、スウィンギング60s(1960年代英国のストリートカルチャー)風のブロンドアイドルの姿。
やがて、友人が1枚のレコードを選んでプレイヤーにかけると、心地よい音が流れ出し、そこには彼女にとってCDでは感じたことのない喜びがあった。
「Record Collector Magazineの最新号を買って家に帰ると、人生が新しく始まるような気持ちだった」。39歳になったBurgelさんはそう話す。彼女は現在、60年代の女性ポップシンガーのレコードを収集する熱心なコレクターだ。
「流行は繰り返す」とは言ったもので、2015年、アナログレコードは1988年以来最高となる4億1600万ドルを売り上げた。
レコードを買っている層については、驚くべき事実が2つある。まず、このうち72%が36歳未満だということ。そして、ほぼ半分がレコードを買ってもほとんど聞くことがないということだ。彼らにとって、レコードコレクションはファッションステートメントであり、レコード販売数を見ても、若者向けファッションブランドのUrban Outfittersがトップクラスにある。
Urban Outfittersは、レコードプレーヤーメーカーのCrosley Radioのプレイヤーについても業界有数の販売台数を誇る。ケンタッキー州ルイビルにあるCrosleyは、エントリーレベルのレコードプレーヤーメーカーとして疑いない業界トップの地位にあり、Urban Outfittersが対象とする35歳以下の市場に向けて、ビンテージ風のラジオやレコードプレーヤーを作っている。
「レコードを楽しみたい人たちがいる。古いレコードを持っている年配の方もいれば、レコードにインスピレーションを受けた新たな層のリスナーもいる。彼らはとりあえず買ってみる。それ自体を楽しんでいるんだ」Crosleyの最高経営責任者(CEO)を務めるBo LeMastus氏はそう語る。
音質よりもエントリーレベルの価格帯(主に80〜200ドル)で知られるCrosleyは2015年、100万台のレコードプレーヤーを販売した。
アナログレコードがミレニアル世代の関心を集めている理由はいくつもある。2015年、Billboardはこれを3つにまとめた。BGMとして流すのではなく音楽に集中したいという願望、形あるものを収集したいという欲求、レコードで聞く方が音が良いという感覚、の3つだ。
アーティストが12インチレコードを好むのは、アルバムのパッケージング方法として優れているからだ。大きなアートワークを施すことができ、ポスターやCD、ダウンロードカードなどを追加できる。これは、インディバンドのDawesが2009年にアルバム「North Hills」をレコードに録音した理由の1つだ。
「大きなアルバムジャケットに入ったレコードを作るのは夢だったんだ。そうして、実際の見た感じや感触を確かめたかった」リードボーカルのTaylor Goldsmithさんはそう話す。
同バンドは最近、レコード体験にさらに多くのアイディアを詰め込んでいる。これまでのアルバムでは、フォーマットの使い方が悪かった。このため、2つのディスクに曲を詰め込んだ結果、時にはレコードの片面に2曲しか入っていないような、ちぐはぐな構成になることもあった。Dawesの2015年のアルバム「All Your Favorite Bands」は、1つのディスクに収まっている。Goldsmithさんは、自らがThe Rollling Stonesの「Tatoo You」のB面を初めて聞いた時のような感動をファンにも体験してもらいたいという。
「レコードのポテンシャルを最大限に引き出したいんだ。レコードコレクターが魅力を感じるのはそういう部分だと思うからね」(Goldsmithさん)
レコードを推しているミュージシャンには、この他にもAlabama ShakesやThe Black Keys、Daft Punk、Taylor Swift、Jack Whiteなどがいる。
ファンがレコードを求め、バンドもレコードを作りたがる。ただし、1つだけ問題がある。レコードのプレス工場が需要に追いついていないのだ。
「独立レーベルはもちろん、大手レーベルに所属しているアーティストであっても、自分たちのバンドの音楽をLPで出そうと思ったら、順番待ちの列に加わる必要がある」米CNETでハイファイオーディオについてのレビューを書くSteve Guttenberg記者はそう話す。
Rainbo Recordsのウェブサイトには、「すべてのレコードカスタマーへ」と強調して、こう書かれている。「レコード生産は世界中で需要が高まっています。リリースは十分余裕をもって計画してください」
南カリフォルニアのプレス工場は週6日24時間稼働しており、1日2万3000枚のレコードを生産している。そして、納品待ちの注文数はさらに増え続けているという。「(レコードが)これほど人気になるとは夢にも思わなかった」と、Rainboのプレジデントを務めるSteven Sheldon氏は話す。
米国最大のプレスメーカーであるUnited Record Pressing(キャッチコピーは「nothing but vinyl since 1949」)は2016年に入って、テネシー州ナッシュビルの2つ目の工場でレコード生産を開始。また、さらに生産能力を拡大するためにBill Smith Custom recordsを買収した。
Crosley Radioもレコードプレス事業に参入しようとしており、小規模生産やインディーズアーティスト向けの工場を2017年にオープンする予定となっている。さらに、アーティストのJack Whiteも、自らが立ち上げたレコードレーベルのThird Man Recordsからほど近いデトロイトでの工場開業を目指しているという。
そもそも、レコードは人々にとって絶対に必要というものではない。「今はSpotifyやYouTubeがある。レコードを買う必要性はないんだ」ナッシュビルのインディペンデント系レコードショップ、Grimey's New and Prelovel Musicを共同所有するDoyle Davis氏はそう話す。「世界中の音楽を一日中だって聴いていられる。お金を支払うこともなくね」(同氏)。にもかかわらず、Davis氏のビジネスは絶好調で、彼は2店舗目を隣にオープンしたばかりだ。
ファンにとって、レコードはさまざまな意味を持つ。ヒップスターのファッションアクセサリにもなれば、より良いリスニング体験を提供してくれるもの、アートや写真のキャンバスでもある。Burgelさんのようなコレクターにとっては、音楽の重要性を思い出させてくれる貴重な存在だ。
「デジタルの世界が物理的なものから人間を解き放つという考えは大きな間違いだった」とBurgelさんは話す。「人々は最高にクールな製品やアートワーク、こういったものを作り出すことへの愛が大きな幸せであることを忘れていたのだ」(Burgelさん)
この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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