最近の米国大統領選挙運動での虚偽ニュース騒動は、私にとっては気が滅入るほどお馴染みな話だ。この問題については、自分の専門分野で10年以上関わってきている。そして、問題が改善される兆しはない。
大統領選の虚偽ニュースと同様に、テクノロジ関連の虚偽ニュースもさまざまだ。故意の偽情報もあるが、多くは無知による誤った報道が、クリック主導のエコーチェンバー(共鳴室)効果で拡散している。
最近の例としては、オーストラリアのリセラー市場向けウェブメディア、IDGのARNが11月下旬に掲載した記事がある。
上の画像の記事のメインタイトル(FireEyeはMicrosoftとの提携でサイバーセキュリティの水準を上げられるか?)は正しいが、小見出し(FierEyeはすべてのWindows 10デバイスのデータへのアクセスを獲得した)は完全な妄想だ。そして、最初の2段落には誤りが混じっている。
Microsoftとセキュリティ企業のFireEyeは最近、FireEyeのソリューション「iSIGHT Intelligence」をWindowsのセキュリティ機能「Windows Defender」に統合する契約を結んだ。
この契約により、FireEyeは「Windows 10」が稼働するすべてのデバイスのテレメトリーデータにアクセスできるようになる。つまり、デスクトップPCのほぼ22%と、ノートPC、Windows 10搭載スマートフォンにアクセスできる。(強調は筆者によるもの)
その後、ARNは小見出しと1段落目を修正し、Microsoftからの否定のコメントを追加したが、テレメトリーのアクセスについて、「ARNの情報筋」はその存在をまだ主張していると言い張っている。編集後の文章はまとまりがなく、公開後に修正したことを示す記述はない。
この話の奇妙なところは、記事は11月初めに3週間前に発表された公式なプレスリリースをベースにしている点だ。このプレスリリースはほとんど注目されることはなかった。おそらく、“ニュース”としては退屈な内容だからだろう。
重要なのは、このプレスリリースにはテレメトリーという言葉は記載されていないし、ARNの小見出しと第2段落に書いてあるような内容を誘発するような記述は間接的にも含まれていないことだ。
はっきり言って、この記事を書いた記者は「WDATP」が何たるかを全然理解していないことは確かだ(WDATPについては後述する)。
だが、この記事に問題があるという事実とは無関係に、記事はエコーチェンバー効果で繰り返しネット上に表示されている。下の画像は、この記事が公開された4日後に「Google News」で「telemetry」(テレメトリー)を検索した結果だ。
私の旧友、Woody Leonhard氏までが一枚加わった。同氏は「FireEyeはWindows 10の全テレメトリーデータにアクセスするのか?」という挑発的なタイトルの記事を投稿した。
この記事で同氏は、FireEyeは「Microsoftおよびサイバーセキュリティ業界と強いつながりがある」と書いた。この記事は「これが本当だとは信じ難いが、恐ろしい話だ」という奇妙な終わり方になっている。
そんなことは、最後までスクロールせず、タイトルと最初の数段落しか眺めない人に言ってくれ。
結局、Microsoftの中の人がこの記事のうわさをかぎつけて、強く否定する声明を発表した。
MicrosoftとFireEyeの提携の本質は、FireEyeのセキュリティサービスである「FireEye iSIGHTインテリジェンス」の脅威インテリジェンスコンテンツのライセンス契約だ。この脅威インテリジェンスには、FireEyeが開発した侵害指標と、同社が収集・編集した過去のサイバー攻撃の関連レポートが含まれる。このインテリジェンスを追加することで、「Windows Defender Advanced Threat Protection(WDATP)」の検出能力を拡張できる。この契約にはMicrosoftのテレメトリーを共有するという項目はない。
残念ながら、この声明はIT系メディアBetaNewsの記事の最後に追加されただけだった。その記事のオリジナルタイトル「MicrosoftはWindows 10のテレメトリーデータをサードパーティーと共有する」は変わらず、タイトル末に「アップデート」と付け足されただけだ(この記事はリンクを貼る価値もない)。
また、ARNの記事はいまだに修正されないままだ。
Microsoftのニュースサービス「Bing News」の状況は更に悪い。Google Newsは少なくとも低品質のウェブサイトをフィルタリングするが、Bing Newsのアルゴリズムはnextpowerup.com、latesthackingnews.com、winbuzzer.comなどの信用できないウェブサイトからの模倣記事を表示してしまう。
こうしたウェブサイトは、大統領選挙期間中にオンラインにゴミ情報を流し続けたロシアとマケドニアのウェブサイトと同じビジネスモデルに従っているようだ。
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