孫社長が10兆円ファンドを立ち上げた狙い--「人類史上最大のプロジェクトを牽引する」

 「最近は、保守的に小さく固まっていたんじゃないかと反省することも多い。これほどテクノロジの進化、パラダイムシフトが起きているのに、目の前の日常業務に忙殺されていた。もっと業界の発展にしっかり取り組んでいかないといけない」――ソフトバンクグループ代表取締役社長の孫正義氏は、11月7日に開催された2017年3月期上期(4~9月)の決算会見で、こう切り出した。

ソフトバンクグループ代表取締役社長の孫正義氏
ソフトバンクグループ代表取締役社長の孫正義氏

 上期の売上高は前年同期比0.2%減の4兆2718億円で減収となったが、孫氏によれば米通信子会社のSprintの売り上げが円高の影響で減ったものとしており、ドルベースでは増加していると説明する。また、営業利益は同4%増の6539億円、純利益は同80%増の7662億円となった。英国の半導体設計大手であるARMを約3.3兆円で買収したため、純有利子負債の倍率は4.0倍に上がっているが、数年以内に「健全な範囲」(同氏)の3.5倍に減らす予定だという。

 国内通信事業の累計契約数は前年比69万増の3230万で、解約率は過去最低レベルの1.06%となった。固定通信サービス「SoftBank 光」のセット販売が大きく貢献しており、SoftBank 光の契約数も270万へと増加した。また、同社にとって悩みの種となっていた、米Sprintの業績も好転してきており、純増数は前年比5倍以上の35万だったほか、解約率もSprintとして最も低い1.37%に改善。「加速度的に下落していた」(孫氏)という売上高も163億ドルの増収に転じた。

  • 売上高は前年同期比0.2%減だが、「円高の影響」(孫氏)とのこと。

  • 調整後のEBITDAは7%増加

  • 純有利子負債の倍率は数年以内に3.5倍に減らすと孫氏

  • 米Sprintの純増数は前年比5倍に

  • 解約率もSprint史上最も低い

  • 下降が続いていた売上高も増収に転じた

 ボーダフォンジャパンを買収して以来、国内外の通信事業に力を注いできた孫氏。国内はもとより、赤字続きだった米Sprintも立て直しの目処が立ったと語るいま、本腰を入れて挑もうとしているのが、同氏が人生を賭けて成し遂げようとしている「情報革命」だ。その第1弾となるのが前述した英ARMの大型買収だった。

 コンピュータが人間の脳を上回る「シンギュラリティ(技術的特異点)」が2018年にも到来すると孫氏はみており、それによって今後はすべての産業が再定義されると予想する。そこで重要な役割を担うのが、あらゆるものがインターネットにつながるIoTであり、省電力かつセキュアなチップを設計できるARMだと説明する。「人類史上最大のプロジェクトをソフトバンクが牽引する」(孫氏)。

  • 英国の半導体設計大手であるARMを約3.3兆円で買収

  • 10月25日には初の組込みプロセッサを発売

  • ARMベースのチップ出荷数

 ただし、このプロジェクトは、1社だけで成し遂げられるものではないと孫氏は続ける。実際、ARMの買収によって同社の負債はさらに増えているが、資金を得るために成長途上のアリババの株式をこれ以上手放すわけにもいかない。そこで、孫氏が選んだのが、10兆円規模の私募ファンド「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」を立ち上げることだった。

 ソフトバンクは、今後5年間で少なくとも約2.6兆円を同ファンドに出資する予定。また、サウジアラビア王国の政府系投資ファンドであるパブリック・インベストメント・ファンド(PIF)から、今後5年間で約4.7兆円の出資を受ける予定だという。さらに、複数の投資家たちと協議中で、総額は約10兆円規模になる予定としている。「米国のすべてのベンチャーキャピタルが、直近2年半で調達した規模の資金を我々が準備する」(孫氏)。

  • シンギュラリティの時代に向けて、「人類史上最大のプロジェクトを牽引する」と孫氏

  • 10兆円規模のファンドを設立

  • 3兆円の投資額が7倍の約20兆円になったと投資実績をアピール

 なお、これまでのソフトバンクの投資実績については、約3兆円の累計投資額を18年で約7倍の20兆円まで増加させていると説明する。また、IRR(内部収益率)は、世界の主要なファンドが10〜15%前後であるのに対し、43%という高い実績を持つとアピール。これまで培ったノウハウを、ソフトバンク・ビジョン・ファンドにも生かしていきたいとした。

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