S’NEXTは10月22日、オーディオブランド「final」から3Dプリンタで製造したイヤホン「LAB II FI-LAB02」を発表した。イヤホンとしては珍しいフルオープンタイプで、自社製のダイナミック型ドライバを搭載。3Dプリンタで製造しながら、多くの工程で手作業が用いられているこだわりのイヤホンだ。なぜ3Dプリンタを使ったのか、どうやって量産化しているのかなど、その開発の裏側を、同日開催された発表会で、代表の細尾満氏が明らかにした。
finalブランドでは、筺体やパーツの試作品制作に3Dプリンタを使用しており、2014年には3Dプリンタによる量産型イヤホン「final audio design LAB I」(ファイナルオーディオデザインラボワン/価格:16万円)を発表。限定150台は、数カ月で完売した。
「ライブのような、音場の生々しさを表現したい。そんな音を再現できるイヤホンを考えたときに、3Dプリンタでないとできなかった」と細尾氏はLAB IIに3Dプリンタを使った経緯を話す。
3Dプリンタモデルの先駆者であるLAB Iは、実は3Dプリンタでなくても作れたとのこと。LAB IIの構想はLAB Iよりも以前にあったが、当時の技術では実現できず、商品化を温めていたという。
今回技術の進歩により、「メカニカルイコライザー」を3Dプリンタで製造することに成功。特徴的なメッシュ形状の筐体は、耳道と筐体間にわずかな隙間が生じる設計にすることで、閉塞感のない自然な音場を実現する。デザイナーは存在しないそうだ。
「メッシュ形状の外観はインパクトが強いため、試作機の段階から多くの人にデザイン面をお褒めいただいたが、デザイナーがいるとすれば、出力する際のプログラムを書いていただいたNTTデータエンジニアリングシステムズの担当者。本体は二重構造になっており、これは化学研磨をする際、一重だと安定性や強度の面で不安があったため」(細尾氏)と、強度面も追求する。
メカニカルイコライザーは振動板の前面に配置しており、音の出口となる同心円状のイコライザーの板厚、ギャップともに最も薄い部分は0.2mm。この形状は3Dプリンタでしかできない加工だという。
金属積層造形3Dプリンタを採用し、金属粉末にレーザーを当て、溶かすことによって造形。さらにチタンの粉末をもう一層かけて製造している。筐体が積層するまでには約20時間が必要で、それに応じて電気代、ガス代がかかるため、単価はどうしても高くなってしまうとのことだ。
その後、ワイヤーカッターで使用部分を切断し、その後は「地獄の手作業(笑)。造形時に必要となるサポーターと呼ばれる部分をここで排除し、手作業で形を整えていく。限定200台は、かなりの手間がかかるため、これ以上は作れないという限界の数字」(細尾氏)と、限定数の根拠を説明した。
S’NEXTは、ドライバユニットの設計まで手掛け、OEM、ODMメーカーとしても知られる。LAB IIでは、15mmの新開発ダイナミックドライバを搭載。一般的なPET素材を使用しているが、特筆すべきはその薄さだ。通常12ミクロン厚で作るところ、6ミクロン厚という極めて薄いPET素材を使用。この薄さを実現することで、軽量化ができ、"生々しい音”の再現につながる。
細尾氏は「ここまで極薄の振動板は外注先にも取り扱いがなく、そもそもフィルムがない。フィルムの準備から手がけ、すべての作業は川崎の本社でハンドリングすることで実現した。設計も金型もすべてここで行っている」とし、自社生産だからこそ作れたという。
S'NEXTが自社開発にこだわるには理由がある。「例えば自動車メーカーでもエンジンが作れないと寂しい思いをする。イヤホンもそれと同じで、ドライバまで作れることが会社としての肝。ここはこれからもずっと続けていきたい」(細尾氏)と話す。
一方で、共同開発に対しても積極的だ。LAB IIで使用した「シルバーコートケーブル」は、スーパーコンピュータ「京」のケーブルも手掛ける潤工社とのコラボレーション。音質に優れているものの、硬くイヤホン向きではなかったため、実際に使えるものにするまでに約2年をかけて開発したという。
3Dプリンタを使った最先端の製造を手掛ける一方、徹底した手作業で精度を高めたLAB II。細尾氏は「3Dプリンタの登場により職人が不要になるのでは、という声もあるがそんなことはない。逆に3Dの造形データを作れる新たな職人が生まれてくると思う」と考えを話す。
LAB IIの税込価格は45万3600円。開発の工程、素材、手間を加味するとどうしてもこの価格になってしまうという。細尾氏は「ラボラトリーシリーズは、finalが大きなチャレンジをする時に使っているシリーズ名。この広大な音場を生かした新シリーズを2017年に新たに発売する計画だ」と新製品の登場も明らかにした。
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