世界中のミュージシャンとコラボできる音楽制作アプリ「BandLab」--シンガポール発

 シンガポールの音楽系スタートアップ「BandLab Tecnology」。日本ではまだあまり知られていないが、目を見張る快進撃を続けている。2015年11月に音楽制作アプリ「BandLab」の提供を開始した後、オランダの音楽ソフト会社やサンフランシスコのデザインスタジオを次々と買収した。

 そしてこのほど、日本のファンも多い老舗音楽雑誌「ローリング・ストーン」の株式のうち49%を取得した。多面的に事業を展開し、アジアで音楽ビジネスを加速しようとしている。

「BandLab」
「BandLab」

世界中のミュージシャンとコラボできるアプリ「BandLab」とは

BandLabの利用イメージ BandLabの利用イメージ
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 BandLab Tecnologyは、2014年にシンガポールで設立された企業で、クラウド上で楽曲の制作やレコーディングができる音楽ソフトBandLabを提供している。自作の曲を写真や映像と組み合わせて他のユーザーと共有したり、世界中のミュージシャンとのコラボレーションを楽しんだりできる。

 特徴は、若者の音楽の楽しみ方が変わってきていることを踏まえ、スマートフォンやタブレットでも楽曲制作やコラボレーションができるよう、モバイル端末での使いやすさを重視していること。

 モバイル端末から、思い浮かんだメロディーを、その場で録音して離れた場所にいるバンドメンバーたちとシェアしたり、クラウド上に保存した過去の楽曲音源を引き出して編集したりできる。シンガポールの地元紙「ストレーツ・タイムズ」によると、BandLabのアプリは10万以上ダウンロードされ、順調にユーザー数を増やしているという。

アマチュアミュージシャンの経験を基にアプリを開発

 BandLab Tecnology共同創業者でアプリの管理責任者を務めるのは、28歳のマレーシア人・Kouk Meng Ru氏。父は世界最大級のパーム油事業を営む富豪で、Kouk氏は10歳頃から英国に留学。ケンブリッジ大学の数学科を卒業後、家業を継がずに音楽ビジネスの道に進むことを選んだ。

BandLab共同創始者のKouk Menf Ru氏(出典:ストレーツ・タイムズ)
BandLab共同創始者のKouk Menf Ru氏(出典:ストレーツ・タイムズ)

 Kouk氏が音楽に興味を抱いたのは11歳の頃、英国人のクラスメイトにロックバンド「レディオヘッド」の曲を半ば無理やり聞かされたことがきっかけだという。その後、音楽に夢中になり、アマチュアミュージシャンとして楽曲を制作するようになった。

 その過程で、楽曲制作のために最新の音楽ソフトやデジタル技術をいろいろと使ってみたが、メーカーによって仕様が異なり、それぞれの互換性が低く使いこなすことに苦労したという。こうした経験から、自分やミュージシャンがもっと創作活動にだけ集中できるよう、より直感的に操作でき、かつ高額な費用をかけずにクオリティの高い楽曲を制作できるツールとしてBandLabを着想したそうだ。

 ちなみにKouk氏は、バンドではギターとボーカルを担当。自身もアプリのユーザーとして、270曲以上のコラボレーションプロジェクトを楽しんでいる。


世界中のミュージシャンとバンドを結成することもできる(BandLab提供)

アジアの音楽シーンで事業拡大を目指す

 BandLab Tecnologyは、9月14日にサンフランシスコのデザインスタジオ「MONO Creator」を買収した。MONOはプロミュージシャン向けの楽器ケースやストラップ、アクセサリーなどのデザインと販売を手がけている。「レッド・ホット・チリ・ペッパーズ」や「メタリカ」など、有名ミュージシャンがクライアントとして名を連ねる。

 9月25日には、米国の老舗音楽雑誌「ローリング・ストーン」の株式のうち49パーセントを取得。ウォール・ストリート・ジャーナル紙によれば、ローリング・ストーン誌は広告収入の低迷に悩まされており、新領域での事業開拓を模索していた。アジアの音楽市場に大きな価値を感じており、BandLabとの提携により事業拡大を推し進めたい考えだという。

 BandLab Tecnologyとローリング・ストーン誌は、シンガポールに「Rolling Stone International社」を共同で設立。アジア圏でのライブイベントの開催やグッズ販売、日本やオーストラリアなど世界12カ国で展開されているローリング・ストーン誌のライセンスビジネス事業を手がけていく予定だ。

 アジアにおける若年層の人口増加と音楽の楽しみ方のモバイル化、それを支えるモバイル端末の急速な普及を追い風に、BandLabは事業を拡大することができるか。今後、ミュージシャンだけでなくリスナー側のニーズも取り込めるかが、その鍵の1つとなるだろう。

(編集協力:岡徳之)

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