2015年、「爆買い」は流行語大賞となり、秋葉原や新宿で中国人の団体ツアー客が家電量販店などで大量にまとめ買いをする様子がニュースで取り沙汰されました。しかし、昨今、中国人の爆買いの勢いは停滞気味にあります。
観光庁のリリースでは1~3月までの中国人1人当たりの消費額は前年比マイナス11.8%と失速し、ある大手家電量販店では2015年にオープンしたばかりの中国人をターゲットにした免税専門店が早くも閉店に追い込まれ、2016年に入りインバウンドの風向きは変わりつつあります。
その背景には、中国の景気減速、為替の円高に加え、中国政府が国外での購買品への課税を強化したことが影響しており、中国人1人当たりの消費額にブレーキをかける要因となっています。
一方で、訪日客は2015年と比べ増加。特に、FIT(Foreign Independent Tour)と呼ばれる、団体旅行やパッケージツアーに頼らない個人旅行者が増えています。その結果、ニーズの多様化が生まれ、東京・京都といった「ゴールデンルート」以外の地域にも観光客が訪れることで、地方の観光需要創出が期待できるでしょう。
しかし、このインバウンドによって得られる恩恵を、一過性のものではなく継続的に享受していくためには、FITをターゲットに戦略を練る必要があります。不特定多数の訪日客を無差別に狙う方法から、FITのニーズに合わせてカスタマイズ化し、戦略的にリピーター客の創出を狙っていくことが重要となります。
“今”のインバウンド需要を継続させ、地方により恩恵を波及させることは、今後100年で今の人口の半分まで減少すると言われている日本社会にとって、重要な意味を成します。FITが増加する中、今後どのようなインバウンド対策を取るべきか考察していきます。
現在、中国のみならず観光客1人当たりの消費額は減っていますが、訪日客数は依然伸びています。日本政府観光局(JNTO)のリリースによると、2016年の1~5月の訪日客数は972万8200人と、2015年と比べ29.1%の伸び率を示しています。また、下の表のとおり、国別で見ても2015年と比べ訪日客数は増加傾向にあります。
こうした状況の中、特に首都圏で「爆買い」ならぬ「爆泊」によってホテルの空室不足が深刻化しています。観光庁の調査では2015年の外国人延べ宿泊者数は過去最高の6637万人と、前年比で48.1%増と大幅に伸びており、2020年の東京オリンピックでは、ホテル満室の影響による観光客の取りこぼしが懸念されています。
特に空室不足が深刻だと言われている大阪は、宿泊施設の客室稼働率が85.2%と全国で最も高く、全国平均の60.5%と比べても大きく差が開いています。下の図では、都道府県別での客室稼働率を表していますが、大阪をはじめとした首都圏に訪日客が集中している実態がお分かり頂けると思います。
その一方で、地方は旅館の数が減り続け、首都圏との温度差を、この図から感じとることができます。
日本政府は空室不足問題に対して、民泊施設の規制緩和やラブホテルを一般ホテルに改装する際、政府から融資を受けやすくする方針を定めることで、訪日客の受け皿を整えています。ホテルの空室不足は深刻な問題ですが、例えば地方の民泊施設が増えることで、客室稼働率の平準化につながり、多様化していくFITのニーズを満たす意味でプラスに働くのではないかと期待できます。
現状、訪日客の全体の約7割をFITが占めています。特に、欧米圏では9割以上に達しますが、アジア圏ではまだまだ団体ツアー客が多く、中国ではFITが5割程度に留まっています。今後アジア圏を中心に、中間層の拡大、LCC就航便数の増大によって、さらにFITの増加は期待できるでしょう。
FITは、個人の趣味嗜好によって旅行スタイル・プランを決めるため、団体ツアーと比べある程度融通を利かせることができます。そのため、主要な観光地以外にも訪れる機会が増え、幅広い地域を観光するニーズは高まるでしょう。首都圏にあるホテルは空室問題で騒がれている一方、まだまだ過疎化状態の地域旅館にとってFITは優良ターゲットになり得るのではないでしょうか。
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