観光は古くから「あご・足・枕」と言われ、それぞれ、あご=食べる、足=移動する、枕=泊まるという行動に紐づきます。旅にあまり慣れていない旅行客は、比較的「あご・足・枕」にお金をかける傾向にあり、お土産などの購買もこれに含まれます。
添乗員付きのツアーで例えると、朝から貸し切りバスで観光地を巡り、ツアーに組み込まれたレストランで食事をし、そのままホテルまで送迎。そして、お土産は免税店で、初日に現地通貨に両替したお金を全て使い切るよう、スーツケースに収まりきらないくらいお土産を大量に購入。こうした経験は、海外に行かれた方なら一度はあるのではないでしょうか。
しかし、このような旅行スタイルはいずれ飽きられます。初めて行く国であれば、やはり安全・安心なパッケージツアーを利用される方は多いと思います。しかし、同じ国を2回、3回と訪れることになれば、あご・足・枕+土産への支出より、よりディープな特別感のある旅行体験を求めるのではないでしょうか。FITの旅行スタイルに関しても同様のことが言えます。
実際にFIT客の増加によって安宿の需要は高まっています。下の図表で、「hostel × japan」「guest house × japan」の検索数を、2014年6月から2年分グラフ化しています。両キーワードとも検索数は右肩上がりとなっています。
「hostel」「guesthouse」は、どちらも「安宿」という意味ですが、前者は主に欧米圏、後者はアジア圏で使用される傾向にあります。「hostel」の方がよりボリューム数、伸び率も高いことから、アジア圏よりも特に欧米圏の旅行者に需要があると言えます。
欧米圏では既にFITが9割を超えていることもあり、自由な旅行スタイルが定着している傾向にあります。一方でアジア圏もFITは増加しており、それに伴い安宿の需要はさらに増加していくでしょう。
国内でチェーン展開する、ある宿泊施設では、「フラッシュパッカー」を明確なターゲットとして設定しています。フラッシュパッカーとは、バックパッカーよりも多くのお金を旅行に費やす旅行客のことで、食費・交通費・宿泊費を削り、その代わりに特別な体験を求める傾向にあります。
この宿はゲストハウスということもあり、ホテルや旅館にどれだけ多くのお金をかけても体験できない交流が醍醐味です。筆者自身も旅行の際はゲストハウスを利用しますが、宿泊者同士で夕飯を一緒に食べ、スタッフの方が車を運転し一緒に観光地を巡るなど、現地で味わう「おもてなし」はその時々で異なり、毎回が貴重な体験となります。
また、最近では、農村体験型や古民家を改装した宿泊施設、侍・花魁体験といった日本文化体験プログラムを用意したカプセルホテルなど、宿泊費が安いことに加え、訪日客のニーズに合わせ、より日本の個性を生かした宿泊施設が増えています。
冒頭でも述べましたが、今後インバウンドによって得られる恩恵を一過性のものでなく継続的に享受するために、こちらから主体的に、そして戦略的にアプローチしていくことが必要となります。宿泊施設を例にした場合、「泊まる」ことを通して、日本の伝統や地域の特色を感じてもらうことで、結果的に旅の満足度の向上や、リピーターへとつなげる工夫が必要です。
オフラインの「おもてなし」はもちろん必要ですが、ウェブサイトなどのオンラインの活用は、今後さらに重要になります。訪日客が訪日前に予約しやすい環境作りの一環として、多言語対応は必須です。また、交通の案内を分かりやすくウェブ上に記載しておくことも効果はあるでしょう。魅力的に見せるためのビジュアル面も重要ですが、“分かりやすさ”が実際のアクションに影響すると考えられます。
また、1回限りではなく何回も日本に訪れてもらうためには、「また来たい」と思ってもらえるような日本独自のおもてなしをすることが重要です。そのためには、FITのニーズに合わせ、独自のサービスをインターネット上できめ細やかに発信し、訪日前からアプローチをしていくことに加え、滞在している訪日客の満足度向上、SNSなどを通して、より多くの外国人に来てもらえるような仕掛けも必要です。
昨今、急激に訪日客数は伸びていますが、今後、継続的に日本に来てもらうことを考えると、ここ数年が勝負時かもしれません。訪日客へのプロモーション対策の強化・リピーター対策の強化は、FITが増えている今、さらに戦略的な対策が今後の明暗を分ける上で重要な鍵となるでしょう。
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