前置きが長くなってしまいました。日本ABC協会「雑誌発行社レポート」から、最新(2015年7~12月)の数字を紹介します。
まず、単純に、読み放題UUのランキング上位の雑誌を見てみましょう。
第一位は、講談社のFRIDAY。UUは12万を超えます。以下、光文社のFLASH(9万UU)、小学館のAneCan(8万)、学研のGetNavi(7万)と続きます。
次に、各雑誌の紙版の部数を見てみます。上記の図のラジオボタンで、「印刷版_販売部数」をクリック(タップ)してください。
FRIDAYとFLASHの紙雑誌の部数はそれぞれ、14万と9万5000。両雑誌は週刊誌で、電子版UUは月間ベースなので、単純に比較はできない(週刊誌は毎週読者が入れ替わる、と考えると紙部数を4倍すれば比較できるとも考えられますが、ちょっと乱暴なのでここでは元の数字のままとしています。後述する米国雑誌協会では、週刊誌も「月刊総部数」を算出しているようです)のですが、それでも、電子版UUを一種の「部数」と考えると、かなりの規模に成長していることがわかります。
上記のグラフで第三位のAneCanと第四位のGetNaviは、いずれも月刊で、紙の部数はそれぞれ5万2000と4万4000です。前述したように、電子版UUはそれぞれ8万と7万なので、両雑誌の場合、電子版の「部数」が、紙版の「部数」を上回っていることになります。
次に、紙+電子一部売り+電子読み放題の数字を単純に足した数字で、ランキングを出してみましょう。
すべてを足して見ると、やはり紙の部数がものをいってきます。第一位の「家の光」は電子版を出していないようですが、圧倒的な紙部数のおかげで総合一位となりました。
しかし、第二位の週刊文春と第三位の週刊現代は、紙の部数では5万3000部の差がついていますが、電子版UUでは逆に週刊現代が週刊文春を1万3000ほど上回っており、その分、総合部数では差が縮まっています。
次に紙版よりデジタル版(一部売り+読み放題)が多い雑誌だけをまとめてみました。
AneCanとGetNaviについては上にも触れましたので、他の雑誌に目を転じてみると、GoodsPress(徳間書店)の紙:電子比率が約1:2.8と、電子版が紙版の約3倍売れていることが目につきます。MacFan(マイナビ出版)とUOMO(集英社)の比率はともに1:1.8で、電子版が紙の2倍近く売れています。
出版社単位で見るとどうでしょうか。紙雑誌の部数(P)+電子雑誌一部売りの部数(E)+電子雑誌読み放題のUU(S)を出版社ごとに単純に足しあわせて作ったランキングが、以下になります。
黄色のラインは、全体の部数のうち、電子雑誌(一部売り部数+読み放題UU)の占める割合(総デジタル化率)を示しています。
棒グラフの青の部分が紙の部数で、灰色が電子雑誌読み放題、オレンジが電子雑誌一部売りです。
こうしてみると、面白いのが宝島社です。紙の部数では業界第2位ですが、電子を足すと業界第5位に後退しています。
宝島社は電子版部数を今回公開していなかったため、このような結果になっていますが、同社はもともと電子書籍・電子雑誌に懐疑的で、紙に注力することで業績を拡大してきました。2010年には電子書籍ブームは眉唾であるという内容のムックを緊急出版しています(『電子書籍の正体』)。
そのため、たとえ電子版部数を公開したとしても、さほどの数字にはなっていないことが予想できます。
他方、電子版の部数拡大で、全体の部数をかなり伸ばしている出版社もあります。総デジタル化率が36.8%の主婦と生活社、33.7%の世界文化社を筆頭に、30%台後半の講談社、集英社、光文社、2割の日経BP、扶桑社、マガジンハウス、エムオン・エンタテインメントなどが顕著な例です。
もちろん、デジタル版、特に読み放題から得られる収入は、紙の雑誌一部から得られる収入よりも低いはずです。ですから紙の一部とデジタル版の一部を同じには考えられません。
しかし一方で、制作費や流通のためのコストを考えると、電子雑誌は紙の雑誌と比べて圧倒的に安く、しかも変動費(二部目以降にかかるコスト)はゼロです。つまり収入はまるまる利益になるわけです。
dマガジンの毎月の売上は400円×300万人=約12億円にものぼります。そのうち半分はドコモの取り分と言われているので、出版界には毎月6億円、年間72億円ものお金が落ちている計算になります。
それを考えると、かなり大きなインパクトを持ち始めたことがわかります。
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