電子書籍ビジネスの真相

電子雑誌元年がやってきた(前編)--電子「部数」が紙を上回る雑誌も

林 智彦(朝日新聞社デジタル本部)2016年07月01日 12時30分
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Eyecatch photo: ©Jessica Spengler

 2010年ごろから続く「電子書籍」のムーブメントの中で、「電子雑誌」は、どちらかといえば日陰の存在でした。

 理由はいくつか考えられます。一つは、日本と海外の、「出版」ビジネスの違いです。日本では、書籍も雑誌も同じ出版社が手掛ける例が多く、どちらも、基本的には同じ流通ルートで販売されます。

 他方、海外では、書籍と雑誌の出版社は別々のことが多く、書籍は「書店」、雑誌は「ニューススタンド」「雑貨店」と、流通ルートも分かれていることが多いのです。

 そして雑誌は、店頭で買うのではなく定期購読(郵送)で読むもの、という文化が定着している国が一般的で、日本のように決められた発売日に書店に行けば読める、という仕組みにはなっていないのです。

 要するに日本と違って海外では、「書籍」と「雑誌」は別の業界であるところが多く、さらに「電子雑誌」では「電子書籍」と比べると大きな成功例がなかったために、「電子××」の話題は、電子書籍が中心でした。そのため、海外発の情報が主導的な役割を果たした電子出版のムーブメントの中で、電子雑誌の話題は、電子書籍の影に隠れた形になっていたのです。

 電子雑誌があまり話題になってこなかったもう一つの理由は、書籍と違う雑誌の特性にも求められます。

 書籍と違って雑誌では、広告が入るため、販売収入が赤字でも、広告収入が潤沢であれば、ビジネスは成り立ちます。

 そのため、販売部数が低下傾向であったとしても、商売としては実は安泰である、ということがありえます。部数や販売金額など、外から見える数字で実態を把握しやすい書籍と比べて、雑誌は複眼的な視点が必要で、一口に語れないところがあるのです。

 また、多くのメディア評論家が、雑誌の未来について、厳しい見方をしていたことも、「電子雑誌」があまり話題にならなかった理由の一つです。

 一人あるいは少数の筆者が、あるテーマのもとに、ひとかたまりの物語や主張をまとめた書籍と比べて、複数の筆者が、多様なテーマについてさまざまな読み物を提供する雑誌は、ウェブと機能的に近く、ネットの影響をより多く受けやすい立場にある。

 つまり一言で言えば「雑誌はやがて、ウェブに取って代わられる」と思っていた評論家が多かったのです。

 かくいう私も、実は少し、そう思っていたところがありました。そう、「dマガジン」が始まるまでは。

dマガジンで一変した電子雑誌の世界

 dマガジンは、NTTドコモが2014年6月に始めた電子雑誌の「読み放題」サービスです。

 月額400円(税抜き)で70以上(サービス開始当初の数字。現在は160以上、バックナンバーは1000冊以上)の雑誌が追加料金なしで読める、というものですが、実はスタート当初は、今ほど大きな関心を集めていたとは言えませんでした。


2016年3月に300万ユーザーを突破した「dマガジン」

 というのも、電子雑誌サービスは、それまでにも少なくない数の先行者があり、スタートの一時期を除いて、どれもはかばかしい成果を生んだとはいえなかったからです。

 中でも、2009年に始まった「マガストア」と2010年にスタートした「ビューン」は、それぞれサービスインの当初、大いに注目されました。

 特にビューンは、dマガジンと同じく「読み放題」で、料金も月額300〜400円と、ほぼ同じ仕組みでした。

 通信キャリアが手掛けるサービスとしては、電子雑誌だけでなく、電子書籍も含めた事業ですが、2012年スタートの、KDDI「ブックパス」という先行者もありました(こちらは、月額562円で読み放題、というモデルでした)。dマガジンは当初、これらの後追いのように見えたのです。

 ところが蓋を開けてみると、半年で会員が100万人を突破、1年目に200万人、2016年3月には300万を超えた、という発表がありました。それだけでなく、出版社の側から「dマガジンでの売上が急増している」という声が上がり始めたのです。

 「読み放題」のビジネスモデルは、以下のようになっています。毎月の入金額のうち、一定額をプラットフォーム提供者(dマガジンの場合は、NTTドコモ。料率は45%のようです)が取り、残りをコンテンツ提供側(出版社)で分け合います。

 ※(2016年7月1日14時修正:料率を修正し、それに合わせて本文も一部直しました)

 収益を分け合う基準は、公開されていませんが、関係者の証言によると、UU(ユニークユーザー)やPV(ページビュー)を基準に、多少の調整を加えたものが物差しになるようです。たとえば、ある月の、あるコンテンツのUU等が、1万であったとすると、そこに前述のような調整を加えて分配率を算出、全体の収益額からプラットフォームの取り分を取り去った後に残ったお金を、その分配率に従って出版社に分配する……というスキームです。

 ただ、NTTドコモも各出版社も、具体的な数字はこれまで発表してきませんでした。そのため、「儲かっている」という話だけが聞こえてくる状態だったのですが、日本ABC協会は、2015年1~6月分のレポートから、従来の電子雑誌販売部数(一部売り)とあわせて、電子雑誌読み放題のUUを集計・公開してくれました。そのおかげで、やっとその全貌が明らかになったわけです。

 ※すべての出版社が電子雑誌読み放題UUを公開したわけではありません。大手では、KADOKAWA、新潮社、宝島社は非公開となっています。以下、これらの出版社を除いて分析します。

 また、読み放題UUサービスは上述のKDDI、dマガジンのほかにも数社が提供していますが、dマガジンの会員数が飛び抜けて多いことから、UUのかなりの割合が、dマガジンによるものと考えられます。

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