日本で漫画家になるにはどうしたらいいだろう?
一般的には、「持ち込み」だ。漫画雑誌を扱う出版社を訪ね、編集者に会って自分の作品を見てもらう。見込みがあれば担当者がつき、デビューを目指して執筆する――。1人の漫画好きとして、筆者の認識はそんなところだ。
しかし、作家の育成は出版社にとって先行投資。新人が、人気作品を生み出し書籍が売れて、アニメになって関連商品が売れて……と、投資以上を回収するまでのプロセスが確立しているからこそ成立する。漫画産業は、手塚治虫や藤子不二雄といった漫画家や、彼らを支えた編集者という先人たちが築いた礎の上にある。
「ベトナム」に話を転じる。この国には日本のような漫画家を育てられるほど余裕のある、成熟した産業は存在しない。しかし、だからこそ、いまITを使ったアプローチで新しい形の漫画業界が生まれようとしている。
「Comicola」というウェブサイトがある。ページを開くと、美麗に色塗りされたイラストがあり、少し下へスクロールすると漫画作品が並んでいる。それぞれのリンク先では各話が読めるようになっている。
これらはすべてベトナム人漫画家の作品。それだけなら、どの国でも1つはありそうな漫画投稿サイトだが、Comicolaの特徴は別にある。それは、クラウドファンディング機能が備わっている点だ。
サイト上の人気作品には運営会社から書籍出版の打診があり、クラウドファンディングのプロジェクトがスタート。読者による支援(予約販売)が目標金額に達すると出版される。Comicolaは実際に、サービスを開始した2015年1月からこれまでに20タイトルもの書籍を世に送り出した。ただし、Comicola自体は出版ライセンスを持たないため、外部発注という形を取る。
「描いた漫画を出版する」というのは同人誌によく似ている。しかし、書籍を買いたいか否かという、読者からシビアに評価される状況に置かれることを考えれば、Comicolaは、日本とプロセスが異なるものの「漫画家を育てている」と言えるのではないだろうか。
このサービスの創業者は2人、Nguyen Khanh Duong氏とHoang Anh Tuan氏。彼らは「Phong Duong Comics」という漫画家ユニット(Duong氏が原作、Tuan氏が作画)でもある。活動歴は10年以上、日本の外務省が主催する外国人漫画賞で受賞するほどの実力を持ちながら、かつて作品を連載していた雑誌が廃刊になり書籍を出せなかった経験からComicolaを立ち上げた。ベトナムの漫画産業の礎を築いている最中である。
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