インドネシア人は、人と人とのつながりを非常に大切にする。ゆるやかな集まりから正式な組織にいたるまで、ゴトンロヨン(相互扶助)の精神とともに、ずっとお互いを支え合いながら暮らしを営んできた。
そんな彼らの伝統的な行事として、「アリサン」と呼ばれるものがある。日本でいう、無尽(むじん)や頼母子講(たのもしこう)に近い。親戚や友人、同僚、ご近所同士で定期的に集まり、食事やおしゃべりを楽しみつつ、各自から一定の金額を集める。そしてくじ引きをして、当選した人はそのお金が手に入る。これを、参加者全員が当選するまで繰り返す。
マイクロファイナンスの一形態とも言えるが、これに興じる層は、必ずしも貧困層に限らない。高所得者層にとっては、思いきりおしゃれをして仲間たちと人気のレストランを食べ歩く女子会のような意味合いもあるだろう。1人で2~3のアリサンに参加するケースも非常に多い。
広大な土地と300もの種族を抱えるインドネシアは地域差が非常に大きく、1つのエリアでの現象をインドネシア全体のそれとして語ることには常に危険がともなう。その点このアリサンは、比較的全国に広く深く根付いている行事と言えよう。
「Arisan Mapan」は、このアリサンをオンライン化したサービスだ。2015年4月から試験的にスタートと比較的まだ日は浅いが、現在すでに10万人のメンバーがいる。このほどインドネシアのギネスブックMURI(インドネシア世界記録博物館)に「参加者最多のアリサン」として認定された。
開発運営をしているのは、同連載で過去に紹介したこともある現地ベンチャー企業RUMA 。ジャワ島とバリ島に持つ60の支店を中心に、地域コミュニティのリーダーを1軒1軒回ってリクルートすることでメンバーを増やしている。
欲しいものがあってもお金がない、分割払いだと利子の負担が大きい、貯金をしても貯まった時にはすでに値上がりをしている……などといった悩みを抱える女性たちから支持を受けているという。
Arisan Mapanの使い方は次の通り。
3カ月に1度発行されるカタログにある商品は、衣類、調理器具、電化製品など多岐にわたり、メンバー各自がどれでも好きなものを選べる。例えば、1500円程度の子どもの通学かばんを買うメンバーもいれば、3万円程度の32インチのLEDテレビを選ぶメンバーもいる。
リーダーにはインセンティブとして、電化製品の場合価格の5%、非電化製品の場合価格の10%の現金がRUMAから支払われる。それはリーダーの生活費の足しとなるわけだが、彼女らは常に自分のためにお金を使うわけではなく、貧しい子どもたちに筆記用具を買って与えたりするなど、地域全体の役に立てるケースも多い。
また、メンバーの女性たちにとっては、手が出せなかった必需品を気軽に入手できるだけでなく、ミシン、ミキサー、冷蔵庫、オーブンなどを購入することで、縫製業や屋台のジュース売り、焼き菓子売りといった商売を新しく始めることもできる。
信頼関係が確立された地域コミュニティに密着したシステムのため、「本当に商品が受け取れるのか、お金を持ち逃げされないか」といった心配もない。知り合い同士で助けあって生きていこうという強力な動機が、そこにはある。
RUMAのCEOアルディ・ハルヨプラトモ氏いわく、Arisan Mapanのアプリやウェブサイトは、普段SMSと電話くらいにしか使われていない型遅れのスマートフォンや劣悪なネット環境でもスムーズに利用できるようにデザインされているとのこと。
今はまだあえてジャワ、バリに限定し、安定したサービスを提供できるよう基盤を整えている。そして、いずれはスマトラ、スラウェシ、カリマンタンといった別地域にも展開をしていく意向だという。
(編集協力:岡徳之)
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