スタートアップに知ってもらいたい、特許についての3つの大きな誤解 - (page 2)

大谷 寛(弁理士)2016年05月31日 09時00分

特許は防御ではなく攻撃

 特許は防御という話もよく聞きます。何を「防御」しているのかよく分からないことが多いです。

 特許権とは、他社はあなたの許可がなければあなたの発明と同じことはできないという威力をもつ権利です(第1回第3回)。ですので、競合である他社にみなさんのプロダクトを支えている発明の模倣を牽制し、模倣が発生した場合にはそれを差し止めることのできる権利です。あくまで競合に対して行使して、もしくは行使可能性により牽制して、安易な模倣を思い止まらせるのが役割であり、競合に対する攻撃の武器というのが特許権の本質です(第12回)。

 複数の事業を抱える大企業に話を移すと、確かに防御という側面はあります。少し長くなりますが、たとえば次のような事例です。

 企業Xが事業AおよびBを主力事業としていて、企業Yが事業Aを主力事業としています。企業Xは事業Aにおけるリーダーで、事業Aを展開する上で必須の特許権を保有しています。他方、企業Yは事業Aを主力事業として位置付けていて売上を急激に伸ばしているものの、企業Xより出遅れた結果、あまりよい特許出願をすることができていません。

 企業Xとしては成長市場においていち早くユーザーを獲得することに注力してきましたが、企業Yによる自社プロダクトの模倣が目に余るため、特許権aを侵害しているとして警告書を送付しました。


 企業Yは現在は事業Bから撤退していますが、数年前までは事業Bも主力事業の1つとして注力していたことから、重要な特許権をいくつか保有していました。そこで、企業Xの事業Bにおけるプロダクトを分解して精査したところ、特許権bを侵害している可能性が高いことが判明。反撃として、企業Xからの警告書に対して特許権bの存在を伝え、特許権aを企業Yが侵害しているとの主張を続けるのであれば、直ちに特許権bに基づく特許権侵害訴訟を提起する旨を回答しました。

 このようなケースでは、企業Yとしてはすでに撤退した事業Bにおける特許権bを保有していたことが、事業Aにおける企業Xからの攻撃に対する防御としての役割を果たしています。最近では、特許権bを反撃のために買ってしまうという事例もあります。いずれにしても、新たな事業を切り拓いていくスタートアップは企業Yとは置かれている環境が異なります。

 あえてスタートアップが特許権を保有することで防御しているものがあるとすれば、競合による模倣を抑制して市場におけるシェアを守っているということはできます。しかしそれも、競合に、模倣をしたら攻撃を受けるという脅威を感じさせることによって、結果として市場シェアの低下が防がれるという関係です。

 まだまだ誤解はありますが、特に大きな3つの誤解を紹介しました。

 ご質問がありましたらLINE@で。

大谷 寛(おおたに かん)

大野総合法律事務所

弁理士

2003年 慶應義塾大学理工学部卒業。2005年 ハーバード大学大学院博士課程中退(応用物理学修士)。2014年 2015年 主要業界誌二誌 Managing IP 及び Intellectual Asset Management により、特許分野で各国を代表する専門家の一人に選ばれる。

専門は、電子デバイス・通信・ソフトウェア分野を中心とした特許紛争・国内外特許出願と、スタートアップ・ベンチャー企業のIP戦略実行支援。

Twitter @kan_otani

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