――ブラジャーのホックを開くためのアルゴリズムや、センサのしきい値について詳しく教えてください。
鴨井氏:アプリが心拍数を受け取って、ブラジャーのLEDを光らせて、ホックを開かせる、という構造自体はわりとシンプルなので、結構簡単にできるんですよ。けれど、心拍数というのは簡単に上がったり下がったりするので、その辺りを調整するのに苦労しました。
清水氏氏:何度もテストをして独自に換算したのですが、「恋愛のとき」「スポーツをしたとき」「驚いたとき」の違いを導かなければいけませんでした。その値の設定に一番時間をかけましたね。
鴨井氏:心拍数のベストな数値はどこかを検証するために、ホテルの一室を借りて実際のカップルを何組か呼んで心拍数を測るという実験をしたのですが、辛いものを食べた時など、さまざまな状況で心拍数は上がってしまうので、恋愛のときだけ上がるように検証を重ねました。
杉山氏:瞬発的に心拍数が上がると、ホックが外れてすぐ終わってしまう。どれだけ時間が経ったときに、ホックが外れたら気持ちが上がるんだろうという、場面を想定したものを、どう数値に落とし込むべきかというところは結構悩みました。
――他のバイタルデータ、たとえば脳波を使うという話はなかったのでしょうか。
清水氏:企画段階では、いろいろなアイデアがありました。脳波や、発汗、体温など、インプットが多ければ多いほど取得できる情報が多く、装置や分析は大変になりますが、時間をかければアウトプットの精度は高まるはずなんです。しかし、今回はハードウェアをブラジャーにおさめる必要があったので、断念せざるを得ませんでした。そういう意味では、パットにすべてを収めるためにいかに小型化するかということに一番苦労しましたね。
素肌に身につけるものなので、人体への影響という点でも工夫が必要でした。エンジニアチームで試行錯誤した結果、フロントホック部分は、瞬間的に高電圧をかけるとロックが解除される構造になっているのですが、人体に悪影響が出ないレベルで瞬間的に高電圧をかけるために、(インスタントカメラの)「写ルンです」のフラッシュで使われているコンデンサを組み込むなどの工夫をしています。
――もし、このブラジャーを製品化しようとする場合、どの部分がクリアできたら誰でも使えるようになるでしょうか。
杉山氏:すでに使えるようにはなっているんです。プロモーションの一環で、ホテルで1日貸し出すという体験イベントをやって、そこで実際に使ってもらいました。
ただ、これを大量生産して一般市場に出すとなると、安全面やコスト面を考えなければいけません。あと、ブラジャーは洗濯もしなければいけないので、そのあたりもクリアする必要があります。
清水氏:電気を使う以上はバッテリが必要です。小型で長持ちするバッテリと、どれくらいの頻度で充電が必要なのかといった電力供給問題は大きな課題になります。たとえば、肌に触れる部分と電気部品を分断できるような構造にするなど、もし本当に量産するならそれに合わせた方向で設計・検証が必要になりますね。
インタビューの後編は5月17日(火)に掲載予定
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