人工知能(AI)の研究開発に携わる有識者を招いて行われる定例会「シンギュラリティ・サロン」の第13回公開講演会がグランフロント大阪のナレッジサロンで開催された。今回はマクロ経済学の視点からシンギュラリティを研究する駒澤大学経済学部の井上智洋氏を講師に迎え、「第2の大分岐-汎用人工知能は雇用を奪うか?経済成長をもたらすか?人々は遊んで暮らせるか?」というタイトルで、AIが経済や雇用に与える影響について話が行われた。
本サロンはこれまで、主にコンピュータや脳科学の分野から人工知能の研究を行う専門家が講師として招かれていた。井上氏はマクロ経済学者という今までにない立場から人工知能の研究に取り組んでおり、AIの登場が人々の生活や仕事にどのような影響を与えるのかといった身近な疑問について研究している。
今回は論点として、(1)AIの発達は経済成長をもたらすのか(2)雇用を奪うか(3) 遊んで暮らせるようになるのか──という3点をとりあげ、その背景にはどのような技術や社会背景があるのかなどを解説した。
井上氏は今後、人工知能が普及するロードマップとして、囲碁AIのAlpha Goや自動運転自動車など、特定の分野で能力を発揮する特化型AIの時代はすでに訪れているが、2030年に人と同じレベルの知性を持った汎用人工知能(以下汎用AI)が登場すると分析。それによって、第4次産業革命という大きな技術革命がもたらされると考えている。第4次産業革命は、安倍政権が発表した今年の成長戦略の目玉でもある。
汎用AIは普及するまで15年ぐらいかかるが、それがちょうど2045年と予測されているシンギュラリティの到来に当たり、社会や経済構造を大きく変える可能性があるとしている。
それまでに最も影響を受けるのが労働で、すでにホテルの受付業務や携帯電話ショップの窓口対応など、肉体労働を伴うサービス業が人工知能を持つロボットによって一部肩代わりされる動きがはじまっている。オックスフォード大学の研究報告によるとスーパーのレジやフロント、保険の販売代理店員などの仕事は10年以内に90%の確率で消えるとされており、特化型AIによる技術的失業の時代がやってくる。
特に中間層の雇用破壊が生まれる可能性が高く、以前は肉体労働に移行できたが、その部分をロボットなどに肩代わりされるため、頭脳労働へ移行する必要が出てくる。そうした変化に対応するには、今後はハイレベルな知識労働にシフトできる教育を行う必要があり、たとえば、クリエイティビティの育成に力を入れることが挙げられる。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」