「iFデザインアワード」は、工業製品などの優れたデザインを表彰するデザイン賞の1つ。1953年に設立され、60年以上の歴史を誇る。20を越える国々から集まる約60名の専門家が審査員になっており、審査方法も実物を1箇所に集め、実際に見て、触って、動かしながら選定していくユニークな方法を採用する。
3月に授賞式を開催した「iFデザインアワード 2016」では、約6000のエントリーがあり、うち75点を金賞として選出。日本からも約360点の応募があり、7製品が金賞に輝いた。
iFデザインアワード 2016の金賞を受賞した、キヤノン、ニコン、ソニーの3社4製品のデザイン担当者が語った「デザインのプロセス」を全4回で紹介する。
今回は、キヤノンの業務用4Kビデオカメラ「XC10」のデザインを手がけたキヤノン 総合デザインセンターの森隆志氏が語る、新スタイルカメラのデザインのポイントとは――。
キヤノンは、22年連続でiFデザインアワードを受賞している、いわば常連。XC10は「プロスペック4Kを手のひらに」を実現したコンパクトさが目をひく。
本体は高さ102mm×幅125mm×奥行き122mmで、重量約930g。「業務用カメラながらコンパクト。キヤノンの従来の業務用カメラと比較しても大幅に小型化したことがわかる」と、いかにコンパクトさを追求したかを森氏は強調する。
4Kカメラを小型化すれば、撮影時にアングルを素早く変更したり、三脚などの機材に取り付けやすかったりと操作性が格段に向上する。昨今ではカメラに合わせるドローン自体を小さくでき、狭いスペースでの撮影にも有利だ。
しかしXC10はプロスペックを備えた業務用カメラ。4K動画に加え静止画撮影機能も備え、高機能や頑丈さがハードウェアに求められる。森氏は、製品の特長を踏まえ、3つの課題を洗い出した。
「動画と静止画、どちらも撮影できるため、使いやすさの両立は非常に難しい。そこでフレキシビリティの高いハードデザインを採用した」と森氏は解決方法を話す。
XC10では、フリーストップの回転グリップと、レンズとインラインに配置したチルト液晶の可動部によって、静止画、動画の撮影に即したホールディングを提案する。
「動画撮影では、一定時間安定して保持し続けることが必要。グリップ、液晶を回転させることで、ローアングルやハイアングルでも安定した保持を可能にした。一方静止画撮影では、狙った一瞬をブレなく保持しなければならない。グリップを正位置にセットすることスチルカメラと同様の構え方ができる」と言う。
また、ビューファインダーをモニタに直接取り付ける構造にすることで、外光に影響を受けない4K画質のモニタリングやグリップ、レンズ、接眼部の3点での安定した保持を実現した。
画面操作は、フレキシブルなハードに連動し、新GUIを採用。「親指の可動範囲に着目し、撮影時は右側に必要なメニューを設定。これにより握り直すことなく撮影ができる。またジョイスティックでも操作ができるため、タッチ、ジョイスティックの両方から操作ができる」形を選んだ。
可動するパーツによってホールディングの良さを実現したXC10だが、回転グリップのトルク感、静止画撮影時の正位置でのクリック感などを重視し、プロのユーザーが使ってもストレスを感じない使い心地を追求した。「小気味良いグリップ感と高耐久性の両立。フォーカスリングは細かく設定できるよう操作性を高める回転トルクを採用した」と、細かな部分まで徹底した作り込みをしたと森氏は話す。
iF DESIGN AWARDでの評価ポイントは「静止画撮影と動画撮影の異なる要求をバランス良く満たしていること。グリップとレンズの総合関係が工夫されており、特にローアングル撮影が優れている」とのこと。
金賞受賞を受け「課題に対して真摯に解決していった点が評価をしていただけた。審査に対しては実際に触っていただいていることが実感できた」と、森氏はコメントした。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス
「程よく明るい」照明がオフィスにもたらす
業務生産性の向上への意外な効果
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」