在インド日本大使館「インド進出日系企業リスト」によると、日系企業は年々増加を続けている。ただし、業種別で見ると製造業が半数を占めており、特に自動車、電器関連のメーカーが多い。
一方で、生活消費財メーカーの進出は少ない。東南アジアで日本製品があふれているのとは対照的である。インドのスーパーでよく見かけるブランドはトップラーメン(日清食品)、ヤクルト、マミーポコパンツ(ユニチャーム)など数社。業種で見るとまだまだ偏りがあるといえる。
その理由をいくつか挙げてみようと思う。
近年緩和されつつあるとはいえ、インドは外資規制の厳しい国である。そのため、従来は現地法人の設立にあたり、外資規制をクリアするため合弁会社を設立することが多かった。合弁会社の設立は現地の人材確保や人脈の構築においてメリットも大きいが、信頼できる合弁パートナー企業を見つけることは容易ではなく、主張が強く議論に長けているとされるインド人相手であればなおさらである。
では独資ではどうだろうか。規制の中でも利益をあげられるビジネスプランが明確であれば、独資の方が意思決定は容易で小回りも利く。JETRO(日本貿易振興機構)が2012年に実施したアンケートによると、2002年までに進出した企業では48.1%が独資であるのに対し、2008年以降に進出した企業では80.5%と増加している。
ただし、日本人主体でビジネスを拡大するには多くのハードルを越える必要がある。同調査によれば「人材・労務管理」や「財政界との人脈」などについて、多くの独資企業が課題を抱えているという結果が出ている。人が関わる部分において独資企業が不利であることは否めない。
インドの国土は日本の約9倍である。人口100万人以上の都市が50近くあり、一つ一つの距離も非常に遠い。また、インド国内には小売店舗数が1400万超あるとされるが、その多くは家族経営の小規模店舗である。ショッピングモールに入る近代的な小売店(モダン・トレード)も都市部では増加傾向にあるが、インド人口の大部分を占める中間層以下をターゲットとするのであれば、近代小売店だけでは不十分である。
さらに小売業に対する外資規制は強く、基本的には自社商品のみを販売する単一ブランド小売店のみが許可されている。そのため日系のコンビニエンスストアが展開できておらず、日系企業にとっては「販売チャンネル」が大きな問題になっている。
中国や東南アジアにおいては「日本製品は優れている」という、これまでに築かれたブランドがある。また、街中にも日本製品があふれており、現地の人々に当たり前のように購入されている。一方、インドにおいてはそういったものが全くない。私は広告の仕事をしているが、最も困るのがその点である。
顧客からは「ジャパン・クオリティ」といった訴求軸を入れたいという依頼がくるが、インド人には意味が伝わらない。日本に対する印象は悪くはないが、インド人に対して「カレー」や「ターバン」を連想する日本人がいるように、インド人の日本への印象はそれほど明確ではない。そうなるとやるべきことは、製品が素のままで受け入れられるようなローカライズである。
サムスンは「地域専門家制度」によって、多くの国への進出を成功させている。これは若手社員を海外に派遣し生活させる制度だが、1年間は会社の仕事はせずに人脈づくりや言語・文化の学習によって現地に馴染むことに集中する。インドにおいては鍵付きの冷蔵庫が有名だ。インドでは中流以上の家庭のほとんどはメイドを雇っている。彼らによるつまみ食いを防ぐために鍵付きの冷蔵庫を発売したところ、大ヒットした。
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