“伝統×IoT”で生まれた新世代の遊び「電玉」の挑戦--世界的ブームを狙う

山田井ユウキ2016年03月19日 10時00分

 グローバルに通用するビジネスを生み出そうとするスタートアップ企業を支援するため、KDDIが2011年から主宰するインキュベーションプログラム「KDDI ∞ Labo」。その第9期生によるプレゼンテーションイベント「DEMO DAY」が2月22日に開催され、6社が登壇してプレゼンを行った。3月22日まで第10期を募集している。

  • 電玉のプロトタイプ

 第9期のDEMO DAYでオーディエンス賞を獲得したのは、けん玉を“デジタルおもちゃ”にする「電玉(でんだま)」を開発した電玉チーム。電玉は加速度やジャイロなど、さまざまなセンサを搭載したことで対戦を可能にした次世代のけん玉。現在クラウドファンディング「Makuake」で先行販売をしており、けん玉業界からも熱い視線が送られている。

 電玉はいかにして生まれたのか。開発の経緯とKDDI ∞ Laboでのエピソードを電玉のCEO・大谷宜央氏、ハードエンジニア・渡辺諒氏、CFO&デザイナー・田邉愛海氏に聞いた。

--電玉の社員は何名ですか。

電玉のCEO・大谷宜央氏 電玉のCEO・大谷宜央氏

大谷:6名です。実は登記したのも最近なんですよ。電玉の開発中に法人化しました。

--そもそもけん玉とIoTという組み合わせはどのようにして思いついたのでしょう。

渡辺::けん玉ありきだったわけではなく、高齢者が若者とコミュニケーションできるプロダクトを作りたいと思ったんです。「孫が遊んでくれないんだよね」など、そんな話をよく聞いていたので。それならけん玉にゲーム性を加えたらいいんじゃないかと。

大谷:他にも候補はありました。あやとりとか、だるま落としとか。その中でけん玉を選んだのは、最初は単純に面白そうだったからですね。

渡辺:ニッチなものがいいと思ったんです。ヨーヨーとかベーゴマって、もう最新技術で商品化されてるじゃないですか。まぁ、けん玉も蓋を開けてみるとぜんぜんニッチじゃなくて、世界中でブームになっているくらいだったんですけど(笑)。

大谷:僕らの理念は「伝統×最新技術」なんです。伝統に技術を加えることで、さらなる価値を生み出そうという理念から電玉が生まれました。

--電玉はどんな特徴を持っているのでしょう。

  • 電玉プロトタイプの中身

大谷:お皿と剣先にセンサがついていて、情報を通信モジュールでスマホに投げるのです。けん玉って、玉をお皿に入れるだけじゃなく、玉の方を持って剣先を入れたりといろいろな技のバリエーションがあります。電玉はどんな姿勢をとっているかをセンシングできるので、そういった技もきちんと情報がとれるんです。センサでとった情報はアプリに送ったり、よりエフェクトをかけられたり、より大きな画面で見たりできます。大画面で派手なエフェクトつきのけん玉を見たら楽しいと思いますよ。また、世界中のプレーヤーとネット対戦も可能です。

--けん玉だけで遊ぶというよりも、けん玉をインターフェースにしたゲームを楽しむということですね。

大谷:そうですね。APIも公開していこうと思っています。

--皆さんが、このKDDI ∞ Laboのプログラムに参加することになったきっかけは?

大谷:偶然なんです。以前に参加していたau未来研究所というハッカソンにKDDI ∞ Laboの方がいて、そのご縁で参加させていただきました。実はここにいるメンバーもそこで同じチームだったんです。

渡辺:気づいたら一緒に電玉を作ることになっていました(笑)。

田邉:同じですね。気づいたら巻き込まれていて、でもこのチームでデザインできるのは私だけだし、行くしかない! と思って。

--まさに縁ですね。それでコンセプトが決まり、KDDI ∞ Laboでメンターの協力を得ながら開発を進めることになったわけですね。

大谷:でも最初はいろいろなコンセプトがあったんですよ。

電玉のハードエンジニア・渡辺諒氏 電玉のハードエンジニア・渡辺諒氏

渡辺:けん玉でいろいろなことをやろうとしていましたね。剣先が飛び出すとか、くっついて離れなくなるとか。そうやって話し合っているうちに、センサを積んだらいいんじゃないかという話が出てきたんです。

大谷:au未来研究所にいたこともあって、ものづくりはできそうだと思われていたかもしれませんが、企画や理念の部分で随分ダメ出しされましたね。

--ハードウェアの開発で難しさはどうでしたか。

渡辺:中に入れるセンサを外から調達するのではなく自作したので、そこは苦労しましたね。実際に動くものができても、じゃあそれを量産できるのか。暑くても寒くてもシーズン問わず動くようにするにはどうすればいいのか。試行錯誤を繰り返しました。

大谷:製造面についてはジェネシスさんにアドバイスをいただきました。ジェネシスさんの工場は中国にあるので、自腹でそこまで行っていろいろ勉強させていただいたり。

--そしてDEMO DAYでプレゼンを行い、オーディエンス賞を獲得されました。今後はどんなふうに電玉を世に出していくのでしょうか。

大谷:DEMO DAYは、すごく大きな反響がありました。いろいろな方と接点を持てるきっかけにもなりましたね。現在、Makuakeでクラウドファンディングを実施中です。まず1000個量産して、今後のことを考えたいと思っています。BtoCで販路を作っていくのはもちろん、BtoBにも展開したいですね。

渡辺:けん玉が流行っているので、20~30代の層にぜひ使ってもらいたいです。認知度が上がったら高齢者にも遊んでほしいと思います。

--海外進出も?

大谷:もちろん。米国でもクラウドファンディングに出していきます。国内ではKDDIショップに置いていただいたり、影響力のある人に遊んでもらってSNSで発信していただきたいですね。

--大手玩具メーカーと手を組むという方法もありそうですが。

大谷:それがEXITの話でしたら、そのとき考えます。

--田邉さんは電玉のデザイン担当ですよね。外観で苦労したことなどは?

電玉のCFO&デザイナー・田邉愛海氏 電玉のCFO&デザイナー・田邉愛海氏

田邉:まず、けん玉のデザインをしたのが初めてということですね(笑)。けん玉って形が決まっているものですし、実は規定のサイズがあるんです。それに収めながらセンサをどう詰めていくか。伝統的なけん玉らしさも残しつつパッと見で新しいと思ってもらうためにはどうすればいいか。そんなことをずっと考えていました。

--サイズも決まっているのですね。けん玉の世界も奥が深そうです。

大谷:本当にそうですね。日本にも「日本けん玉協会」と「グローバルけん玉ネットワーク」という二つの団体があるんですよ。今回の電玉は両方から声をかけていただいていて、今後おもしろい展開にしていければと思っています。

渡辺:世界大会もあるし、世界中にけん玉コミュニティがあるんです。そのコミュニティをうまく巻き込んでブームを作りたいですね。

--電玉の“次”をもう考えていたり?

大谷:考えてはいますが、電玉が予想以上の反響だったので、しばらくはこちらに注力します。

--電玉でどんな世界を作りたいですか。

大谷:学生がダーツやカラオケに行くような感覚で電玉を遊ぶような時代になると最高ですね。

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